知能と意識は全くの別物=ハラリ著「21世紀の人類のための21の思考」を読みながら

WST National Gallery Copyright par Duc de Matsuoqua

 12月某日、木曜日。日本を代表する週刊誌「週刊文春」と「週刊新潮」の発売日。朝の通勤電車内。7人掛けの椅子に座っている7人のうち5人、その前に立っている9人全員がスマホの画面とにらめっこしていました。週刊誌を読んでいる人、ゼロ、新聞を読んでいる人、ゼロ。本を読んでいる人、1人。それは私でした。

「サピエンス全史」が世界的なベストセラーとなり、現在、世界的に最も著名になった歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ著「21世紀の人類のための21の思考」(河出書房新社、2019年11月30日初版発行)を今、読んでいます。

 まだ、半分しか読んでいませんが、私的には、ブログを書くことが「主」で、本を読むことは「従」なので、まだ途中なのにこの本のことを語ろうとしています(笑)。実は、私はハラリ氏の前作「サピエンス全史」も「ホモ・デウス」も読んでいません。が、梗概だけは何となく知っています。そして、ハラリ氏がインタビューされている番組をテレビで見たことがあり、大変頭脳明晰ながら、かなり、かなりの饒舌家で、しゃべる速度と内容が思考の回転について行っていない様子で、ところどころで矛盾するように思われる箇所もあり、「内容明晰・意味不明」に陥っている感じでした。

 この本を読んでも同じ印象を受けました。論理展開が早すぎるのです。現代の話かと思ったら、1714年のバルセロナの大虐殺が出てきたりします。本人は納得していても、読者はついていけない面がありました。それでも、不思議にも4分の1ほど読み進めていくと、彼の策略に嵌ったかのように、分かってきます。なぜなら、環境問題にせよ、雇用問題にせよ、第1次資料は、市販かネット上から拝借された新聞や雑誌の記事や、テレビからの情報が多いからです。毎日、新聞を読んでいる人なら、そして世界史の知識があれば、目新しい話はなく、ついていけないことはありません。

 それよりも、ハラリ氏を有名にした言説の一つは、前作「ホモ・デウス」で明らかにした「人工知能(AI)とバイオテクノロジーの力でごく一握りのエリート層が、大半の人類を『ユースレスクラス(無用者階級)』として支配するかもしれない 」といった推測でしょう。彼は歴史学者であり、未来の予言者ではないので、必ずしも将来、彼の推測した通りにはならない、とひねくれ者の私なんか思っているのですが、耳を傾ける価値はあると確信しています。(私なんか、若いハラリ氏の容貌と体形がどうも未来の人類か宇宙人に見えてきます)

本書ではこんなことを書いています。

 吉報が一つある。今後少なくとも数十年間は、人工知能(AI)が意識を獲得して人類を奴隷にしたり、一掃したりすることを決めるというSFのような本格的な悪夢に対処しなくて済みそうだ。私たちは次第にAIに頼り、自分のために決定を下してもらうようになるだろうが、アルゴリズムが意識的に私たちを操作し始めることはありそうにない。アルゴリズムが意識を持つことはない。

 …現実に、AIが意識を獲得すると考える理由はない。なぜなら、知能と意識は全く別物だからだ。…(ただし、)AIが独自の感情を発達させるのが絶対に不可能ではないことは言うまでもない。不可能だと言い切るほど、私たちは、意識についてよく分かっていない。(99~100ページ、一部漢字改めなど)

 これは非常に分かりやすい論法であり、大いに納得します。

 人類のほんの数%の人間だけが、富と権力を独占し、残りの多くの人間がAIによって仕事を奪われて、不要階級に没落するというおっとろしい御託宣よりも…。(つづく)