「新疆ウイグル自治区の現代史」と「感染症と情報と危機管理」=インテリジェンス研究所主催「諜報研究会」を初めてZoom聴講

Tokyo landscape Copyright par Duc de Matsuoqua

◇「Zoom会議」初体験

 土曜日、生まれて初めて「Zoom会議」なるものに参加しました。インテリジェンス研究所(山本武利理事長)主催の「第33回 諜報研究会」の講演です。

 参加、とは言っても、聴講といいますか、舞台のそでからそっと覗き見するような感じでしたが…。でも、割合簡単に聴講できました。iPadにZoomのアプリをダウンロードし、主催者から送られてきたメールの「ミーティングに参加する」というタッグをクリックしただけで、簡単に繋がりました。

 新型コロナの影響で、同研究所の講演会はもう一年近くZoomで開催されていましたが、私の場合、長時間に耐える家のWi-Fi環境が整っていなかったため、見合わせておりました。今回参加できたのは、携帯スマホを楽天モバイルに換え、これは無制限にデータが使えてテザリングを利用すれば、パソコンなどに繋がることも分かり、早速試してみたのでした。

 今時の大学生は、ほとんどこうしたオンライン授業が主流になった、と聞いてますが、やはり、講義は「生の舞台」には劣りますね。ま、言ってみれば、歌舞伎の舞台中継をテレビで見ているようなものです。

◇複雑な新疆ウイグル自治区の成立

 肝心の講演ですが、お二人の講師が登壇しました。最初は、東大先端科学技術研究センターの田中周(あまね)特任研究員による「新疆における中国共産党の国家建設:1949-1954年の軍事的側面を中心に」で、もう一人は、加藤哲郎一橋大学名誉教授で、「パンデミックとインテリジェンス」のタイトルで、実に複雑な奥深い、そして何よりも大変難解な講義をされておりました。

 最初の田中氏の新疆ウイグル自治区の「歴史」は、全く知らないことばかりでした。新疆ウイグル自治区といえば、イスラム教のウイグル族が住む地区で、最近では、米トランプ政権のポンペオ国務長官が「中国政府はウイグル族に対してジェノサイド(集団虐殺)を犯している」と非難し、次のバイデン政権のブリンケン国務長官も同意を表明して、俄然、世界的にも注目されていることは皆様ご案内の通り。

 田中氏の講演は、1949年~54年の中国共産党政権による”新疆併合””の話が中心で、そこに、ソ連スターリンの意向や、毛沢東や周恩来は新疆を早く「併合」したくても、他の地域との戦闘などでなかなか進出できなかった(毛沢東の実弟毛沢民は、新疆のウルムチで暗殺された)ことや、新疆地区内部にも共産党派と反共派と国民党派などが複雑に絡み合っていたことなどを初めて知りました。

 確か、中国には56の民族があり、宗教も違えば文化も言語も違います。広大な面積の全土を「統一」することは至難の業です。中国共産党が新疆ウイグル自治区を何よりも欲しかったのは、同地区には「白と黒」の経済の要(かなめ)があったという話が一番興味深かったでした。白とは綿花で、黒とは石油のことです。

◇核実験の場になった新疆

 そして、何よりも、ある参加者が「質問コーナー」で指摘されておりましたが、1960年の中ソ対立をきっかけに、中国共産党は核武装に踏み切り、その核実験を行ったのが、この新疆ウイグル自治区だったというのです。その質問者の方々らは、2011年の東日本大震災と福島原発事故の後、密かに放射能測定器を持参してこの地区に入ったところ、いまだに福島のホットスポットより高い放射能の測定反応があったという話には驚いてしまいました。

◇旧内務省官僚の復活

 続く、加藤一橋大名誉教授による「パンデミックとインテリジェンス」は、映画「スパイの妻」や731石井細菌部隊の話あり、スパイ・ゾルゲ事件の話あり、太田耐造ら「思想検察」を中心にした戦時治安維持の話あり、戦後も、旧内務省官僚の復活と再編を目論むような危機管理と国家安全保障体制の話(今、菅首相と最も頻繁に面会しているのは警察官僚出身の北村滋・内閣情報官=1956年12月生まれ、東大法学部卒、1980年警察庁入庁=であること)などあり、あまりにも複雑多岐に渡り、勿論、いずれも共通の「糸」で繋がりますが、ちょっと一言でまとめるには私の能力の限界を越えておりました。

◇世界でも遅れている日本の感染症対策

 ただ、一つ、特筆したいことは、今の新型コロナウイルス感染症対策の専門家会議の主要メンバーは、国立感染症研究所(⇦伝染病研究所)、医療センター(⇐陸軍病院)、慈恵医大(⇦海軍病院)関係者らが含まれているとはいえ、感染症研究については、日本は戦後、がん研究やゲノム分析の方に人材や資源を投入したため、大幅に予算も削減され、先端研究の面で大きく世界から取り残されてしまったという事実です。

 ですから、日本先導のワクチン開発がなかなか進まなかったという指摘には大いにうなずかされました。

老化は病気なので治療可能?=デビッド・A・シンクレア著「LIFE SPAN 老いなき世界」

 何とも言えない異様な世界に足を踏み入れてしまいました。

 不老不死を求めた秦の始皇帝が派遣した徐福になったような気分です。

 何しろ、「老化とは一個の病気であり、治療可能。死は必然であるとする法則はない」と著者は力説しているのです。今、話題のデビッド・A・シンクレア、マシュー・D・ラプラント著、梶山あゆみ訳「LIFE SPAN 老いなき世界」(2020年9月29日初版)という本を読み始めています。分子生物学、遺伝学の専門書ですが、日本版が経済専門出版社である東洋経済新報社から出版されたということは意義深いのかもしれません。

サーチュイン、エピゲノムって何?

 でも、文科系出身の人間が読むと、かなり難しく、私なんか途中で投げ出したくなりました。(私の生物学の基礎知識は、この本の著者がまだ幼児だった頃の1970年代初頭の高校時代で終わってます。ワトソン=クリックが発見したらせん状のDNAの発見までは習いましたが、それがどんな働きをして、生命にどんな影響を及ぼすのか詳しく知らないままで終わっていました)ということで、最初から耳慣れない専門用語がドバドバ出現して頭が混乱します。

 例えば、死滅しつつある細胞の中で、増えたいという根源的な欲求に応えようと奮闘する「マグナ・スペルテル」(「偉大なる生き残り」の意味)とか、DNAの損傷の修復や細胞分裂など「災害対応部隊の指揮官」と呼んでも良い「サーチュイン」という酵素、そのサーチュインが活動するのに必要な「NAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)」、このほか、生体のアナログ情報である「エピゲノム」とか、DNAとタンパク質の複合体「テロメア」などです。

 でも、こういった専門用語を会得すると、俄然と面白くなってきます。私の場合は、本書の3分の1に当たる第2部の168ページを過ぎた辺りからです。そこからは、健康寿命を伸ばすための「工夫」が書かれているからです。

酒、タバコを控え、たまには断食、そして運動

 「長生きするには、どうしたらいいんだよ」というセッカチな皆さんに合わせてみますと、著者が力説するのは、まず、タバコは百害あって一利なしということで御法度です。DNAを損傷させ、肺がんなどの疾患になって死に至ります。(私の大好きなビートルズのジョージ・ハリスンはかなりのヘビースモーカーだったせいか、肺がんのため58歳の若さで亡くなってしまいました。)

 また、お酒もほどほどにした方がよく、ワインもグラス2杯ぐらいに止めることが賢明だとか。食事は、なるべくカロリー制限し、肉食より菜食、できれば、間欠的断食で身体に負荷をかけた方が長生きするといいます。(国際カロリー制限協会会員のマグロシンさんは、70歳になったとき、カロリー制限のおかげで、血圧も悪玉コレステロール値なども実年齢より遥かに若かったといいます)そして、何よりも、定期的な運動です。それも、気楽な散歩ではなく、それなりの速さで走った方が、長寿遺伝子を活性化するといいます。

 他にポリ塩化ビニルなど複合化学物質や排気ガスなどを避けて、たまには極寒の体験によりサーチュインにスイッチを入れ、長寿遺伝子を活性を促す、なんてものもあります。

 これらは、いずれも荒唐無稽な話ではなく、科学者である著者(豪州シドニー出身で、現在米ハーバード大学医学大学院教授)が実際に酵素やマウスなどを使って実験したデータなどから導き出したものです。

 ◇ラパマイシンで10年も寿命伸びる?

 実は、まだ半分ぐらいしか読んでいないのですが、できれば、この本を読むお仲間を増やして語り合いたいと思ったので、早々に御紹介しました。

 モアイ像で有名なイースター島で、1965年に発見された菌の化合物「ラパマイシン」というのが、ヒトの免疫を抑制する機能を持つ一方、mTORタンパク質を阻害することで寿命を伸ばす働きを持つことが分かってきました。(ショウジョウバエなどにラパマイシンを与えると、人間に換算すると約10年分も健康寿命が伸びた!)このように、近年になって、次々と長寿につながる物質が発見されているのです。このままでは、人間、100歳どころか120歳まで生きるのが普通になる未来がやってくるかもしれません。

 久しぶりにドキドキワクワクする知的興奮を味わっています。

【追記】

NMN(ニコチンアミド モノ ヌクレオチド)については、面白いサイトを見つけました。TEIJIN系の会社のようですが、分かりやすい。

声がかすれても頑張る菅義偉首相

東銀座「JU the burger」のバーベキューバーガーAセット1133円⇒968円(オニオンポテトはクーポン)

ハンバーガーの価格の不思議

 群馬県桐生市が発祥のハンバーガーショップ「JU the burger」」の東京進出第1号の「東銀座店」に行ってみました。歌舞伎座の近くです。オニオンポテトとドリンクのクーポン券があったので、少しは安くなるだろう、と高を括ってみたのですが、クーポン券は1枚しか使えず、結局セットで968円。

 私は、悪びれた様子もなく、ペロリと平らげましたが、やはり、ちょっと高いなあ、と思ってしまいました。別に悪意はありません。それより、不思議なのは、同じようなハンバーガーセットであるマクドナルドのビッグマック・セットとなると690円らしいですね。マクドナルドの方が、何度も何度も食べたくなるような美味しさがあるのに、その安さは本当に不思議です。

 不思議と言いながら、私はかなり皮肉で書いています。桐生市のハンバーガーセットのように、普通だったら、本来なら、セットになると1000円以上するのが当たり前なんでしょう。そう思ったわけです。いや、確信したわけです。

 桐生市のハンバーガーは、偉そうに言えば、可もなく不可もなく、驚くほど美味しいわけではなく、普通の味で、何度も何度も食べたいとも思いませんでした。それが、当たり前なのでしょう。何度も食べたくなってしまうことは、「怪しい」と疑問を持った方が真っ当なのかもしれません。 

まだ3月までGoToトラベルをやるつもり?

 前置きが長くなりましたが、約19兆円の第3次補正予算案が26日、衆議院の予算委員会で、自民、公明両党と、共産党が「菅政権の最悪の補完勢力」と批判している日本維新の会などの賛成多数で可決されました。

 立憲民主党など野党側は、1兆円も計上されているGoToトラベル事業の追加予算について、「感染拡大防止と医療体制への支援に注ぐべきでおかしい」などと撤回を求めましたが、多勢に無勢であっさり衆院を通過してしまいました。参院も同じようなものですから、28日に予算案は成立するでしょう。

 補正予算ですから、今年3月まで使い切るという予算です。今の緊急事態宣言でさえ、2月7日からせめて2月末日まで延期しようではないかという案が出ているぐらいですから、菅首相はわずか1カ月で1兆円も使い切る覚悟なんでしょうか。

 菅さんは、そんなに全国旅行業協会(ANTA)の会長の二階さんが怖いんでしょうか?「おまえ、誰のおかげで総理大臣になれたと思ってるんだ!?」と、自民党幹事長の二階さんから凄まれれば、恐ろしいので、忖度したということなんでしょうか?

 新型コロナが年末から年始にかけてあれだけ感染拡大したのは、「GoToトラベル」が要因の一つだっだ、と反省したんじゃなかったんでしょうか?

 各メディアの世論調査では、菅内閣の支持率が、朝日、毎日、共同など軒並み「危険水域」の30%台です。こういう人に国の舵取りを任せては安心できません、と言うしかありません。予算の原資は国民の税金なのですから。

 とはいいながらも、批判された菅さんは、ハンバーガーなんか喰ってるおまえなんかにとやかく言われる筋合いはない、と思っていることでしょう(笑)。忘れるところでしたが、26日に公表された産経とFNN(フジニュースネットワーク)の世論調査では、菅内閣の支持率は52%もありました。

  ああ、だから、菅首相は、疲れて声がかすれて出なくなっても、国会答弁で頑張っているんですね。

「歴史人」の読者プレゼント当たる

東京・銀座「みちのく」 刺身盛り合わせ定食ランチ 1050円

 いつ出したのか、忘れてましたが、雑誌「歴史人」(KKベストセラーズ)のアンケートに応えたら、「読者プレゼント」が当たりました。

 小生、自慢じゃありませんけど、子どもの時分からクジ運が悪く、博打の才能もからしきないので競馬も競輪も競艇もやりませんが、ここ最近、どういうわけか、当たるのです。先月は、地元商店街の年末の福引で、3等賞「100円」の商品券が当たりました。5等賞がティッシュ1枚でしたから大したもんです。(せこい、せこ~い!)

 「歴史人」は最近、ちょくちょく買うようになりました。2020年11月号の「戦国武将の国盗り変遷マップ 応仁の乱から大坂の陣まで 戦国史を地図で読み解く」特集、21年1月号の「遺言状や辞世の句で読み解く 戦国武将の死生観」特集、そして2月号の「名字と家紋の真実―天皇家から戦国武将」などです。みーんな面白い。よーく取材し、一流の学者、作家、ライターさんが分かりやすく図解入りで書いてくれるので、非常に分かりやすいのです。

 当選したのは、東京・赤坂のサントリー美術館で開催中の「美を結ぶ。美をひらく。美の交流が生んだ6つの物語」展の招待券でした。当日一般1500円ということですから、2枚で3000円。年末の福引と比べると大当たりです(笑)。

 新型コロナで東京は緊急事態宣言が発令されていて、東京はおっかねえ所ですから、どうしようかなあ、と思っています。コロナだから、友人を誘うわけにも行かず困っちゃいますね。いっそ、誰かにあげちゃおうかしら…。

自己中心的な日本人が増えたのでは?=コロナ禍で心の余裕がなくなったのか?

◇セロトニントランスポーターが少ない日本人

 ブログなんかに、正直に心の内を書くべきではないのかもしれませんが、私は、ここ毎日のように、社会や政治に対する「不満」と「不快」と、そして何よりもぼんやりとした「不安」の「3不」を抱えて生きています。だから生きているのが辛く、苦しくなります。

 最後の「不安」ですが、脳科学者の中野信子さんによると、日本人の97%がセロトニントランスポーターという遺伝子が少ないので、不安を感じる人が多いのだといいます。

 セロトニンとは、ストレス物質であるノルアドレナリンの作用を抑制して、不安を鎮める役割があります。でも、何でも「諸刃の剣」という側面があり、このセロトニンが多過ぎても、大胆不敵で、羽目を外して、犯罪まがいの無謀な行いも平気でしてしまうことになります。日本人にセロトニントランスポーターが少ないのは、古代から地震、雷、噴火、津波、水害など天災があまりにも多かったため、不安を感じて、将来に備えて準備するような遺伝子を持った人間だけが生き残ってきたからではないかというのが中野氏の説です。

 セロトニントランスポーターが多い民族は、北欧や南欧に多いそうですが、いわゆる冒険心が強いので、バイキングになったり、新大陸を発見したり、インカ帝国やアステカ帝国を滅ぼしたりするんですね。

 農耕社会の日本人は、作業に協力しない不逞の輩を村八分にしたり、同調圧力で監視社会を作ったりしたわけで、今の日本社会にもその遺伝子が繋がっているわけです。少しでも、セロトニントランスポーターが多い人は、そんな閉鎖社会に嫌気をさして、国内を放浪するか、海外に逃避行したりするわけです。

◇譲り合いの精神が喪失

 そんな日本人も最近、随分変わってきたように思われます。セロトニントランスポーターが増えて、大胆不敵になった、とも言えます。恐らく、コロナ禍で皆が本当にイライラしているせいかもしれません。電車に乗っても、真冬で着ぶくれしているせいか、座席に座っても隣同士窮屈になります。お互いさまなのに、急に大声を出して威喝する輩を毎日のように見かけます。大胆、40代ぐらいの男が多いです。狭い歩道を歩いていて、こちらが右側の端っこを歩いても、向こうから歩いてくる輩は、絶対によけたりせず、「オラオラ、この爺い、モタモタすんな、ドケい」と睨みつけてきます。とにかく、譲り合いの精神が喪失してしまっているのです。

◇異星人を見るような目つき

 こんな不快は、私が住む関東人に多いのかと思ったら、昨日、久しぶりに中部地方に住む旧い友人と電話で話をしたところ、何処(いずこ)も同じ冬の夕暮れでした。彼は、かつて大病して障碍者手帳を持つ身で、まだ老け込む年でもないのに、歩くときは杖が手離せません。電車やバスに乗る際、揺れると引っ繰り返ってしまうので、なるべく座るようにしています。それなのに、優先席に座っている若者は、スマホに夢中で、一切、周囲を気配ることなく、当然の権利として座り続けるというのです。

 友人は仕方がないので、そこは優先席であるため、席を譲ってくれるように懇願すると、さも驚いたように、相手を宇宙人か異星人か珍しい動物でも見るかのような目つきで、そして、自分のプライドだけが傷つけられて、恥をかかされたような雰囲気を醸し出して、実に不愉快そうに立ち去るというのです。自分は何も悪いことはしていない。無実だ、と言いたそうに。

 それは一人や二人ではなく、何十人も、皆そうだというのです。

◇優秀で心優しい日本人は何処に行った?

 あらまあ、世界に比類なき優秀で、心優しい、節度と品格があり、教養が高い日本人なんじゃなかったのでしょうか?スマホで夢中になっているのは、たかだかゲームとかSNSです。目の前にいる困っている人間には眼中になく、ヴァーチャルな世界にだけ浸っているのです。

 日本人はこういう自己中心的な人間を世の中に生み出すためだけに、社会を作り上げてきたかと思うと、不快で不快でしょうがありません。

 今、ロシアでは、プーチン独裁政権下で、反政府指導者のアレクセイ・ナワリヌイ氏が拘束されたことから、全土で同氏釈放を求めて、デモが広がり、1月23日は3000人以上が拘束されたという報道があります。警官が若者を殴りつけている場面もありました。今の日本は、菅義偉政権の支持率が各社の世論調査で30%台という「危険水域」に達しても、ロシアのような深刻なデモ運動や政権交代の気運も起きません。

 今はコロナ禍で、外国人観光客が皆無となり、街では日本人だけが目立つようになりました。そのせいか、余計に日本人の「アラ」が目立つようになったと感じるのは私だけなのでしょうか?

ベトナム人留学生のトゥクさんと話が弾む=焼鳥屋で

 新型コロナの蔓延で気が引けましたが、週末、自宅近くの居酒屋に行って来ました。自粛警察がウロウロしていましたが、今のところ味覚が分かり、平熱の私は、困っている飲食店を応援したくなったのです。

◇新型コロナと鳥インフルのWパンチの焼鳥屋を救え

 新型コロナウイルスに加え、全国で鳥インフルが吹き荒れて何百万羽もの鶏たちが処分されていることから、飲食店の中でも焼鳥屋さんを選んで行って来ました。

 それでも、この御時勢で、私自身、ある程度の常識と時代的識見を持ち合わせているつもりなので、人が混んでいないと予想される午後4時に出掛けました。

◇ベトナム人留学生との対話

 ネットで探してやっと見つけたお店は、チェーン展開している焼鳥屋さんなので、皆さんも一度は行ったことがあるかもしれませんが、私は初めて行きました。そしたら、そのお店のアルバイトがトゥクさんという大学3年生のベトナム人で、彼とは随分と話が弾んでしまいました。ビールや焼き鳥や鶏雑炊などを注文する度に、店主に気兼ねしながら話しかけました。

私 日本語うまいね。もう何年いるの?

トゥク 4年です。今は大学に通ってます。

 どこの大学?

トゥク K市のS大学です。今は、オンライン授業ですけど。

 ベトナムの何省の出身なのかなあ?

トゥク フエという所です。

 おお、フエですか。「ベトナムの京都」と言われている古都だね?

トゥク えーー、嬉しい。よく知ってますねえ。。。

 うん、ベトナムには仕事と観光で何度か行ってるからね。ハノイとかハイフォンとかホーチミンとかビンズオン省とか…フエには行ったことがないけど。

◇自分の首都に行ったことがないトゥクさん

トゥク よく知ってますね。僕はまだハノイに行ったことがありません。

 何?ベトナム人なのに首都に行ったことないの?

トゥク 行ったことないです。フエの大学を卒業して日本に来ましたから。それに、今はコロナでずっとベトナムに帰れないんです。

 残念だねえ。でも、フエは、19世紀から150年近く続いたグエン王朝の首都だったんでしょ?世界遺産にもなっているし…。

トゥク 嬉しいですね。本当によく知っていますね。

 僕は変なおじさんだからね。それより、グエン・スアン・フック首相(66)はお元気ですか?ベトナムでは1月25日から2月2日まで、5年に1度の共産党大会が開かれて、76歳のグエン・フー・チョン国家主席が、ベトナムの最高権力者である書記長を続投するかどうか注目されてるけど?

トゥク えーー、何で知っているんですか? ベトナム人でも知らないのに、こんな(日本)人、初めてですよ。

◇技能実習生の犯罪

 うん、おじさんは怪しい人だからね(笑)。それより、この新型コロナで、多くの外国人労働者が雇い止めされているけど、最近のベトナム人の技能実習生は、豚を盗んだり、梨や桃を盗んだり、日本の法律に違反した犯罪者が増えて、評判を落としているんじゃないかなあ?

トゥク ぼ、僕は違いますよ。そういう人がいることは知ってますけど…。僕は今、サービス経営学を専攻しているので、できたら、日本のホテルに就職したいと思っているんです。

 じゃあ、日本語と英語を習得しなければ駄目じゃん。

トゥク 漢字が難しいです。

◇戦争を知らない子供たち

 あれ? もともとベトナムは漢字を使っていたんだよ。今は、似非フランス語みたいな変なアルファベットを使っているけど。ベトナムは、「越南」と国境の南の辺境、つまり「南蛮」だと中国に蔑まされて1000年間支配されて、漢字が嫌になっちゃんたんだよね?それでも、中国の後に、フランスに100年間、日本に5年間、アメリカに30年間ぐらい支配されたわけだ。トゥクさんは、ベトナム戦争なんか知らないでしょ?1975年に終わっているから。もう、45年以上も昔だからね…。

トゥク 僕は今28歳ですから、知りませんけど、お祖母ちゃんの弟が戦死しています。フエも結構、激しい戦闘があったんです。

 嗚呼、古都フエでの「テト攻勢」は有名だね。フエのお坊さんが戦争に抗議して焼身自殺をしたフィルムを見たことあるよ。貴方は平和な時代に生まれてよかったね。いずれにせよ、今、そしてこれからの日本は、ベトナムなど東南アジアとの交流抜きでは考えられないから、どうぞ宜しく。

トゥク こちらこそお願いします。

黙っていることは独裁者の容認につながる=ジョージ・オーウェル「動物農場」を読んで

  ジョージ・オーウェルの代表作「動物農場」(早川文庫)を読了しました。

 読書力(視力、記憶力、読解力)が衰えたせいか、「あれ?このミュリエルって何だっけ?」「ピンチャーって何の動物だったかなあ…?」などと、何度も前に戻って読み返さなくてはなりませんでした。嗚呼…。

◇ケッタイな小説ではない

 しかも、読み終わった後も、「何だか、ケッタイな小説だったなあ」と関西人でもないのに、関西弁が出る始末です。でも、この浅はかな感想は、巻末のオーウェルによる「報道の自由:『動物農場』序文案」と「『動物農場』ウクライナ語版への序文」、それに「訳者あとがき」を読んで、自らに鞭を打たなくても撤回しなければならないことを悟りました。

 この本を読む前の予備知識は、ソ連の社会主義、というよりスターリン独裁主義を英国伝統のマザーグース(寓話)の形を取って暗に批判したもの、ぐらいだと思っていたのですが、もっともっと遥かに深く、含蓄に富んだ野心作だったのです。著者によると、1944年に書き上げた時点で、この作品を世に出そうとしたら、出版社4社にも断られたといいます。当時は、まだ秘密のヴェールに包まれたソビエト社会主義に対する幻想と崇高な憧れが蔓延していて、こんな本を出してロシア人の神経を逆なでしては不味いという「忖度」が、出版を取り締まる英国情報省内にあったようです。

本文と関係ありません

 社会主義者を自称するオーウェルに対して強硬に批判したのが、右翼ではなく、まだスターリンの粛清や死の強制収容所の実態を知らない左翼知識人だったというのは何とも皮肉です。後にノーベル文学賞を受賞する詩人T・S・エリオット(当時、出版を断ったフェイバー&フェイバー社の重役だった)もその一人です。訳者の山形浩生氏によると、同書は、ナチスによる反共プロパガンダに似たようなものと受け止められた可能性さえあったといいます。当時の時代背景をしっかり熟慮しなければいけませんね。(日本は太平洋戦争真っ只中で、敗戦に次ぐ敗戦)

 いずれにせよ、この作品は1945年にやっと刊行され、日本でも、米軍占領下の1949年に永島啓輔による訳(GHQによる翻訳解禁第1号だった)が出されるなど世界的ベストセラーとなり、オーウェルの代表作になりますが、その間、色々とすったもんだがあったことが巻末の「あとがき」などに書かれています。

 日本ではこの後、あの開高健まで訳書を出すなど何冊か翻訳版が出ていますが、私が読んだのは、2017年に初版が出た山形氏による「新訳版」です。日本語はすぐ古びてしまうので、このように新訳が出ると助かります。原書を読んでもいいのですが…。

◇知らぬ間に独裁政権

 私自身は浅はかな読み方しかできませんでしたが、登場するブタの老メイジャーがレーニン、インテリで演説がうまいスノーボールがトロツキー、そして、このスノーボールを追放して徐々に徐々に独裁政権樹立していくナポレオンがスターリンをモデルにしていることは感じていました。当初は、人間であるメイナー農場主のジョーンズを「武装蜂起」で追放して、平等な動物社会を築いていく目論見だったのが、最初に皆で誓った「七戒」が、ナポレオンに都合の良いように書き換えられていくことがこの作品の眼目になっています。例えば、もともと最後の7番目の戒律が「すべての動物は平等である」だけだったのに、いつのまにか、「だが一部の動物は他よりもっと平等である」という文言が付け加えられていて、次第次第にブタのナポレオンが、イヌや羊や馬やロバやガチョウなどの上に君臨して富と権力を独占していくのです。

抗議しないことは独裁者容認と同じ

 私自身は、こういった独裁者に対する批判だけが著者の言いたかったことだと皮相的に読んでしまったのですが、訳者の山形氏は「あとがき」でこう書いておりました。(一部変更)

 ここで批判されているのは、独裁者や支配階級たちだけではない。不当な仕打ちを受けても甘んじる動物たちの方である。…動物たちの弱腰、抗議もせず発言しようとしない無力ぶりこそが、権力の横暴を招き、スターリンをはじめ独裁者を容認してしまうことなのだ。

 なるほど、さすがに深い洞察です。

 ここで思い起こすことがあります。今、ロシアのプーチン政権下で、毒殺されかけた反体制指導者アレクセイ・ナワリヌイ(44)氏が、拘束されると分かっていながら、1月17日、ドイツからモスクワに帰国し、案の定、空港で拘束されて30日間の勾留を命じられました。ナワルヌイ氏は、とても勇気のある行動で尊敬に値することですが、私は、正直、無謀の感じがして、普通の人なら「長い物には巻かれろ」で黙ってしまうと思ってしまいました。でも、抗議の声を上げないことは権力者の横暴と独裁を容認することになってしまう、という自覚がナワリヌイ氏にあったということなのでしょう。「動物農場」を読んでその思いを強くしました。

コンビニATMでお金を降ろしたら330円手数料取られる場合も

銀座 「てんぷら阿部」天麩羅ランチ定食 1600円

新型コロナ対策に妙案なし?

 新型コロナ感染拡大で東京など1都11府県が今、緊急事態宣言の真っ最中です。「外出控えよ」「飲み会するな」「違反したら罰金科すぞ」と、為政者からの指令で国民は委縮せざるを得ません。

 そうでなくても、医療関係者から医療崩壊どころか「医療壊滅」が叫ばれ、自警団に説教されなくても、自粛しなければならないことは分かっています。

 そもそも、自ら進んで慎むから「自粛」と言うのであって、自警団などから強制されては「他粛」になってしまいますよ。

 当然、反発もあり、49歳の受験生が「鼻マスク」で抗議したり、ある者は「中川日本医師会会長は開業医の利益団体代表で、数字を胡麻化している」と叫んだり、ある者は「コロナ対策が後手後手に回っている菅首相には退陣してもらう」と息巻いたりしております。

 では、妙案はあるんでしょうか?

 まず、「ない」でしょうね。経済優先にすれば、感染は拡大して死者は増える一方で、経済活動をしなければ、おまんまが食べられず、自殺者も増えるという悪循環、二律背反、矛盾が生じるからです。(今朝も首都圏では、JR常磐線と高崎線で人身事故がありました)

◇気が滅入るばかり

 「ええじゃないか」と、根拠のない異様な株価上昇で、富裕層は資産を増大しているというのに、歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ氏説くところの「無用者階級」は、「一時帰休」や「雇い止め」や「馘首」などでまさに不要扱いです。最後は「休業補償」や「給付金」など政治家の指導力の問題になりますが、あまり期待もできません。

 今年5月なのか年末なのか、分かりませんが、やっと一般人へのワクチン接種が我が国でも始まると言われてますが、本当に安心安全なのか、副作用は大丈夫なのか疑心暗鬼です。

 気が滅入るばかりです。災害だということで諦めるしかないのかもしれません。名案があったら教えて下さい。

第2次緊急事態宣言下の有楽町駅前。「献血をお願いします」との声が響き渡っていました

 ◇世知辛い世の中になってきました

 何と言っても、経済循環の「血液」ともいえる銀行が随分、せこいことを始めてます。

 メガバンクのみずほ銀行は、今週月曜日の1月18日から通帳発行の有料化を早速始めました。新規発行だけでなく、繰越時の通帳発行の手数料として1100円(税込)も取るというのです。(ただし、70歳以上の場合無料)。

 三井住友銀行は今年4月1日以降に新規開設する普通預金口座の通帳については個人・法人ともに年額550円(税込)、ネットバンキングを使用しなかった場合、口座維持手数料として年額1100円(税込)を取るというのです。

 しかも、三井住友銀行は今年4月5日からコンビニのATM手数料を改定して、通常日は110円も値上げし、平日昼間を220円に、それ以外は330円となります。(ただし、利用の多い25日、26日のコンビニATM手数料の日中は無料)

 三大メガバンクの残りの三菱UFJ銀行は、今年7月1日以降に口座を開設した人を対象に、その後2年以上利用がなければ、年間1320円(税込)の手数料を取るというのです(すでに口座を持っている人は対象外)。また、同銀行も4月1日からコンビニATMを利用した場合、平日8時45分~18時は110円から220円と2倍に、それ以外の時間は330円に大幅に値上げされるといいます。(いずれも、正確を期すために詳細は御自分の銀行サイト等で確認してください)

330円もあれば缶ビールが買える

 世知辛い値上げについて、回し者と見られる評論家は「日銀によるゼロ金利政策で、銀行の収益が大幅に減ったから」とか、「あるメガバンクの通帳発行には年間60億円かかる」とか、色々と理由を説明しますが、庶民としては解せませんねえ。

 仕事帰りの与太郎君が、金曜日の夜6時5分にビールが飲みたくて、近くのコンビニのATMで1000円を降ろしたら、自分のお金なのに、330円も手数料を取られていたなんて、不条理極まりない話です。330円も出せば、500ミリリットルの缶ビール1本ぐらい軽く買えてしまうじゃありませんか!

◇私の防衛策

 そうなんです。指を咥えて非情な現実を眺めているばかりではいられません。

 私の場合ですが、銀行はネット銀行と契約し、最初から通帳はなし。そのネット銀行が発行するデビットカードで、なるべく現金払いせず、そのカードで支払う。このネット銀行はカードで支払うごとにポイントが付くので現金よりお得です。

 大抵のコンビニならカードが使えるので、いちいちATMで現金を降ろさなくて済むので便利です。

 しかも、このネット銀行は、系列のネット証券に口座を持ち、「ブリッジ」を申し込むと、何と単なる普通預金でも、メガバンクの100倍の年0.1%の金利が付くのです。(つまり、メガバンクの今の普通預金の金利は、わずか年0.001%です)

 与太郎君にもお勧めです。

第二次緊急事態宣言下の東京・銀座=2021年1月18日(月)

銀座三越のライオンも…

 新型コロナの大幅感染拡大を受けて、1月8日から東京、神奈川など関東1都3県で、14日からは大阪、福岡など2府5県も追加されて、2月7日までの緊急事態宣言が発令されました。昨年4月7日(5月25日まで)以来、二度目の発令です。

2021年1月18日

 ということで、本日は、小さなビデオカメラ、とは言っても、単なるiPhoneのスマホですが(笑)、それを抱えて「今の銀座」を撮影してきました。

 時刻は、銀座4丁目にある日本一正確な(?)セイコーこと服部時計店の時計の針が示す通り、午後1時過ぎです。

2021年1月18日

 いつもの通り、昼休みを利用して撮影しているわけです。

 ですから、大好きな仕事をさぼっているわけではありません(笑)。昼休みのせいか、案外人通りがありますね。

2020年4月22日

 それは、昨年4月22日の銀座の様子と比較すると、よく分かります。当時の銀座は、まるでゴーストタウンでした。

2021年1月18日

 ちょっと調べてみると、昨年4月に緊急事態宣言が出された時の東京の感染者数は100人程度でした。100人を超えると、どこもかしこも大騒ぎしたものです。

 それが、今では、東京の感染者数ですが、1500人なんて当たり前。今のところ、1月7日の2447人が東京の最高ですが、上の動画で取り上げた2020年4月22日の時点での感染者数はまだ東京で123人、全国でも405人しかいませんでした。

◇不要不急とは何ぞや?

 本来なら危機感、緊張感を漲らせなければいけませんが、皆さん、場慣れしてしまったのか、いつまでも緊張感が続かないのか、それとも、緊張疲れしたのか、嫌なことは忘れたいというのが人間の性(さが)なのか、一様に「表面上」は殺気立つことなく、平常心を保っています。

 恐らく、皆さんは観光やお買い物など不要不急の用件ではなく、私のように、お仕事で仕方なく、遠路はるばる銀座まで出てきていることでしょうね。

 義務感と使命感に溢れていました。と、ジョージ・バーナード・ショー風に書いてみました。

【参考】

 朝日新聞「新型コロナ感染状況

ジョージ・オーウェル「一九八四年」は人類の必読書

◇自分は何のために生まれてきたのか?

 自分では若いつもりでしたが、いつの間にか、自分の人生を逆算する年代に突入してしまいました。残りの人生、自分に何ができるのか、何がしたいのか、そもそも、一体何のために、この世に生まれてきたのか?

 まあ、答えは見つからないまま、一生を終えることでしょう。ですが、少しながら、見極めぐらいできるようになりました。つまり、ベンチャー企業に投資して莫大な利益を得たい、とか、競馬で大穴を当てたい、とか、若い女の子を侍らしてどんちゃん騒ぎをしたい、とか、もうそういった欲望は歯牙にかけないで、このまま知的好奇心を持ち続けていくということです。具体的には、本を読んだり、寺社仏閣、城巡りをしたり、劇場や博物館などに足を運んだりといった程度ですが。

スペイン・バルセロナ・サグラダファミリア教会

 今は、新型コロナによる自粛で動きが取れないので、只管、読書です。残りの人生、あと何冊読めるか限りがあるので、なるべく、まだ読んでいない古典や名作に絞ることにしました。その中で、気になっていたのが、やはり、ジョージ・オーウェル(1903~50年)です。2018年9月にスペイン旅行を敢行し、帰国して早速読んだのが、彼のスペイン内戦従軍記「カタロニア讃歌」でした。その感想文は同年11月6日の記事「『カタロニア讃歌』はノンフィクション文学の金字塔」に書いた通りです。誰一人も褒めてくれませんが、我ながらよく書けたと思っています(笑)。

 この時、「ジョージ・オーウェルの代表作を読んでいくつもり」と書いておきながら、なかなか実現していなかったことを2年以上も経って、やっと着手しているのです。「一九八四年」はやっと読了し、今は「動物農場」を読み始めているところです。

◇今さらながらの「一九八四年」

 えっ?あれだけ話題になっていたのにまだ読んでいなかったの?

 皆様のご怒り、ごもっともです。でも、「一九八四年」の「訳者あとがき」によると、読んでいないのに、見栄によるのか礼儀によるのか、読んだふりをしてしまう本の英国での第一位が、この「一九八四年」だというのです。

 私も高校時代に、高校の図書室で初めて手に取って、「何だ、SFかあ」と生意気にも数行読んで借りずに書棚に返したままでした。私が高校生時代、1984年は、まだまだ先の未来の話だったのです。そんなあり得もしない空想小説なんて…と本当にボンクラだった私は勝手に判断してしまったのです。

 今回読んだ「一九八四年」(ハヤカワ文庫)は、2009年初版で高橋和久東大名誉教授による新訳です。旧版のミスプリントなどを直した本格版のせいか、私が手に入れた2020年1月15日発行は「42刷」にも達しています。やはり、結構読まれているのですね。

 この本が書かれたのは1949年で、オーウェル45歳ぐらいの時です。(翌年亡くなるので、最後の作品になりました)彼にとって、1984年は「35年後の未来」ということになりますが、今、我々が生きている現代2021年は、1984年から見れば、もう軽く「35年の未来」は過ぎてしまっています。嗚呼、何とも怖ろしい…。

 「ビッグ・ブラザーがあなたを見ているという全体主義的な監視社会は、空想事ではなく、現実世界になっています。世界中で、何億もの監視カメラが街角やコンビニや駐車場に張り巡らされ、チップが埋め込まれたスマホが公然と販売され、位置情報やら、その個人が何を買って、何を食べたのか、FacebookなどSNSのお蔭で、趣味趣向から友人、家族関係、不倫まで情報漏洩して当局や広告代理店やメディアに把握される有様です。特に、ブログなんか書いている小生なんぞは丸裸にされているのも同然ですね(笑)。

 「一九八四年」は、ミステリーか推理小説の側面もあるので、まだ未読の人のために、主人公のウィストン・スミスと恋人のジュリアが最後にどうなってしまうのか、書かない方がいいでしょう。でも、人類にとって必読書であり、知的財産であることは確かです。「人類が読むべきベスト10」に入ると思います。

◇露骨な性的描写も

 正直、最初、出だしのオーウェルの文体に馴染めず、投げ出したくなりましたが、それを越えると、どんでん返しが待っていて、「ガーン」と視界が開けます。というより、露骨な性的描写があったとして「チャタレー夫人の恋人」(D.H.ローレンス作、伊藤整訳)の裁判で問題になった最高裁による猥褻の概念ー「徒らに性欲を興奮又は刺戟せしめ、通常人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反する」に匹敵するどころか、それを越えた描写が出てきて、俄然、面白くなります(笑)。よく、発禁処分にならなかったなあ、と思ったぐらいです。私なんか高校生の頃、「チャタレー夫人」を読んでも何ともなかったですが、やはり、未成年は読んじゃ駄目ですね(笑)。

◇観念論による鋭い政治風刺

 でも、この小説の中核は、観念論と政治風刺です。監視と粛清の嵐が吹き荒れるソ連のスターリニズムを思わせる箇所が想起されるのは今さら言うまでもありませんが、そう容易く読める文章は続きません。オーウェル特有の「無知は力なり」「戦争は平和なり」「自由は隷従なり」「二重思考」といった概念を会得するには骨が折れることでしょう。

 文庫版の解説はあの著名なトマス・ピンチョンが担当して、鋭い指摘をしています。

  平和省は戦争を遂行し、真理省は嘘をつき、愛情省は党の脅威になりそうな人物を片っ端から拷問し殺していく。もしこれが馬鹿馬鹿しいほど異常と思われるなら、現在の米国に目を向けてほしい。戦争を造り出す装置が「国防省」と呼ばれていることを疑問に思っている人はほとんどいない。同様に、司法省がその恐るべき直轄部門であるFBIを用いて基本的人権を含む憲法の保障する権利を踏みにじっていることは、十分な書類として提出されているにもかかわらず、我々はその省を真顔で「正義(ジャスティス)の省」と呼んで平気でいる。

 オーウェルの「一九八四年」も英国伝統の風刺と逆説を熟知していなければ、作者の意図も理解できないということになりますね。