占領期の検閲問題=三浦義一論文も削除、木下順二は検閲官だった?-第34回諜報研究会

Pleine lune, le samedi 27 fevrier Copyright par Duc de Matsuoqua

 昨日27日(土)は第34回諜報研究会(インテリジェンス研究所主催、早大20世紀メディア研共催)にオンラインで参加しました。ZOOM参加は二度目ですが、どうも苦手ですね。どこか後ろめたい気持ちになり(笑)、こちらの機器と体調の関係で聞き逃したり、聞き取りにくかったりして、どうもいかんばい。あまりご参考にならないかもしれませんが、印象に残ったことを少しだけ翻案して書き留めておきます。

 報告者はお二人で、最初は短歌雑誌「まひる野」運営・編集委員の中根誠氏で、演題は「GHQの短歌雑誌検閲」。同氏には「プレス・コードの影ーGHQの短歌雑誌検閲の実態」(2020年、短歌研究者)という著作があり、今回の諜報研究会司会者の加藤哲郎一橋大名誉教授も「占領下の検閲で、短歌のジャンルでの研究は恐らく初めて」と発言されておりましたが、私も全く知らないことばかりでした。

◇右翼から左翼まで幅広く

 この中で、GHQは、短歌雑誌を(1)right (右翼)(2)left(左翼)(3)center(中道)(4)conservative(保守的)(5)liberal(自由主義的)(6)radical(急進的)ーの6種類に分類して検閲したことを知りました。

 例えば、(1)の右翼に当たる短歌雑誌「不二」の場合、国粋主義的、天皇の神格化・擁護、神道主義的、軍国主義的などの理由で、何首も雑誌掲載が削除されています。この雑誌の昭和22年4月号に掲載される予定だった右翼界の大立者で、後に「室町将軍」と畏怖されたあの三浦義一氏の「璞草堂残筆」という論文もdelete ではなく、suppressedという強い表現で全面削除されている資料写真を見たときは、感慨深いものがありました。

(2)の左翼的雑誌として代表される「人民短歌」の場合、共産主義の宣伝、連合国軍司令部批判、検閲への言及などで何首も削除されています。

 この他、「フラタナイゼーション」といって、米兵が占領国民と交わる場面を詠んだ短歌も削除の対象になっています。(前島弘「町角に進駐兵と語る女の顔の堪へがたき卑屈さ」=「日本短歌」)

 私は右翼でも左翼でもありませんが、こうして見ると、占領軍の容赦ない一方的な傲慢さが垣間見えると同時に、GHQは占領を「正当化」するのに必死で、民衆の反乱を抑えるのに苦心惨憺だったということが惻隠されます。(極めてマイルドに表現しました)

2・26事件で襲撃された東京朝日新聞社の85年経った跡地に建つ有楽町マリオン=2021年2月26日

 続く報告者は、インテリジェンス研究所理事長の山本武利氏で、演題は「秘密機関CCDの正体研究ー日本人検閲官はどう利用されたか」でした。山本氏は最近、「検閲官ー発見されたGHQ名簿」(新潮新書)を上梓されたばかりで、この本に沿って講演されておりましたが、小生はまだ未読だったため、残念ながら質問すらできませんでした。ということで、この後は、自分の疑問も含めた中途半端な書き方になってしまうことを御了承くだされ。

◇木下順二は検閲官だのか?

 まず、CCDというのはGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)内に設立された秘密機関「民間検閲局」のことで、2万人余の日本人を使ってメディアや郵便、通信などの検閲を行っていたところです(第4区と呼ばれた朝鮮半島南部では朝鮮出身者を採用)。山本氏は「検閲で動員されるのは英語リテラシーのある知的エリートで、彼らは戦争直後の食糧難と生活苦から逃れるためにCCDに検閲官として雇用され、旧敵国のために自国民の秘密を暴く役割を演じた」と断罪されておりました。当時の検閲者名簿リストを入手し、この中に、Kinoshita Junji(1946年11月~49年9月、試験で90点の高成績) という名前があり、「夕鶴」で知られる著名な劇作家木下順二ではないか、と、先程の著書「検閲官」の中でも問題提起されており、今回もその衝撃的な発言をされておりました。

 木下順二本人は、著作の中ではGHQとの関係について、一切書いていないので、別人説もあり、山本氏も「百パーセント確実な証拠はない」としながらも、木下順二と関係が深かった出版社の未来社の関係者や木下順二の養女らから山本氏が直接聞いた証言(中野好夫の紹介でCCDで働いていた)などから、「本人ではないか」と結論付けておりました。

 講演の後の質疑応答で、「木下順二の世界」などの著作がある演劇研究家の井上理恵氏から「木下は熊本のかなり古い惣庄屋の出で、裕福だったので、生活苦などで協力するのは考えられない。当時は『オセロ』の翻訳が終わり、自分の作品を書いている時期で、生活が大変だったとは思えないし、関係者の証言もどこまで信用できるかどうか…。これから私自身も調べていきます」などと発言されていました。

Mont Fuji Copyright par Duc de Matsuoqua

 このほか、CCDは、「ウオッチ・リスト」といって右翼、左翼かかわらず「要注意人物」のブラックリストを作って、彼らの郵便物や通信を監視していたようですが、私自身が興味を持ったのはメディア検閲でした。全国に検閲場所があったようですが、大阪では朝日新聞大阪本社がその会場だったとは驚きでした。朝日新聞社自体はその事実に関してはいまだ非公表を貫いているようですが、朝日の社員も検閲に協力していたということなんでしょうか?

 東京での新聞雑誌などメディア検閲の場所は、日比谷の市政会館だったようです。ここは、戦中の国策通信社である同盟通信が入居していた所で、戦後すぐに同盟が解散して、占領期は共同通信社と時事通信社が同居していた時期に当たります。ということは、英語ができる共同と時事の社員もGHQの検閲に協力していた可能性があります。これらは、後で、質問すればよかったかな、と思ったことでした。

【追記】

早速、山本武利理事長からメールが送られて来まして、朝日新聞も共同、時事両通信社も場所を提供しただけで、社員による検閲はなかったのではないか、という御見解でした。

 東京の市政会館には全国紙だけでなく、全ての地方新聞が集まって来ますし、大阪の朝日新聞にも相当数の新聞雑誌が集まってくるので、GHQの CCDにとっては、メディアを検閲するのに大変都合が良かったので、もしかしたら半ば強制的に選んだのかもしれません。

とはいえ、新聞社、通信社側も同じビル内なので、何らかのメリットが色々あったのではないか、というのが山本理事長の推測でした。

 

今では有名人になった山田真貴子内閣広報官=東北新社の思い出

 昨日まで全く無名だったのに、今朝起きたら、世間の誰もが知る存在になることが多々あります。

 今なら、さしずめ、山田真貴子さん(60)ということになるかもしれません。

 例の菅義偉首相の長男が勤務する放送関連会社「東北新社」から接待された総務省幹部が国家公務員倫理規程違反として処分された中、一際目立っていたのが、この山田真貴子・内閣広報官(元総務省総務審議官)です。

 他の総務省幹部の接待費が一人1回1万~2万円程度だったというのに、山田真貴子氏だけは、1回で7万4203円と突出していたからです。

 早速、昨日の日刊ゲンダイが、「一体、何を食ったんだ?」と庶民感覚を代表して取材してくれました。

 タイトルは「山田真貴子氏は“ジジ殺し” 内閣広報官の評判と夜の流儀」とほんの少しだけ品位に欠けていますが、内容は充実しています。

 一応、リンクを貼っておきますが、そのうちリンクの記事は削除されて読めなくなってしまうことでしょうから、この記事を少し引用させて頂きます。

 山田氏は早大法学部卒。1984年に郵政省(現総務省)に入省し、第2次安倍政権が発足してまもない2013年、女性として初めて首相秘書官に起用された(これが、写真入りで育鵬社の公民教科書に掲載され、市民団体が問題視しています=以上、渓流斎)。その後、放送行政を所管する情報流通行政局長などを歴任。19年7月から1年間、次官に次ぐ総務審議官を務めた。省内ナンバー2のときに高額接待を受けたことになる。

 これだけ略歴を書かれれば、東京大学卒が多数を占め、出世競争が極めて高い「男社会」の霞ケ関の中で、「私大卒」「女性」という二重のハンデを背負いながら「ナンバー2」まで出世した彼女の血と汗と涙の努力がいかばかりかと想像されます。

 でも、ヒラの国会議員時代から総務省利権に食い込んでいたと言われる菅首相に対する「ジジ殺し」ぶりで、権力の階段をよじ登ったようなフシも見られるようです。

 (引用)山田氏の名前が知られたのは昨年10月、NHKに抗議したとされる一件だ。菅首相がNHK「ニュースウオッチ9」に生出演し、日本学術会議任命問題についてキャスターから鋭い質問を受けた。放送の翌日、山田氏は同局の政治部長に「総理、怒ってますよ」「あんなに突っ込むなんて、事前の打ち合わせと違う。どうかと思いますよ」と猛抗議したと報じられた。

 なるほど、番組見てませんでしたが、このキャスターって、来月3月いっぱいで降板させられることになった有馬嘉男キャスター(55)のことなんでしょうかね?そして、菅首相が2月24日の記者会見で、山田真貴子氏について「深く反省している。女性の(内閣)広報官として期待しているので、そのまま専念してほしい」と続投させることを表明しましたが、これは、あの憎っきNHKキャスターを降板させた山田氏の功績に対する論功行賞だということになりませんかねえ?

 さて、電波行政などに許認可権を持つ総務省は利権の構造の最たるものという評判(?)があります。総務省の意のままに動かざるを得ないNHKは、総務省幹部や総務省に息の掛かった政治家に足を向けて寝られませんからね。

 菅首相は「長男は別人格です」と強調し、東北新社に入社したことなど預かり知らぬと発言されていたようですが、「どうかなあ」です。「将来、官房長官、首相にもなるかもしれない有力議員の息子を入れなければまずい」という忖度が東北新社側に働いたかもしれませんし、東北新社の創業者である植村伴次郎氏(1929~2019)は、菅首相と同郷の秋田県出身ということから「息子をよろしく」なんてこともあったかもしれません。あ、ウラを取らず、推測で書いてはいけませんね(笑)。

◇東北新社は政財官界有力者の橋頭堡か?

 問題になっている菅首相の長男氏は、メディアであまり、顔も名前も出ないのですが、東北新社の子会社である「囲碁・将棋チャンネル」の役員も兼務しているそうですね。有力政財官界の人々は、囲碁、将棋を趣味とする人が多いので、このチャンネルが、有力者を結びつける「政界工作」の橋頭堡になっていると指摘するジャーナリストもいます。

 東北新社は、1961年に植村伴次郎氏が外国映画・ドラマの日本語吹替番組制作会社として創業し、スター・チャンネルなど「総合映像プロダクション」として放送業界では知らぬ人はいない「大企業」です。私も、もう30年も昔ですが、放送記者としてこの会社を取材したことがあります。(東北新社の沿革を見ていたら、私が子ども時代にはまった「サンダーバード」もこの会社が手掛けていたんですね!)

 この会社は、映像業だけでなく、大使館が多く外国人滞在者が多い東京・広尾の一等地にあるスーパー「ナショナル麻布」を経営していることは意外と知られていません。私が放送記者だった頃、「あの植村社長が、スーパーの駐車場なんかで毎朝、掃除しているんだよ。でも、誰も知らないから、周囲の人は単なる掃除のおっさんだと思って邪見にしたり、道を聞いたりしてるんだって」という逸話を聞いたことを今でも忘れません。

【追記】

山田真貴子・内閣広報官はその後、体調不良で入院され、3月1日で辞任されました。

私がブログでこんなことを書いたからかなあ、と反芻しております。反省ではありません(笑)。

住みたくないアメリカ、そして日本も?=米で新型コロナ死50万人超

 米ジョンズ・ホプキンス大学の集計で、2月22日、米国の新型コロナウイルスによる死者数が50万人を超えました。各国別では最多で、世界の死者の2割を占めるといいます。

 バイデン米大統領もホワイトハウスで「(50万人は)第1次世界大戦と第2次世界大戦とベトナム戦争での戦死者を合わせた数より多い」と追悼の演説をしました。

 日本は、太平洋戦争だけで300万人以上の犠牲者を出していると記憶しているので、無学な私なんかは「え?」と思ってしまいました。

 人間自然科学研究所の調べでは、米国の戦争犠牲者は、第1次世界大戦は11万7000人、第2次世界大戦は29万人、朝鮮戦争で14万人で、他の資料ではベトナム戦争は5万8000人になっています。いずれも、推計なのですが、第1次世界大戦と第2次世界大戦とベトナム戦争での戦死者を合わせ46万5000人になりますね。

 米メディアは、第2次世界大戦での米軍の死者は推計40万5000人、ベトナム戦争は5万8000人、朝鮮戦争は3万6000人で、この三つの戦争の犠牲者を超えたと報じています。

 いずれにせよ、米国の新型コロナは、大戦争を超えてしまったわけですね。パンデミックがいかに恐ろしいか、思い知らされます。

 同時に、日本はいかに無謀な戦争をやったものだと痛感させられます。しかも、無責任な指揮官は生き残り、日本兵士の大半は餓死と戦病死と言われていますから。

新富町「蜂の子」

 話は変わって、アン・ケース 、アンガス・ディートン共著, 松本裕訳「絶望死のアメリカ」。まだ、未読ではありますが、書評などを読むと面白そうです。現代アメリカの病理が抉り取られている感じです。

 著者によると、「絶望死」とは、まさしく社会に絶望して、アルコール依存症や薬物中毒となり、挙句の果てには自殺をしてしまうことをいいます。

 そのカラクリが悲惨過ぎます。

 本書は、大企業が巨額のマネーとロビイストを使って政界工作し、自分たちに都合の良い法案を通す汚いやり方を暴いているのです。標的になっているのが、大学を出ていない中年の白人層。大企業は社会保険が負担になるからといって、彼らをリストラし、代わりに賃金の安い非正規雇用の派遣社員を雇う。いずれにしても、不安定な職で、清掃や倉庫番、警備など、語弊を怖れずに言えば、誇りを持てないような職種に左遷される。彼らは結婚もできず、生きがいもなく、孤独感から、日々の憂さ晴らしに酒やドラッグに走ってしまう。

 この風潮に乗じて、酒造会社と製薬会社は政界工作で、どんなキツイ酒もドラッグも規制緩和させて販売を自由にさせる法案を成立させ、彼らを破滅に導ていく…。

 実に、身につまされる話ではありませんか。

 「対岸の火事」と安心している日本人がいれば、それは大間違い。タイトルを「絶望死の日本」にしてもいいくらいです。

2028年に中国が米国を抜く?=覇権主義も長期スパンで見れば儚いもの

 コロナ禍の影響で、中国の名目国内総生産(GDP)は、当初予測の2030年より早まり、2028年にも米国を追い抜くそうですね。(英シンクタンク「経済ビジネス・リサーチ・センター」CEBR)

 あと7年後ですか…。

 鬼畜米英に負けた日本人は、日米同盟が大好きで「思いやり予算」を年間2000億円も支払っている一方、尖閣諸島問題を抱え、香港やチベット、ウイグル、内モンゴルで人権弾圧を続ける中国を嫌いな人が多い、というのが実情です。

 ですから、7年後に中国がGDPで米国を抜いて世界一になるという予測を聞くと、大抵の日本人は、不愉快になるか、見たくも考えたくもないことでしょう。

 しかも、具体的な数字が公表されていないとはいえ、中国は、ほんの一部の中国共産党幹部かその関係者が富を独占し、民主的ではないという根強い不信感が日本人にはあります。

 しかしながら、その一方で、建前上は人権が認められ、自由と民主主義の国家である米国では、上位1%の富裕層が全体資産の30%を握るという超格差社会なのです。中国とそう変わらないということになります。政治体制やイデオロギーの違いがあるだけで、これでは経済格差はどこでも同じということになってしまいますね。

 そもそも歴史を振り返ると、「四大文明」の発祥地の一つである中国は、もともと世界一の経済大国でした。19世紀に入って欧米、そして日本の植民地主義者の標的になった中国・清帝国の末路のイメージが悪いのですが、実は、最盛期の19世紀初頭の清の推定GDPは世界一で、全世界の3分の1を占めていたといいます。

 話は違いますが、ヴェネツィアの商人マルコ・ポーロによって「黄金の国ジパング」と呼ばれた日本も、戦国時代は、全世界の3分の1の銀を産出していたといいますからね。(戦国時代にアメリカはなかった!)

銀座の花壇

 2月20日付日経に出ていた歴史家磯田道史氏の「半歩遅れの読書術」記事の孫引きになりますが、アンガス・マディソン著「世界経済史概観」(岩波書店)によると、西暦1500年頃、日本の1人当たりのGDPは500ドルだったといわれ、当時の中国と朝鮮は600ドル、インドネシアは565ドル、インドは550ドルだったと推計されるといいます。つまり、日本は周辺国より生活水準が低く、はっきり言って貧しかったわけです。

 それが、江戸中期になると、日本は周辺国と並び、江戸後期の1820年頃になると一気に抜き去ったといいます。その理由について、磯田氏は、諸般の事情で人口抑制が働き、労働態勢が税負担が軽い手工業・商業にシフトし、所得水準も一気に上がり、GDPも増えたのではないかと推定しています。

 驚いたことに、この1820年はペリー黒船来航前の話ですが、当時の日本のGDPは米国より大きく、約1・65倍。人口も米国の約3.1倍もあったというのです。(現在、2021年の名目GDP予想は、米国が約22兆ドル、日本は5兆ドルですから、米国は日本の4.4倍です。人口は米国が約3億人、日本が1.2億人ですから、2.5倍です。)

 正直、江戸時代に、米国より日本の国力(GDP)の方が大きかった時代があったとは、本当に驚いてしまいますね。

 ただし、考えてみれば、諸説ありますが、実質的に米国が英国を抜いて世界一の経済大国を確立したのは第一次世界大戦以降からだと言われています。となると、予測が正しければ、米国の世界一は1917年から2028年までのたった100年ちょっとしか続かなかったということになります。

 「覇権主義」とか「経済大国」とか言っても、1000年単位の長期スパンの歴史で見ていくと、本当に儚いものです。

業態を変えるのか新聞業界?=ジャーナリズムのレベルが民度のレベルでは?

beautiful Mt. Fuji Copyright par Duc de Matsuoqua

 最近ご無沙汰している日本新聞協会がネットで公開しているデータによると、2000年に約5370万部あった全国の新聞発行部数が、2020年には約3509万部に落ち込んだといいます。つまり、この20年間で、1861万部も激減したことになります。いわば20万部の地方紙が90紙も廃刊したことになります。

 内訳を見ると、一般紙が4740万部から3245万部へと1495万部減、スポーツ紙が630万部から263万部へ367万部減と惨憺たるものです。大雑把ですが、天下の読売新聞も1000万部から700万部、朝日は700万から400万部、毎日に至っては、400万から200万部へと、全国紙と呼ぶには「危険水域」です。

 書籍と雑誌の売上も1997年の2兆4790億円をピークに、2012年になると、その半分以下の1兆2080億円にまで激減しています(経済産業省・商業統計)。

◇スマホが要因?

 「若者の活字離れ」とか、「駅のキオスク店の廃業」などが原因と言われていますが、紙媒体の減少に拍車を掛けた最大の要因はスマートフォンの普及のようですね。総務省によると、スマホの世帯保有率が2010年末にわずか9.7%だったのが、2015年末には72.0%と、この5年間で急速に普及したといいます。

その店は築地の奥深い路地にあります

 その5年間に何があったかと言いますと、日本でアップルのiPhoneが発売されたのは2008年ですが、2010年からスマホは3Gから4Gとなったことが大きかったようです。これにより、データ量が大幅に増量し、文字情報だけでなく、動画もスムーズに観ることができるなど、まさにスマホは、日常生活で手離せないツールになったわけです。

◇ネットに負けた紙媒体

 その中で、ネットサイトの最大の「売り」のコンテンツがニュースだったのですが、1990年代の既成マスコミ経営者は、これほどネット企業が成長するとは夢にも思わず、ほぼタダ同然で、ドル箱のニュース商品をネット企業に渡してしまったことが後を引くことになります。(日本最大のヤフージャパンは、2000年の時価総額が50億円だったのが、20年後には3兆円にまで成長しています。月間250億ページヴューPVにも上るとか)

知る人ぞ知る築地「多け乃」 結構狭いお店と厨房の中に、スタッフが6人もいらっしゃって吃驚

 勿論、既成の紙媒体も指を咥えてこの動向を見ていたわけではありません。2011年から有料の電子版を発行した米ニューヨークタイムズは、コロナ禍の巣ごもりで購読者が増えて、2020年12月末の時点で500万件を超えたといいます(アプリと紙媒体を合わせると750万部)。NYTは、クオリティー・ペイパーと言われていますが、1990年代の発行部数は確か30万部程度の「ローカル紙」でした。また、19世紀から続く英老舗経済誌「エコノミスト」も電子化に成功し、紙で10万部そこそこだったのが、2020年の電子版は102万部に上ったといいます。

◇頑張っている十勝毎日新聞

 日本では、私も帯広時代に大変お世話になった十勝毎日新聞が、いまや1万人もの電子版の有料会員(本紙8万部余)を獲得していると聞きます。私が通信社の支局長として帯広に赴任していたのは2003年~2006年でしたが、当時の十勝管区の人口は36万人、帯広市の人口は16万人で、十勝毎日新聞の発行部数は9万部だったと覚えています。北海道といえば、北海道新聞の独壇場なのですが、十勝と苫小牧ぐらいが地元の新聞が頑張って部数で道新を凌駕していました。

結構、テレビの取材が入る有名店で、この日はカレイ煮魚定食 1500円 に挑戦。味は見た目よりも薄味でした

 ということで、数字ばかり並べて読みにく文章だったかもしれませんが、私自身、長年、新聞業界でお世話になってきたので、最近、「売れる情報」とは何かということばかり考えています。

 このブログも関係しているのですが、俗な書き方をすれば、「お金を出してでも欲しい情報」とは何かです。それは、生死に関わる情報かもしれません。その筆頭が戦争で、新聞は戦争で部数を伸ばした歴史があります。

 平和になっても、日本は災害大国ですから、地震や津波、洪水、地滑りなどの災害情報は欠かせません。

 結局、突き詰めて考えてみると、「医食住」に関わる情報が多くの人が有料でも手に入れたいと思うかもしれません。だから、グルメ情報もバカに出来ませんよ(笑)。

◇官報は無味乾燥

 今では、官公庁や役所、役場などがサイトで情報公開してますが、失礼ながら「官報」は、素材ですから、味気も素っ気もなく面白くありません。第一、素材を読んだだけでは、情報の裏にある背景や本当の真意も、よほどの通でなければ分かりません。

 となると、既成新聞は、これまで以上に、情報の解説や分析、歴史的背景、将来予想、そして何よりも政財官界の汚職追及と社会不正糾弾などで生き延びていくしかないかもしれません。新聞社は都心に多くの不動産を持っていて、「貸しビル業」で存命を図っているようですが、原点に帰ってニュースで勝負してほしいものです。

ジャーナリズムのレベルがその国民のレベルなのですから。

 

 

マイナンバーカードが危ない=日本人の個人情報が中国に流出?

 「マイナンバーカードの個人情報なんて中国に漏れているよ」といった噂をかつて耳にしたことがありましたが、それは単なる噂ではなく、事実のようですね。例えば、2018年分のある年金受給者の名前、生年月日、電話番号、配偶者の年収、マイナンバーなどが、中国のネット上で晒されていたようです。(2月17日、長妻昭衆院議員=立民=による国会予算委員会での質問)

 今朝(2月19日付)の東京新聞の【こちら特報部】が「やっぱり怖いマイナンバー」「ずさん再委託 中国へ流出疑惑」「あらゆる個人情報『ひも付け』」「丸ごと不正利用の恐れ」「自治体のデータ管理も甘々」などと大きな見出しの活字で大々的に報じています。

 この見出しだけで、大体の内容が推測できると思いますが、もう一つ、重大な見出しがあります。それは「年金機構 再調査を拒否」です。

 どゆこと?

 この記事の最後に「デスクメモ」がありますが、「桜を見る会の名簿は個人情報だからと素早く消去され(中略)、一方、国民の個人情報がつまったマイナンバーが、国外へ不正流出した恐れがあるのに調査には消極的」と批判しています。

銀座「みちのく」 海鮮丼ランチ 1300円

 同感ですね。同感。それに、こうして東京新聞が大々的に報じてくれなかったら、「国外不正流出の恐れ」なんか、ほとんどの国民は知らなかったわけですから。

 それにしても酷い話だなあ。私自身は、青色確定申告をするため、仕方なく、マイナンバーカードを更新しました。私が住む所では、実際、2019年にデータ入力業務を委託した業者が、許可を得ずに再委託した事件があった、とこの記事には書かれていますが、その再委託先がどこなのか詳しく書かれていません。もしかしたら、国外かも知れず、私の個人情報も中国に漏洩している可能性もあります。想像するだに怖ろしかぁ(何で急に九州弁?)。

 冗談じゃないよお。日本国民の個人情報は国家機密ではありませんか?至急、原因究明と再発防止策を図ってほしいです。でも、原因は、日本の業者が、データ入力みたいな面倒臭いことを気位が高い日本人がやりたがらず、低賃金の中国に丸投げした、ということが分かっていますし、再発防止と言っても、罰則がなければ、業者は今後も丸投げし続けることでしょう。

 これは、まさに政治とメディアの報道に無関心だと、為政者と悪代官によってに好き勝手にされる、という見本ですね。

 なんばしょっとね!

懐かしい「イージー・ライダー」を、知らないとは…

 私の義理の息子は、アメリカ人なので、会った時に、覚えたばかりの英語のフレーズを試す「実験台」になってもらっています(笑)。

先日も会った時に、

 I gave the last full measure of devotion. 知ってるかい?

 と、試してみたら、

「リンカーンのゲティスバーグ演説ですね。さすが、お義父さん」と褒められてしまいました。

 「なーんだ、自慢話かあ」で終わりたくないので、この後、深刻な続きがあります(笑)。

 (↑ 試訳は「私は死力を尽くして献身した」)

銀座「たか」焼き魚定食1200円 近くの大手出版社の編集者が通い詰める店らしく、さすがに美味。

「じゃあ、映画The Last Full Measure(『ラスト・フル・メジャー 知られざる英雄の真実』)(2019年)は観た?ベトナム戦争の話だけど、タイトルは、そのリンカーンの演説から取られた。ピーター・フォンダの最期の出演作になったやつ…」と私。

 「観てませんけど…。ピーター・フォンダ?」

 「えっ?ピーター・フォンダ知らないの?『イージー・ライダー』の」

  ちなみに、彼はロサンゼルス出身で、ハリウッドに近い所で育ち、映画通でもあります。

 私は「えーー、それは驚き。ピーター・フォンダのお姉さんはジェーン・フォンダで、お父さんも有名なヘンリー・フォンダで、ノーベル文学賞を受賞したスタインベックの『怒りの葡萄』(ジョン・フォード監督、1940年)にも出ていた…」と一気にまくしたてました。

 「うーん、ジェーン・フォンダは聞いたことあるけど…。スタインベックは学校で習った気がするけど…。うーん、チェック!」と、いつものように、彼はスマホを取り出して、検索し始めました。

 「あの歴史に残る名作『イージー・ライダー』(1969年)だよ! 本当に観てないの?」

 「うん、ノーーー」

 スマホ画面を睨みながら、「全く、何を言っているのか、訳が分からない」といった表情を彼は浮かべるのでした。

これに対して、私は I’m taken aback.とか、 astonishedとか、 shocked とか、あらゆる「驚愕」の言葉を並べました。

◇世代間ギャップ

 しかし、冷静になって考えてみると、それは「世代間ギャップ」ではないかと思いました。私の世代で、「イージー・ライダー」やピーター・フォンダを知らない人はまずいない。常識だと思われます。でも、そんな常識も、哲学的に考察すると、世代が変わると全く通じなくなってしまうということです。

 あんなに人気があって、有名で、一世を風靡しても、30年も経てば、すっかり忘れ去られてしまうという事実に、遅まきながら気が付いたわけです。同時に、自分が常識だと思っていることなど、年が経てば風化して、通用しなくなることも身に染みて分かりました。

 「常識を疑え」ではなく、「常識は時代によって変化する」です。平たく言えば、「おっさん、もう古いよ」ということになるんでしょうが、仕方ないですね。私はもう新しいモノは受け付けられない年になってしまいました。

 「イージー・ライダー」には、デニス・ホッパーとジャック・ニコルソンも出ていました。ステッペンウルフのテーマ曲「ワイルドでいこう!」も大ヒットしたんだけどなあ…。

 「世代間ギャップ」と言えば、父親と子との葛藤を描いた映画「エデンの東」(1955年、エリア・カザン監督)を思い出します。ジェームス・ディーン主演の名作です。テーマ曲も素晴らしい。

 そう言えば、「エデンの東」も原作者は、ジョン・スタインベックでしたねえ。

 繋がりました。

 お後が宜しいようで。

変なマネーゲームはやめてほしい=昨今の株価急騰に思ふ

銀座「笑笑庵」

 昨日15日に日経平均株価が、1990年8月以来30年半ぶりに3万円の大台を回復し、フロックかと思ったら、今日16日も一時600円も値上がり、383円高の3万0467円で終わりました。

 一体、何が起きているんでしょうか?

 何しろ、内閣府が15日に発表した2020年の1年間のGDPの実質伸び率が前年比マイナス4.8%。リーマン・ショックが起きた翌年の2009年以来、11年ぶりのマイナスでしたからね。新型コロナ感染拡大で飲食店、アパレル、運輸航空、観光業界を中心に倒産したり、低迷しているところが多く、巷の景気観測も良いわけがなく、実体経済と乖離しているわけですから。

 新聞(特に日経、毎日、読売)の解説記事を読めば、分かりやすく書かれています。大きな要因となる背景は、新型コロナ対策としての各国の中央銀行による大規模な金融緩和があるようです。これによって、富裕層だけでしょうけど、金があり余り、株式投資や仮想通貨などに向かったというのです。野村証券によると、2020年3月から21年1月中旬まで。日米欧の中銀が市場に流した「緩和マネー」は計約752兆円にも上ったそうです。

 この流れで日本の株価が高騰した担い手として、大きく二つありました。外国人投資家と日銀です。1989年、東証での株式売買金額に占める外国人投資家の割合は、たった約1割に過ぎなかったのに、2020年には約7割まで上昇したというのです。日本株のほとんどをあのウォーレン・バフェットさん始め、外国人が買っているわけですねえ。また、株式全体に占める個人投資家の保有比率は2割に満たず、日本の家計資産に占める株と投信の割合は13%に過ぎないため、株を持っていない多くの国民にとって、株高の恩恵は単なる他人事に映るというのです。

 もう一つの要因は、日銀による上場投資信託(ETF)の購入拡大です。20年に初めて7兆円台に達し、日銀保有のETFは昨年末で46.6兆円。年金の基金であるGPIF45.3兆円を超えて、日本株の実質的な筆頭株主になったというのです。

 今後、日経平均は、世界的な緩和マネーによって、「3万4000円程度まで上がる」と言うストラテジストもいれば、「2021年末に金融引き締めの議論が起きて株価も2万5000円前後に下落するのでは」と予想するストラテジストもおります。真逆ですね。

 私自身は、今の株価は、今の日本の実体経済を全く反映していないので、「バブル」だと思っていますし、いずれ弾けるんじゃないかと予想しています。

 大変失礼ながら、皆さんも含めて、ほとんどの国民は株を保有していないので、「他人事」に過ぎないかもしれませんが、年金基金が株で運用しているわけですから、株が暴落すれば、年金の減額なんてのもあるかもしれないし、「持たざる者」の庶民にも大きな影響が出るわけです。

  今や、株式投資もまさに投機化しており、変なマネーゲームもいい加減にやめてもらいたいものです。というのが私の意見ですが、このまままっしぐらに奈落の底に突進していくかもしれませんぜよ。

 

実に久し振りの六本木=サントリー美術館「美を結ぶ。ひらく。」展

 新型コロナ感染拡大による緊急事態宣言が発令されている最中、国禁を犯して、東京・六本木の東京ミッドタウン3階・サントリー美術館で開催中の「美を結ぶ。ひらく。」展に行って参りました。

 いつぞやも、このブログでも書きましたが、雑誌「歴史人」(KKベストセラーズ)の読者プレゼントでこの展覧会のチケット2枚(3000円相当)が当たり、捨てるのも「如何なものか」と思い、1枚は会社の後輩にあげて、もう1枚は、御自ら捕縛覚悟で国禁を犯して出馬したわけです。

東京ミッドタウン

 六本木は本当に久しぶりでした。何年振りか覚えていないくらいです。六本木交差点にあった書店もドラッグストアになってしまっていましたし、女優の倍賞千恵子さんか倍賞美津子さんがオーナーだったという噂の「ばいしょう」という焼き鳥屋さんなど、若い頃にあったお店はもうほとんど姿を消しておりました。(いまだに健在は、喫茶店の「アマンド」と「おつな寿司」とイタリア料理「シシリア」とロアビルぐらいでした)

 思い出すのは、学生の頃に通った「クレイジーホース」というディスコです。酔っ払って友人たちと行ったことぐらいしか覚えていませんが、まあ、当時は最先端の遊びでした。

 ディスコなんて言っても、今の若い人はさっぱり分からないでしょう。

六本木交差点付近

 もう40年以上も昔の話です。そんなことを考えながら、六本木の街を歩いていたら、すれ違う人の大半は、40歳以下の中年と若者たちでした。「そうかあ、彼らは、40年前は生まれてもいなくて、影も形もなかったんだなあ」と思うと何か不思議な感じがしました。同時に、当時出会った60代だった人たちは今、ほとんどこの世から姿を消してしまったんだなあ、と思うと感慨深いものがありました。

古伊万里 色絵菊桔梗文瓶(左)と色絵花鳥文六角壺

 そうそう、肝心の展覧会でした(笑)。自ら進んで、どうしても観たいという展覧会ではなかったので、正直、身が入りませんでしたが、やはり、観ているうちに引き込まれました。(会場は空いていて、作品撮影は自由でした)

 私はかなりの俗人、俗物なものですから、リニューアル・オープンしたサントリー美術館の展示品を観ながら、「あ、これは(サントリー創業者の)鳥井信治郎(1879~1962)の収集品かなあ、こっちは(鳥井信治郎の二男で二代目社長の)佐治敬三(1919~99年)のコレクションだったのかなあ?」などと想像しながら観ていました。

 単なる想像ですが。

エミール・ガレ

 こうして、大実業家たちが集めた(と思われる)目が飛び出るくらい高価な美術品を拝見させて頂く機会に恵まれて、本当に有難いことだと思いました。

 正直に言えば、庶民が「おこぼれに預かった」ということになるんでしょうけど、最近のIT成金の某氏が、「お金の使い方が分からなくて困っている」といった趣旨の手記を月刊誌に書いていたので、こんな美術館でも建てたらどうかなあ、などと私なんか思ってしまいました。

 某氏は、自ら創業したIT企業をソフトバンクグループに売却して2000億円もの個人資産があるらしいのですが、ツイッターで「100万円プレゼント」などと無作為にお金をばらまいたりして、どうも成金趣味の域を出ない気がしています。

 そういうことをするなら、病院を建てたり、感染症研究やワクチン開発の資金を提供したり、他に出来ることがいっぱいあるのになあ、と思ってしまいます。 

歌川国貞「両国夕すずみの光景」文化文政期

 いやはや、こんなこと書いても、単なる「持たざる者」の愚痴に過ぎないでしょうけど…。俗人なもので、つい書いてしまいました。

【追記】

 明治政府による「廃仏毀釈」で、荒廃した寺院から貴重な日本美術品が海外に流出しました。そんな中、日本美術の真の価値を知っていたのが、外国人お抱え教師のフェノロサでした。彼が雇われた当時の帝国大学の月給は、現代に換算すると1500万円だったそうです。毎月1500万円ですよ! そのお金で、フェノロサは、せっせと国宝級の日本美術品を買い集めたのでした。

 尾形光琳「松島図屏風」、狩野元信「白衣観音像」などですが、彼のコレクションは、米ボストン美術館に寄贈されたので、アメリカにまで行かなければ観ることができませんよお。

「不買革命」を怖れた資本家階級=東京五輪組織委 森喜朗会長辞任で考えたこと

◇誰が森喜朗会長を引きずり降ろしたのか?

  「女性蔑視発言」をした東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長(83)は、大方の予想通り辞任を余儀なくされました。後任の会長ポストに就任予定の川淵三郎(84)日本サッカー協会相談役については、「また、男の老人では何も変わらない」とか、「知られていないが、実は彼は百田尚樹氏の『日本国記』を絶賛する極右の超国家主義者だ」とか仰る方もいらっしゃいますが、思想信条の自由がありますし、私自身は、「へー、そうだったのか」と会得するだけです。

 それ以上に興味があるのは、誰が森喜朗氏を会長の座から引きずり降ろしたのか?ーです。女性蔑視発言したことは自業自得なので、当然の結末とはいえ、実はかなりの確率で「続投」も可能だったからです。

 潮目が変わったのは2月9日です。国際オリンピック委員会(IOC)が「森会長の発言は極めて不適切で、IOCが取り組む改革や決意と矛盾する」との声明を発表したことで一気に流れが変わりました。IOCは、2月4日の森会長の謝罪会見後に「森会長は発言について謝罪した。これで、IOCはこの問題は終了と考えている」と宣言していたので、恐ろしいほどの豹変ぶりです。ということは、2月4日から9日の間に何かがあった、ということになります。

 想定されるのは、莫大な放送権料を支払う米NBCから、IOCに対して「如何なものか」とクレームが付けられたことです。しかし、NBCは、米三大ネットワークとはいえ、単なる(失礼!)メディアに過ぎません。恐らく、広告代理店を通じて、スポンサーがNBCに圧力を掛けたのではないかと容易に想像されます。

 米国の大手スポンサーは、日用品大手プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)、半導体大手インテル、民泊仲介エアビーアンドビー、飲料大手コカ・コーラなどです。いずれも、世界の人口の半分を占める女性の消費者を抱えている大企業で、多国籍企業です。女性たちから反旗を翻されて「不買運動」に走られたらたまったものじゃない、女性蔑視の会長では駄目だという公算が大きく働いたのでしょう。決して、スポンサーは、公共のため、無償のボランティアでやってるわけではないからです。

 それは、東京五輪の日本のスポンサーも同じことです。森会長の謝罪会見の後、早々にトヨタ自動車を始め、アサヒビール、日本生命などが相次いで「遺憾である」「不適切である」といった声明を「発砲」しました。

 勘繰れば庶民による不買運動、いや「不買革命」を怖れたのでしょう。

◇オリンピックはサーカスか?

 これで、若者を走らせて、放送権料と五輪キャラクター売買で商売をしている貴族集団のIOCというものは、絶えず、スポンサーの顔色を窺って、発言をコロコロと変える、節操のない権益団体に過ぎないということがはっきり分かります。

 批判覚悟で敢て暴言を吐けば、オリンッピクとは、スポンサーの、スポンサーのための、スポンサーによる大会と言えます。

 19世紀的用語を使えば、五輪とは、資本家階級の、資本家階級のための、資本家階級によるサーカスだと言えます。

 近代オリンピックの創始者クーベルタン男爵も、女性蔑視者とは言えませんが、時代的束縛があったにせよ、女性がマラソンを走ることなどもってのほかで、決して、積極的な男女平等主義者ではなかったと言われてますからね。

 こんなことを私が敢て書いたのは、今回の「森事件」に関して、特に民放テレビは実に皮相的で表面的な報道ばかりで、何処も批判したり、裏のカラクリを説明したりしないからです。でも、あっそかぁ、民放テレビも、スポンサーの、スポンサーのための、スポンサーによるメディアでしたね。批判できるわけがない!

 五輪憲章が、いかに崇高で高邁な精神であろうと、実態を知らない人が多過ぎます。

【追記】

 2月11日に五輪組織委会長に川淵三郎氏に決定したと思ったら、「密室譲渡」「不透明」などと批判され、政府筋による拒絶で、わずか「一日天下」で白紙に。すったもんだの挙句、結局、2月18日になって、橋本聖子五輪相が、大臣を辞めて会長に就任することで決着しました。

 スケートと自転車で五輪に7回も出場した橋本氏は、週刊誌で「五輪オタク」とか「セクハラ疑惑」とか、、叩かれたことがありましたが、森喜朗元首相に認められて政界に転身したわけですから、まさしく、森さんの子飼いで、彼のマリオネットになることは見えていますね。

 個人的に、私自身は、橋本聖子さんが、駒大苫小牧高校の頃、スピードスケートのインターハイで3連覇をした頃に取材して、話を聞いたりしていたので、どうも、彼女の高校生の頃のイメージが抜けません。

 こんなこと、後記として、書くのも、辻褄を合わすためで、本心は「実に面倒臭い」。