渋沢栄一 守屋淳訳「現代語訳 論語と算盤」を読む

 雪の大谷 Copyright par Syakuseidou

 悪の道に走りかけた釈正道老師が心を入れ替えたらしく、彼から急に写真が送られてきました。キャプションは

天気には恵まれました。雪の大谷、今年は積雪量は14メートルとかで。多くは無いのかな。山の写真は剣岳などです。

 これだけです。

 またもや暗号です。場所は何処なのか?このコロナ禍で、緊急事態宣言が出掛かっているこの非常時に、まさか旅行にでも行かれたわけではないはず…。私が調べたところ、「雪の大谷」とは富山県の有名な観光スポットらしい。ということは、わざわざこの時期に東京からベンツにでも御乗車されて旅行ですかあ!?

剱岳 Copyright par Syakuseidou

 しかも、肝心の剱岳と思われる写真は、この通りピンボケです。(バランスも悪い。)こんな芸術作品を撮影できるのは、ロバート・キャパと釈正道老師以外考えられませんね(笑)。

 さて、今年(2021年)、NHK大河ドラマ「青天を衝け」が放送されていることから、主人公渋沢栄一が、この1年間、あらゆる媒体で引っ張りだこです。他の民放テレビで特集番組が放送されたり、雑誌で特集記事が組まれたりしています。嗚呼、NHK畏るべしです。

 私も本屋さんに行ったら、この渋沢の代表作「論語と算盤」(ちくま新書)が山積みになっていたので、思わず買ってしまいました。現代語訳ということで、類書の中で最も売れているらしく(新書売り上げナンバーワン)、私が先月買った時は42万部でしたが、4月17日の時点で既に60万部を超えているようでした。年内に100万部いくかもしれません。

 それだけ、読み易い本でした(いつぞや、このブログに書いた通り、他に読む本があって、しばらく「つん読」状態でしたが)。同書はもともと講演会の速記録を文字で起こしたもので、大正5年(1916年)に東亜堂書房から発行されました。ちょっと、ふと思ったのですが、「現代語訳」ということですから、速記録は文語文ということなのでしょう。でも、渋沢翁は、講演会でも文語調で講演していたということなんでしょうか?まあ、どちらでもいい話ですが。

雪の大谷 Copyright par Syakuseidou

 「論語と算盤」は、乱暴に一言で要約してしまうと、一見、人としての倫理観を説く「論語」と、金儲けの「算盤」とは矛盾するようだが、そんなことはない。商売するにしても、自分さえ良ければ良い、とか自分だけが儲かればそれで良いという考えでは商業資本主義は発達しないし、結局、損することになる。論語が説く倫理観が絶対に必要だ、といったところでしょうか。

 青年期に幕末、維新の激動時代を生き抜き、フランスへ徳川昭武の随行員に選ばれて、最先端の資本主義を見聞して、帰国後に500近い企業を起こした渋沢栄一だけに、確かに説得力があります。渋沢は1840年生まれですから、この本が出版された時は76歳ぐらいですか。功成り名を遂げた名士として、社会福祉活動にも力を入れていた時期です。渋沢栄一の思想哲学が凝縮され、「こういう考え方の人だったからこそ、大きな仕事を成し遂げることができ、偉人とも巨人とも言われたんだなあ」とよーく分かります。

 でも、はっきり言って、「成功物語」なので、誰もが渋沢栄一になれるわけではないので、この本を読めば出世できる、とか金持ちになれるなどと誤解しない方が良いです(笑)。

 渋沢もこう言ってます。

 世間には、冷酷無情で全く誠意がなく、行動も奇をてらって不真面目な人が、かえって世間から信用され、成功の栄冠に輝くことがある。これとは反対にくそ真面目で誠意にあつく、良心的で思いやりに溢れた人が、かえって世間からのけ者にされ、落ちこぼれとなる場合も少なくない。(75ページ)

 この一節を読んだだけでも、渋沢栄一という人は、人間観察に鋭敏な人だったことがよく分かります。

 落ちこぼれで、失敗と挫折ばかりしてきた私自身も、渋沢の説くこの後者だったので、よーく分かり過ぎるくらい分かるのです。

 【追記】「歴史人」によると、日本史上「子だくさん」の第1位は、本願寺の中興の祖、蓮如で男子13人、女子14人の計27人でしたが、渋沢栄一の場合、二人の正妻以外に妾や愛人もたくさんいて、同書によると、庶子を含めて30人の子どもをなしたといいます(50~100人の説も)。となると、蓮如さまどころではなく、明らかに渋沢栄一こそが、日本一の艶福家となりますね。(そう言えば、十一代将軍徳川家斉は、大奥制度もあり、53人の子をなしたといいます)

 東京・王子飛鳥山にある「渋沢栄一記念館」に行くと、展示パネルに、今も活躍する企業や子孫の系図も出てきて、どこまで行っても「渋沢栄一」の名前があらゆるところに出てくるので眩暈を覚えたことがありました。