ミチオ・カク著、斉藤隆央訳「神の方程式ー『万物の理論』を求めて」(NHK出版)を読んでいます。まだ途中で、3分の2ぐらい進んでいます。
でも、登山でいうところの「難所」があり、途中で引き返したくなるほど読むのが難儀してしまう箇所もありました。特に量子論に入った頃から難しくなりました。ノーベル物理学賞を受賞したリチャード・ファインマン博士ですら「量子力学を理解している人は誰もいないと言っていいと思う」と発言するぐらいですから、まして文科系の素人をや、です。それに、学生時代は量子論なんて全く習いませんでしたからね。
この本は2022年4月30日初版ですから、出版されて1年以上経ってますが、日本ではあまり大きな話題になりませんでしたね。「神の方程式」ですから、新興宗教の聖典と勘違いされたのでしょうか? でも、この本は、理論物理学の一般向けの好著だと思います。難しい数式は本文では避けて、註釈の中に登場させています。また、訳者の斉藤氏の翻訳がこなれていて読みやすいお蔭で、文科系の素人でも理解しようと頑張れば出来るからです。
この本は、このブログで以前ご紹介したニュートン別冊「学びなおし 中学・高校物理」(ニュートンプレス)を読了した際にも取り上げました。繰り返しになりますが、現代の最先端の物理学は、マクロな世界を記述するアインシュタインの一般相対性理論と、ミクロな世界を記述するシュレーディンガーやハイゼンベルクらの量子力学(量子論)を融合した「究極の理論」を構築しようとしていて、未だにその統一された「万物の理論」は出来ていません。本書はそれまでに至る過程というか、偉大な科学者の業績と歴史を辿り、今後の展望を探っています。つまり、この1冊で、最先端の物理学が分かるわけです。先のブログでご紹介した通り、著者のミチオ・カク(賀来道雄)氏(76)は、日系3世の米国人で、ニューヨーク市立大学教授です。米国では、テレビの多くの科学番組やニュースの解説者として登場し、大変な有名人のようですが、不勉強な私は存じ上げませんでした。
私は文科系の人間ですが、最先端の物理学の礎を築いたニュートンとアインシュタインの二人の科学者について、著者の見方が面白かったです。カク氏によると、ニュートンは、孤独を好み寡黙で、人間嫌いと言っていいほど。生涯の友はおらず、日常会話も満足に出来なかった、とまで言ってしまっております。一方のアインシュタインは、社交的で、人間的で気取らず、周囲の人間はその高潔さに圧倒されるものの、誰からも愛される性格だったといいます。文科系の人間は、理論よりも、こういった人間臭い話の方が好きです(笑)。
カク氏は大学の先生ですから、説明の仕方も分かりやすいです。例えば、こんな感じです。
アインシュタインは見事にこう見抜いた。光の速度は不変だから、光速を不変にするために、時間と空間が歪むのに違いない!
アインシュタインは、万有引力が実は錯覚であるという見事な知見を得た。物体が動くのは、重力や遠心力で引っ張られるからではなく、周囲の空間の湾曲によって押されるからである。もう一度言おう。重力が引っ張るのではなく空間が押すのだ。
このように、「時空は重い質量によって歪み、重力による力の錯覚をもたらす」という一般相対性理論を一般向けに易しく解説してくれます。
さて、究極の万物の理論が構築されると何が解明されるのか? 著者は、それについても明確に答えています。著者によると、究極の理論とは、自然界の四つの力(重力、電磁力、強い核力、弱い核力)が一つの理論にまとまる考えだといいます。疑問が解明する可能性があるものの中にはー。
●ビッグバンの前に何が起きていたのか? そもそも何故ビッグバンが起きたのか?
●ブラックホールを抜けた向こう側に何があるのか?
●タイムトラベルは可能なのか?
●いくつもの並行宇宙からなるマルチバース(多宇宙)は存在するのか?
等々ですが、あれっ?です。最先端の物理学の究極の理論というのは、宇宙論のことではありませんか!(つづく)
【追記】2023年8月24日
ニュートンとアインシュタインという2人の天才に関して、もう一つ、人間的な側面を追加しておきます。
・人間嫌いで奥ゆかしいニュートンは、自分の著作の出版を考えていませんでしたが、ニュートンの業績に感嘆して、その著作の印刷費用を支払うことを申し出たのは、「ハレー彗星」で名を残した天文学者のエドモンド・ハレーだった。その著作とは、科学史に残る重要な最高傑作の一つとなる「プリンシピア 自然哲学の数学的原理」(1687年)だ。
・アインシュタインは、ロングスリーパーで、毎日10時間寝ていたといわれる。