NHKのEテレで10月に放送された「100分de 名著」の「アリストテレス ニコマコス倫理学」があまりにも面白かったので、書籍(600円)まで買ってしまいました。
テレビでは、タレントの伊集院光さんが毎回、落語に登場する与太郎のような役回りで、講師の先生(今回は、山本芳久東大大学院教授)に基本的なことを質問したり、自分の体験談や意見を開陳したりし、それはそれで大変面白かったのでした。
でも、映像や動画から得る知識と、活字から得る知識とではやはり違いますね。何が違うかと言いますと、脳で処理する部分が違うんじゃないかと思っています。あまり勝手なことを言うと脳科学者から怒られるでしょうけど、映像から得る知識は、話し手の動作や声色などから感情的に処理するような気がします。活字は、活版印刷のように脳に刻み込んで情報を処理する感じです。
まず、テキストを購入するぐらい番組で感激したことは、私自身、倫理学に関して間違って解釈していたことでした。倫理学というのは、「こうするべきだ」とか「こうしなければならない」といった「人の道」を説く学問だと思っていたのです。こちらは、18世紀のプロイセンの哲学者イマヌエル・カント(1724~1804年)が確立した哲学で「義務論的倫理学」と呼ばれます。
しかし、紀元前4世紀の古代ギリシャのアリストテレス(紀元前384~322年)の倫理学は全然違うのです。「人生の究極の目的とは幸福になることだ」と説いているのです。ただし、幸福になるのには、他人を押しのけたり、人の道に反するなど手段を選ばないことは推奨しません。「人は徳を身につけてこそ初めて幸福を実現することができる」とアリストテレスは説きます。これを「幸福論的倫理学」、もしくは「徳倫理学」と呼ばれます。
アリストテレスは今から2300年以上昔の人ですから、こちらの方が、本家本元だったんですね(苦笑)。私は、ここ数年、人類学や進化論や宇宙論や量子論などにはまってしまい、「人生とは何か」「人生の意味と目的は何か」などについて哲学的ではなく、科学的に考えていました。その結果、人生には意味も目的もなく、生物学の見地からは、地球46億年、いずれ人類は滅亡し、「生き永らえることだけが目的」だと実に虚無的な結論に達してしまいました。しかしながら、このアリストテレスの哲学に従えば、人生の最終目的とは幸福を追求することだというのです。肩の力がふっと抜けました。毎日が苦悩の連続だったので、「なあんだ、幸せになっていいんだ」と思いました(笑)。
ただし、繰り返しになりますが、そのためには徳を積まなければなりません。アリストテレスによると、人間にはこの徳(ギリシャ語で「アレテー」=単越性、力量の意味)は生まれながらにして備わっていないので、後天的に努力して身につけなければならないというのです。その徳はたくさんありますが、アリストテレスは最も重要な徳として四つ挙げています。
①賢慮(判断力)
②勇気(困難に立ち向かう力)
③節制(欲望をコントロールする力)
④正義(他者や共同体を重んじる力)
です。本日はこれぐらいにしておきますが、これだけ読んだだけでは恐らく理解できないと思われますので、原典に当たってみるのが一番かもしれません。全10章ありますが、何冊か翻訳が出ています。これは最初に書くべきでしたが、「ニコマコス倫理学」とはどういう意味なのかと思いましたら、ニコマコスとはアリストテレスの子息のことで、同書は、そのニコマコスがアリストテレスが自ら設立したリュケイオン学園での講義をまとめて編纂したものだといいます。原題は、ギリシャ語で「タ・エーティカ」といい、これは「エトス」(習慣)や「エートス」(性格、人柄)から派生し、「人柄に関わることなど」という意味なのだそうです。つまり、倫理学というのは後付けで、同書では、アリストテレスは単に?人間の習慣によって出来る人柄について述べていることになります。そして、人間のエートス(人柄)は1000年経っても2000年経っても変わらないので、現代でも十分通用して、こうして今でも熱心に読まれているのだと思います。
次回はこの番組とテキストを読んで救われた「友愛」について触れたいと思います。