辻井伸行さんのパリ公演には感動しました=BSフジ再放送

  私のようなもう古い世代では考えられなかったことを今の若い世代はやり遂げています。例えば、我々が若かった1970年代~80年代では、サッカーのワールドカップに日本が出場することなど夢のまた夢でしたが、今では、出場は当たり前で、強豪スペインやドイツを打破して、ベスト4を狙うことは全くあり得ない夢ではなくなりました。

 何と言っても、米大リーグで二刀流として活躍する大谷翔平選手は、今年、かつては考えられなかった日本人初の本塁打王に輝き、史上初の2回目のア・リーグ最優秀選手賞(MVP)を満票で獲得しました。

 それに加えて、将棋の藤井聡汰さんは21歳2カ月の若さで史上初の八冠を達成しました。あの羽生善治七冠をあっさり超えてしまい、全くあり得ない快挙です。我々の世代は、将棋の棋士と言えば、大山康晴とか升田幸三といったお爺ちゃんや無頼漢のイメージがあったので、中学生でプロデビューして全タイトルを独占した藤井八冠には驚愕するしかありません。

 大谷選手も藤井八冠も我々の世代ではなし得なかったことを成就した天才に他なりませんが、もう一人、大天才がいました。ピアニストの辻井伸行さんです。皆さん御存知のように、彼は目が不自由であるにも関わらず、ショパンやリストなど難曲中の難曲と言われる名曲を弾きこなしています。目が不自由なので、全て暗譜です。指の使い方もどう習得されたのでしょうか?ペダルを踏む箇所も楽譜に記載されていますが、それらも全て耳だけで習得したはずです。彼のような天才は見たことも聞いたこともありません。

有田の豪華御膳(本文とは関係ありまへん)

 というのも、昨晩、テレビのBSフジで「辻井伸行×パリ ~ショパンが舞い降りた夜~」という番組を偶然、観たからでした。偶然でしたので、途中から観ました。番組は2017年に放送されたものの再放送でした。2017年、辻井さん29歳の時のパリ公演をメインに、彼が敬愛するショパンの所縁の地を訪問するドキュメンタリーでした。

 ショパン所縁の地というのは、パリにある「ポーランド歴史文芸協会」(ショパンが実際に使ったピアノなどが展示)やサル・エラール(ショパンが演奏したサロン)やパリ郊外のノアン村にあるジョルジュ・サンドの館(ショパンが最も多くの曲を作曲した場所)などでした。この他、18~19世紀の古いピアノを修復する店を訪れ、ここのアンティーク・ピアノで、ショパンやリストなどを「試し弾き」していました。

 パリ公演の会場は、シャンゼリゼ劇場という聴衆の耳が肥えた老舗のホールで、ここは、ストラビンスキーの「春の祭典」が初演(1913年5月29日)された所で、大論争を巻き起こしたことでも有名です。辻井さんは、ここで、ショパンの「エチュード」と、アンコールでリストの「ラ・カンパネラ」を演奏し、耳が肥えたうるさい聴衆を熱狂させていました。実に感動ものでした。ハンディを乗り越えた本人の努力の賜物ですが、番組のタイトルのように、時空を超えてショパンの魂が辻井さんに乗り移ったような完璧な演奏でした。

 こうして若い世代の天才たちと同時代に生きることが出来て、その巡り合わせには幸せを感じます。