佐賀のがばいばあちゃん

物事は常に多面体であって、時によって、人によって、気分によって、それぞれ物の見方や解釈が違う、ということは真理だと思っています。

堅い前触れで始めてしまいましたが、本来なら貧窮という人生の最下層の経験をすれば、やれ、社会が悪いだの、会社が悪いだのと言って抗議運動を起こすか、私はいかにも辛い体験をしました、とお涙頂戴式の文章を綴るかのどちらかを実行する人が大半でしょうが、そんな辛い経験を笑い飛ばしてしまう人も世の中にいるものだと妙に感心してしまいました。

漫才「B&B」のコンビの一人として、1980年代に一世を風靡した島田洋七さんの書いた「佐賀のがばいばあちゃん」(徳間書店)にはその典型的な話が出てきます。

理由があって、両親の住む広島から祖母の住む佐賀に預けられた島田少年は、優しいおばあさんの愛情に育まれて、そこに8年間も起居を供にします。しかし、おばあちゃんにも、お金がない。島田少年が「お腹がすいた」と訴えると「それは気のせいや」と交わされ、外に遊びに行くと、「腹が減るから外へ出るな」と窘められる。「それじゃあ、どうしたらいいの?」と聞くと、まだ午後4時半だというのに「もう寝ろ」と急かされる。しょうがないので、寝床に入ると、夜の11時ごろ、目を覚まし「やっぱり、お腹がすいた」と言うと、「それは夢だ」とピシャリ。意を決して眠り、翌朝目覚めて「お腹すいた」と訴えると、「昨日、食べたやろ。それよりさっさと学校にお行き!」。それで、やっと学校の給食にありつけるのでした。

普通なら、子供時代、いかに貧乏のどん底だったかと書くのが普通です。それを笑いと涙のペーソスに包んで、読者をホッとさせます。年内に映画化される、と聞いて「是非見に行きたい」と思いました。