「全国一斉休校」の余波=オリンピック不況はないかもしれませんよ

WST National Gallery Copyright par Duc de Matsuoqua

 新型コロナウイルスの影響で、中国人観光客が激減しています。

 東京の銀座は2月に入って、急に減りましたが、同じように築地も急減したようです。

 今日はたまたま、昼休みに、頼まれ事で築地にある有名な乾物屋さんに煮干しを買いに行きました。会計するときに、「観光客が減って大変でしょう」と声を掛けたら、「いや、ウチはもともと、中国人はそれほど来ないんですよ。それより、築地は中国人が多いということで、日本人が来なくなっちゃったんですよ」と教えてくれました。

 まさに、商売あがったり。それ以上に深刻なのは、この店では、近くの学校の給食用に食材として卸していることです。安倍首相が、専門家に相談することなく、経済的損失も思慮も入れずに独断専行で、全国の小中高校を3月2日から一斉に休校を決定したため、こんな所にまで波及していたんですね。知りませんでした。

 「居酒屋さんやホテルなどにも卸してますが、客足が遠のいて、ちょっと深刻なので、助成金のことで相談してみようかなと思ってます」と御主人は正直に応えてくれました。

歌舞伎座で休演告知

 資生堂やパナソニックなど大企業は、テレワークで回避できるかもしれませんが、対面販売の店舗は休むわけにはいきません。

 ラヂオを聴いていたら、「安倍さんは子どもを育てたことがないから、子を持つ親の苦労が分からないんですよ」と投稿するリスナーがいました。微妙な差別発言で、安倍首相には可哀そうですが、気持ちは分からないではありません。

 休みになった不良中学生なんか、ゲームセンターやカラオケに入り浸っているらしいじゃありませんか。私も中学生の頃、不良だったので、気持ちは分かります。ゲーセンやカラオケみたいなシャレたものはありませんでしたが、勉強しないでボウリング場やビリヤードに入り浸っておりました。

 既に国立の博物館・美術館や映画館や劇場や動物園、遊園地が休館、休園しましたが、私の地元の図書館でも15日(日)まで閉館になってしまいました。公民館で行われるイベントも中止、または延期です。

歌舞伎座で休演告知

 1964年の東京五輪開催後に証券不況があったように、2020年の東京五輪後も「オリンピック不況」が予想されましたが、これでは「五輪前不況」じゃありませんか!しかし、あまり悲観論ばかり言っても始まりません。2003年に重症急性呼吸器症候群(SARS)が蔓延して各国の株が暴落しましたが、半年で、日経平均は回復しました。

 となると、今回は「東京五輪前不況」を散々経験したので、新型コロナが終息すれば、五輪後の「オリンピック不況」はないかもしれません(笑)。株価が回復すれば、年金支給額も減額しなくて済みますよ。

 たまには明るい話題を提供したくなりました。

冷戦期、自民党は米国からお金をもらい、社会党と共産党はソ連からお金をもらっていた=名越健郎著「秘密資金の戦後政党史」

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 まさに「政治とカネ」の疑獄に焦点を当てた名越健郎著「秘密資金の戦後政党史」(新潮選書、2019年12月20日初版)を今、読んでいます。先日読んだ室伏哲郎著「実録 日本汚職史」(ちくま文庫、1988年2月23日初版) の続編みたいな感じです。

 室伏氏の本が明治以来の日本の政界の「伝統」である贈収賄事件のことを扱っているのに対して、名越氏の本は、副題に「米露公文書に刻まれた『依存』の系譜」とあるように、もっと国際的視野から「政治とカネ」の問題にアプローチしています。

 著者の名越氏は、時事通信社のモスクワ、ワシントンなどの特派員、外信部長などを歴任した後、現在、拓殖大学教授です。小生の大学と会社の先輩に当たり、よく存じ上げている方なので、この本を取り上げるのは依怙贔屓かもしれません(笑)。しかし、この本は力作です。米国とロシアの公文書館で公開史料を探訪した労作です。驚くべき事実が描かれています。このブログをお読みの全ての皆様にお薦めします。

 著者は序章でこう書いています(引用文は入れ替えなどあり)。

 1990年代以降、米国の情報公開や91年のソ連邦崩壊に伴う文書公開により、冷戦期に活動した日本の主要5政党のうち、公明党を除く自民、民社、社会、共産の4党が外国から非合法に資金を導入していたことが判明した。

 通常、個人や企業、団体が政治家や政党に寄付する場合、何らかの見返りを期待するケースが多い。外国の組織が日本の政党に政治資金を提供する場合、当事国の戦略や思惑も絡んで国家の主権や安全保障を危うくするリスクを伴う。

 もう序章でこの本の結論を書いているようなものです。この後、いつ、誰が、どの政党が、どれくらいの金額をもらっているのか、示唆するような形で暴いています。これらは、マッカーサー駐日大使(マッカーサー最高司令官の甥)から国務省への公文書や米アリゾナ大学のマイケル・シャラー教授ら研究者の著書などを引用して書かれているのですから、信憑性は高いのです。

 例えば、米CIAの対日秘密工作として自民党などへの資金援助の総額は分からないとしながらも、マイケル・シャラー教授の「『日米関係』とは何だったのか」(草思社、市川洋一訳、2004年)を引用して、1958年頃から少なくとも10年間続いた援助額は、毎年200万ドル(7億2000万円)から1000万ドル(36億円)に上ったとしています。

 ただし、「昭和の妖怪」と言われ、CIAとの繋がりが濃厚で、日米安保条約の締結に命を懸けた元首相の岸信介(安倍首相の祖父)に関するCIAなど情報機関が作成した個人ファイルは、いまだに、ほとんど「不開示」のため、具体的な数字が出てこないのが実情だといいます。

 とはいえ、岸信介は、マッカーサー大使と極秘に頻繁に会っていたほか、岸の実弟で、岸政権の蔵相だった佐藤栄作(後の首相)が米国に露骨に資金支援を求めたり、佐藤が資金受領を自民党幹事長だった川島正次郎に任せたことなどが公文書に具体的に実名で出てきます。

一方、旧ソ連から社会党、共産党に流れたとされる秘密援助も毎年変化しますが、その中で、ソ連を中心とする東側から1955年に日本共産党に提供された資金は25万ドル(9000万円)とソ連共産党公文書に記載されているとし、「CIAの支援額とは桁が違っている」と著者は書いています。

 まあ、随分、生々しいお話だこと! 情報公開した米国とソ連の英断も讃えたくなります。公文書を改ざんしたり、破棄したり、シュレッダーにかけたりするどこかの国とえらい違いですね。

 私は若い頃から政治家には不信感を抱いて生きておりましたが、これでは、右翼も左翼も、みんな売国奴じゃありませんか。自民党(そして、社会党右派から分裂した民社党も)は米国からお金をもらい、社会党と共産党はソ連からお金をもらい、政権維持や票集めの道具に使っていたわけですからね。となると、お金をもらっている日本の政党は、米国やソ連の傀儡に他ならなくなります。

 今は露骨な資金援助はないでしょうが、何か別の形で援助が来ているのではないかと私は疑っています。こんなんでは、自主独立国家と世界に胸を張ることはできませんよね?それとも、国際世論はとっくに、日本は米国の属国だと思っているのでしょうか?

 「そんなことはない」と、日本の政治家の皆さんには率先して訴えてもらいたいです。

笑うしかない明治から現在に至る贈収賄疑惑の数々=室伏哲郎著「実録 日本汚職史」

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 室伏哲郎著「実録 日本汚職史」(ちくま文庫、1988年2月23日初版)を読了すると、かなりの無力感に苛まれてしまい、落ち込みます。明治の近代化から始まった政治家と政商財閥との贈収賄汚職疑惑を総覧したノンフィクションです。今さら読むなんて遅すぎますが、古典的名著です。個人的に知らなかったことが多かったです。著者の室伏氏(1930~2009年)は「構造汚職」の造語を発案した作家としても知られています。

 この本を読むと、歴史上「偉人」と教え込まれた明治の元勲たちも、500以上の会社を設立して日本の資本主義を切り開いた貢献者・渋沢栄一も、早稲田大学を創設した大隈重信も、皆、みんな、汚職の疑惑まみれで、自分は何の歴史を学んできたのか、と疑心暗鬼になってしまいます。

 著者は第1章でこう書きます。

 クーデターによって政権を握った明治政府は、国民のどの階層にもしっかりした支持も基盤も持たなかった。だから、為政者たちは…天皇を神に祭り上げて…、国民を遮二無二「富国強兵」に追い立てたのである。「殖産興業」も彼らの合言葉であった。

 天皇制政府の産業奨励、資本主義の育成というのは、中央政府の吸い上げた富を少数の利権屋に与え、利権屋・財閥と政府高官が私腹を肥やすことであった。いわゆる政商型資本主義である。

 この後、著者は、明治5年の「山城屋事件」から昭和61年の撚糸工連汚職に至るまで、「これでもか」「これでもか」といった感じで疑惑汚職を並べて解説してくれます。

 私が知らなかった疑獄事件に、明治6年に明るみに出た「三谷屋事件」があります。三谷屋は、長州閥の陸軍に食い込んで暴利を貪った政商で、山縣有朋の妾の小遣いまで出していたといわれます。それが、三谷屋の手代・伊沢弥七が内緒でやった水油の思惑買いが大暴落して、莫大な借金を抱えてしまいます。三谷屋の失脚を狙った三井系商社による投げ売りが原因と言われています。

 落ち目の三谷家は、政府高官の入れ智慧に従って、日本橋、室町、京橋など市内目抜きの地所53カ所全てを見積もって5万円で三井組に提供することになります。ただし「10年後には全ての地所を無条件で返却する」という返り証文を付けてでした。

 ところが、10年経って三谷家が三井組から地所を返却してもらおうとしたところ、返り証文が見つからない。当時、三谷家の当主がまだ若いという理由で、返り証文を預かっていた姉婿の三谷斧三郎が放蕩の末に金に困り、それに付け込んだ三井組が密かにその返り証文を二束三文で買い取ったらしいのです。

 ということで、三谷家の「身から出た錆」とはいえ、世が世なら、今頃、銀座1丁目や日本橋の超・超一等地は、三井不動産ではなく、三谷財閥が開発していたことになります。となると、GHQ占領下時代に室町の三井ビルを根城に権勢を振るって「室町将軍」と呼ばれた政界の黒幕三浦義一氏も、三井財閥ではなく、三谷財閥を相手にしていたのかもしれません(笑)。

 このほか、面白かったのは(と、やけ気味に書きましょう)、出版社が県知事に賄賂を贈って教科書を採用してもらうように働きかけた明治35年の「教科書事件」、大正時代の売春汚職「松島遊郭疑獄」、放蕩の挙句に借金まみれになった元官僚が、桂太郎首相の娘婿の肩書を利用して内閣賞勲局総裁になり、賄賂を取って勲章を乱発した「売勲事件」(昭和3年)などを取り上げています。

 しかし、疑惑ですから、ほとんどの政治家や高級官僚は捕まらないで有耶無耶になってしまうんですよね。

 著者の室伏氏も書いています。

 三面記事を派手に賑わせる強盗、殺人、かっぱらい、あるいはつまみ食いなどという下層階級の犯罪は厳しく取り締まりを受けるが、中高所得層のホワイトカラー犯罪は厳格な摘発訴追を免れているーいわゆる資本主義社会における階級司法の弊害である。

 そうなんですよ。時の最高権力者が自分たちに都合の良い人間を最高検検事総長に選んだりすれば、汚職疑惑の摘発なんて世の中からなくなり、曖昧になるわけです。

 文庫の解説を書いた筑紫哲也氏も「本書を通読して驚かされるのは、恐ろしく似たような権力犯罪が明治以来現在まで繰り返されていることである。このことは、税金をいいように食い尽くされてきた納税者が、そのことに鈍感または寛容であり続けてきたことが連動している」とまで指摘しています。

 人間は歴史から何も学ばないし、同じ間違い、同じ罪を犯し続けます。まあ、笑うしかありませんね。悲劇というより、喜劇ですよ。

(引用文の一部で漢字に改めている箇所があります)