マイケル・ピルズベリー著「China 2049 秘密裏に遂行される『世界制覇100年戦略』」 Third edition

ゲインズボロ(ワシントン・ナショナル・ギャラリー所蔵) Copyright Par Duc Matsuocha gouverneur

 皆様ご案内の通り、迂生は昨年、黄泉の国を徘徊逍遥しておりましたので、ほとんど本を読むことはなく、その年に何がベストセラーになったのか知らない有様でした。

 そんな中で、会社の同僚の河野君から、「この本は、俺が昨年読んだ本の中で一番よかった本だ。読んでみるかい?」と手渡されたのが、マイケル・ピルズベリー著・野中香方子訳「China 2049 秘密裏に遂行される『世界制覇100年戦略』」(日経BP社)という本でした。

 実に、実に、実に、おっとろしい本でした。

 実は、途中で何度も読むのを投げ出したくなりました。変な風に聞こえるかもしれませんが、とても重要で興味深い面白い本であるのに、「面白くない」のです。この「面白くない」というのは、つまらない、という意味ではなく、不愉快という意味に近く、というより、そんな強い意味ではなく、ただ読んでいてあまり楽しくないという意味です。それは読者の立ち位置によって、まるっきり違ってしまうかもしれません。中国人のタカ派が読めば、血沸き肉が踊り、大変痛快かもしれませんが、特に米国人、そして日本人が読めば、まさしく、不愉快に近い「面白くないなあ」という感慨を抱いてしまうと思われます。

ラ・トゥール(ワシントン・ナショナル・ギャラリー所蔵) Copyright Par Duc Matsuocha gouverneur

 語弊を恐れずに書けば、世界中の保守保護貿易派の皆さんに「それ見たことか!」と勇気と力を与えるようなイデオロギッシュ(イデオロギーとエネルギッシュを合わせた造語)な体裁になっているのです。さぞかし、来年、大統領の椅子に座っているかもしれないトランプ氏のバイブルになるやもしれません。勿論、日本の安倍さんにとっても、フランスのル・ペンさんにとっても…。

 著者のピルズベリー氏は、長年、国防総省やシンクタンク「ハドソン研究所」などで中国研究、特に中国の対米戦略の研究を続けてきた、恐らく、米国の第一人者です。これも、恐らくですが、米国の対中政策に多大な影響を与えた人物でしょう。米国内で数えるほどしか閲覧することができない機密文書に接したり、製作したり、政府中枢に助言できる立場にいた人物だったからです。

ベラスケス(ワシントン・ナショナル・ギャラリー所蔵) Copyright Par Duc Matsuocha gouverneur

 そのピルズベリー氏が「執筆に50年を要した」というのが本書です。当初は、「パンダハガー」(パンダをハグする人=親中派)として、中国に対して技術面でも軍事面でも実業でも、極秘に支援し、将来、中国は民主的国家になって、米国の国益に利することになるだろうという楽観派でした。

 しかし、長年、中国の政府や軍事関係者と意見交換しているうちに、この考え方は間違っていたことに気づいていくのです。そのことについて、事細かく書かれているのが、本書ですが、私は、非才で、その内容をうまくコンパクトにまとめることができません。皆さんも是非読んでみてください、としか言いようがない「戦慄の書」です。

ティティアン(ワシントン・ナショナル・ギャラリー所蔵) Copyright Par Duc Matsuocha gouverneur

 一言だけ、追加できるとすれば、中国共産党政権は、1949年の建国以来、「100年マラソン」を続けており、100年後の2049年までには、中国は、周辺国(つまり、日本ですねえ)はもとより、米国も圧して、世界一の覇権国になっている、という内容なのです。

 しかも、隠密に覇権国になっているので、誰も気がつかない。表では、「技術力もない、軍事力もない、ひ弱な貧乏三等国」のように謙虚に振る舞って、相手を油断させて、莫大な支援を獲得して、陰では、サイバー攻撃で、あらゆる機密情報を窃盗して、剽窃し、知的財産権をただで手に入れ、しかも、米国から支援された軍事技術を、あろうことか、米国が敵対するイラクや北朝鮮などに輸出し、しかも、深刻な大気汚染を世界中にまき散らしてきた事実をつかむのです。

 中国の目的は、とにかく世界制覇で、20世紀に欧米列強や日本から半植民地化された復讐をして、18世紀に世界のGDPの3分の1を占めた世界最大の「強い帝国」を復活させること。そのためには、手段は選ばず、「面従腹背」「外儒内法」(外では温厚に、中では情け容赦なく)は何のその。つまり、トウ小平の言うところの「韜光養晦」(とうこうようかい=野心を隠して、力を蓄える)で、まんまと敵を、知らず知らずに自分たちの計略にはめ込む戦略だというのです。

 さらには、別に軍事力で世界制覇しなくてもいい。「国家ぐるみ」で、経済規模を膨らませ、そのうち米国経済の2倍も3倍も凌駕して、孫子の兵法のように「中国は戦わずして勝利を収めるだろう」と、ピルズベリー氏は予言するのです。

 勿論、これらの予言は、ピルズベリー氏という対中戦略研究家の米国人の色眼鏡を通して、という大前提があることは確かです。しかしながら、「親中派」から「反中派」に転向した現場を熟知した専門家による理路整然とした本書は、たとえ全面的に賛同できなくても、現代人として、一読の価値があることは確かなのです。

「脳には妙なクセがある」third edition

 登り甲斐がある  Copyright Par Duc Matsuocha gouverneur

 最近、脳に関して関心と興味が湧いています。

 池谷裕二著「脳には妙なクセがある」(扶桑社)は、エッセイをまとめて、単行本用に全面書き直したもので、大変面白かったです。

 悪く言えば、海外の「ネイチャー」や「サイエンス」など一流の科学誌に載った臨床実験をそのまま引用したものですが、巻末に挙げた参考文献だけでも207点もあり、しかも全て英文。これだけ、読みこなすだけでも重労働です。まあ、著者の本職は、東大大学院の薬学系研究科の准教授ですからね。

 著者は、今、若手の脳学者としてメディアに引っ張りだこだそうですが、私は彼の著作は初めて読みました。

 初心者にも分かりやすく書かれているので、とにかく途中でやめられないほど面白いです。悪口を言っておきながら、お勧めです(笑)。

 機関車もいろいろ  Copyright Par Duc Matsuocha gouverneur

 色んなことが書かれているので、まとめることはできません(笑)。ですから、心に残った意外な臨床結果を順不同で、そして換骨奪胎で羅列してみようかと思います。

・意識と無意識はしばしば乖離する。しかし、実は無意識の自分こそが、本来の真の姿なのだ。

・歳を取ると、より幸せを感じるようになる。

・楽しいから笑うのではなく、笑うから楽しい。つまり、笑顔という表情の出力を通じて、その行動結果に見合った心理状態を脳が生み出す。これは、笑顔に似た表情を作るだけで愉快な気分になれるという実験データから得られたもので、行動(出力)は、心理や気分より先だということ。

・同じように、眠くなるから横になるのではなく、横になるから眠くなる。

・人差し指が薬指より短い人は、株儲けしやすい。

・オーガニック食品が健康によいという科学的証拠はいまだに欠如している。農薬を使わない自然派野菜が優れていると感じるのは妄想に過ぎない、という説も。
 おばあさん、危ないよ  Copyright Par Duc Matsuocha gouverneur

・私たちは相手の顔の「左半分」を特に重視している。だから、左半分さえ笑っていれば、それだけで何となく笑っているようにみえる。相手にとっての左視野は、自分の「右側」に注意が集まっていることになる。

・人間は、映像や外界の判断を担当するのが「右脳」のため、「左視野」に強い反応をするが、「左脳」も左視野を重視する傾向がある。

・勉強は、「入力」を繰り返すよりも、「出力」を繰り返す方が、脳回路への定着が強い。つまり、教科書を復習するよりも、問題を解く方が効果的だ。

・脳によいもの。例えば、オメガ3不飽和脂肪酸(DHA=魚油に多く含まれる脂肪酸)、フラボノイド(ココア、緑茶、柑橘類など)⇒認知機能低下の改善

・脳の本来の役割は、外界の情報を処理して、入出力変換装置」だった。つまり、当時の脳は、とことん身体感覚(入力)と身体運動(出力)の処理に特化したはず。

・しかし、ヒトの場合、旧脳(小脳、脳幹、基底核)より、大脳新皮質が、発達した。大脳は、身体性が希薄で、解剖学的にも、身体と直接的な連結はほとんどない。

・従って、大脳新皮質が主導権を持つヒトの脳には、身体を省略したがる癖が生じ、その結果生まれたものが、計算力、同情心やモラルなどの機能ではないか。

 ま、この辺でやめときます。ご興味のある方はどうぞ、購入されるなり、図書館でお借りになるなりして下さい。

 さて、渓流斎ブログの恒例のランキングを下欄に付記しておきまする。

日付       閲覧数   訪問者数  ランキング

2016.03.20(日)  307 PV  144 IP   11878 位 / 2440228ブログ
2016.03.19(土)  212 PV  109 IP   14059 位 / 2439133ブログ
2016.03.18(金)  163 PV  89 IP   17896 位 / 2437913ブログ
2016.03.17(木)  150 PV  78 IP   17041 位 / 2436749ブログ
2016.03.16(水)  335 PV  141 IP   7902 位 / 2435488ブログ
2016.03.15(火)  237 PV  119 IP   13798 位 / 2434107ブログ
2016.03.14(月)  212 PV  122 IP   12145 位 / 2432824ブログ

「家族という病」

満月のハバロフスク Copyright par Duc Matsuocha-gouverneur

 昨年、大きな話題を呼んで大ベストセラーになった下重暁子著「家族という病」(幻冬舎新書)を読了しました。

 何で今頃?(笑)

 いや、実は、都内の図書館(この表現が実に微妙です)に借出の予約を昨年5月頃にしたところ、一昨日になってやっと9カ月ぶりに、貸出の許可が下りたので取りに行ったのです。予約していたことさえ忘れていました(笑)。

アムール河 Copyright par Duc Matsuocha-gouverneur

 2~3時間で読めました。

 もっと凄い話かと思いましたら、そして、恐らくご本人は否定されるでしょうが、下重さんの家族の来歴の話でした。

 下重さんのご尊父は、歴史探偵の半藤一利氏も太平洋戦争の最も罪深い戦犯の一人に挙げていた辻政信と陸軍士官学校で同期だったそうですね。戦後、公職追放に遭い、少女だった下重さんは、「あなたには毅然としていてほしかった」と生涯実父を恨み続けます。

 アムール河 Copyright par Duc Matsuocha-gouverneur

 下重さんは、略歴には書かれていませんでしたが、本文に「2・26事件」が起きた3カ月後に生まれた、と記述しておられますので、昭和11年(1936年)生まれでしょう。ということは、今年傘寿ということになります。

 私の世代ならギリギリ彼女のNHKのアナウンサー時代を知っています。まあ、今は飛ぶ鳥を落とす勢いの「女子アナ」の先駆けみたいな人かもしれません。(こんなことを書くと怒られるでしょうなあ)フリーアナウンサーになった後、文筆家としてエッセーやノンフィクションなどを量産されているようですが、申し訳ないですが、彼女の著作を読むのは、私は今回が初めてでした。

 ハバロフスク寺院 Copyright par Duc Matsuocha-gouverneur

 彼女は独身だとばかり思っていましたら、「つれあい」は、テレビ局の中東特派員を務めたことがあるジャーナリストで、お互いに干渉せず、「パートナー」として、資産は別々に管理して、生活費は折半して住んでいらっしゃるようです。

 と、この本には書かれていました。「つれあい」というのは、何で、つれあいのことを「主人」と呼ばなければいけないのかという彼女の信念と中山千夏さんの顰に倣ってそう呼ぶようです。ジェンダーの先駆者と書けば、また彼女は怒るでしょうね。

 「家族という病」の結論めいた話は、58ページにある「面白くないのは、家族のことしか話さない人。」と断言していることでしょう。
 下重さんにとっては、家族の話は実に不愉快なんでしょうね、きっと。それでいて、私自身はほとんど興味がないのに、母親に溺愛されたとか、この本で彼女の家族のことについて、散々読まされました。

 嗚呼、やっぱり、図書館で借りてよかった。

神社の不思議

調神社

三橋健著「神道の本」などを読んでおりますが、学ばさせて頂くことがあまりにも多すぎて、嬉しや哀しやです。(意味不明)

まず、「榊」(さかき)。これは日本で作られた国字(漢字)で、「木」プラス「神」で、神事を司る重要な樹木です。

神社とは、もともと神霊が降臨する空間のことで、ここは人間はおろか鳥獣まで立ち入りが禁足される聖なる空間でした。この神の聖なる空間と人間の俗なる空間の境目に境木(さかき)=榊を立てて、区別したというのです。

人も鳥獣も入らないと、その聖なる空間は森になる。日本最古の歌集「万葉集」では、「神社」とかいて「もり」と読んでいます。社=やしろの「や」は「弥」の略で、「ますます」という意味。「しろ」は城で、神が占有する聖なる空間ということになります。

その後、その聖なる空間は、玉垣を巡らせて区画をはっきりさせますが、仏教寺院の影響で、区画内に社殿が建てられるようになったといいます。

神社や参道の入り口には鳥居があります。聖と俗を区別するゲートです。大抵の鳥居は、二本の柱の上部に「笠木」と「貫」と呼ばれる二本の横木が平行に据えつけられますが、写真の、埼玉県の浦和にある「調(つき)神社」(地元では「つきのみや じんじゃ」と呼ばれている)にはご覧の通り、全国でも珍しく横木がなく、注連縄のようなものが架かっているだけです。

これは、律令制時代の税制である「租庸調」の「調」と関係があるという説もあります。

神使は、たいていの神社は狛犬が多いのですが、ここは珍しく「兎」です。

神道思想も、縄文期の自然界の精霊を祀る極めて清楚なものから始まり、飛鳥時代からの「仏教伝来」の影響で、奈良時代は「神仏習合」、平安時代は「本地垂迹説」、鎌倉時代は「伊勢神道」「法華神道」などが起こり、室町時代には、本地垂迹説とは真逆の「神本仏迹説」は成立し、戦国時代にかけて、その「神主仏従説」を徹底した吉田神道が隆盛を極めます。

江戸時代になると、徳川幕府が朱子学を奨励したため、山崎闇斎の「垂加神道」などの「儒家神道」が盛んになり、江戸後期になると、仏教や儒教との混交を排した純粋な「国学」である「復古神道」が巻き返します。この代表的な研究者に本居宣長、平田篤胤らがおり、彼らの思想が幕末の志士らに受け継げられ、明治新政府による神仏分離令(「廃仏毀釈」に発展)で、「国家神道」が成立します。

そして、前回も書いたように、敗戦後の日本は、GHQにより「国家神道」が廃止解体されるわけです。

何か、国際政治的に見ていくと、当初は古代インドの影響にどっぷりつかり、近世になって中国の影響も受け、近代になって、インドも中国も排して国粋主義を目指しますが、最後は、米国による占領支配で、国粋が否定されて、グローバリズムの道を歩まざるを得なくなったということでしょうか。

評論家の小林秀雄が、若い頃はフランス文学を中心とした西洋研究から始めたのに、晩年になって急に国学者の本居宣長の研究に残りの生涯を捧げます。若かった昔の私は、その理由(わけ)がさっぱり分からなかったのですが、年を経た今では、分かるような気がしてきました。

金融リテラシーは必要十分条件

 My Deer

16日から始まる日銀による「マイナス金利」政策の庶民への影響が徐々に見られ始めました。銀行の普通預金も定期預金も利下げの発表がされ、真綿で首を絞められるように、もしくは、ボディブローのように、ジワジワと効いてくるでしょう。

取り敢えず、庶民としての防衛策は、騙されないように理論武装するしかありません。そうでなくても、私は日頃から「金融リテラシーがない」と批判されておりますので、今、一生懸命に勉強(笑)しています。

先日読んだ小口幸伸著「2時間で分かる外国為替」(朝日新書=2012年8月1日初版)で、生まれて初めて外為の概要をつかめたといった感じです。著者の小口氏は、実際にシティバンクなどで為替ディーラーを務めていたので、学者やエコノミストが書くものと違って、体験に基づき実践的で、説得力がありました。

今は、最新の知識(とはいっても初版が2015年2月16日ですが)を得ようと、上野泰也編著「金融の授業」(かんき出版)を読んでいます。いわゆる一つの「入門書」ではありますが、この本を読むと、自分の金融知識は、何十年も昔の高校生レベル以下かなあ、と思ってしまいました(苦笑)。

何しろ、昔習った「マネーサプライ」も「公定歩合」も今は使わないんですってね。つまり「死語」扱いですよ。

愛読者の皆々様方は、知的レベルが高い方ばかりですので、付け加える必要はないと思いますが、敢えて屋上屋を架してみますと、「マネーサプライ」は、今は「マネーストック」に名称変更されたそうですね。2008年からですが、私もボヤボヤしていたものです。

「公定歩合」も2006年から「基準割引率および基準貸付利率」と名称変更されています。もう10年前ですね。今でも、たまに、新聞などで公定歩合の名称が使われているので、変更されていたとは知りませんでした。

この本には、「ABS」だの「TDB市場」だの、「レポ」「スプレッド」など専門用語がたくさん出てきて、ページを捲るとすぐ忘れてしまいます(笑)。

とはいえ、何しろ、今は、「量的・質的緩和」プラス「マイナス金利」の時代ですからね。将来どうなってしまうのか、1000兆円に上る財政赤字を含めて、実に心配です。

ですから、少なくとも、「今、現時点で何が起きているのか」ぐらい知っておくべきではないか、と慣れない専門用語と格闘しています。

◆過去3週間の閲覧数・訪問者数とランキング(週別)

日付             閲覧数    訪問者数   ランキング
2016.01.31 ~ 2016.02.06   1563 PV   908 IP    13816 位 / 2389776ブログ
2016.01.24 ~ 2016.01.30   1934 PV   871 IP    10432 位 / 2382273ブログ
2016.01.17 ~ 2016.01.23   1855 PV   756 IP    9111 位 / 2375503ブログ

成果主義の時代

arrondissement

今や何処の企業でも、メーカーからマスコミに至るまで、「成果報酬」なる妖怪が歩き回っています。

デパート大手の三越伊勢丹も4月から販売員にこの「成果報酬」を導入するようですね。最大年100万円ほど上乗せされるそうです。コンビニのせいか、百貨店も、「衰退産業」と最近言われるようになり、インセンティブを導入することになったのでしょう。

確かに、日本の雇用形態は、一昔前と比べてすっかり様変わりしました。私が就職した頃は、「終身雇用」「年功序列」がほぼ当たり前で、社畜じゃなかった、社員は一生、身を粉にして会社に精神精励尽くすというのが基本でした。もっとも、当時は定年は55歳で、年金もたんまり出た頃でしたが。

それが、今では、グローバリズムとやらで、「終身雇用」も「年功序列」も崩れ、ポストに給料を支払う時代になってきました。例えば、「部長」というポストに賃金を与えているだけであって、その部長が30歳だろうが、50歳だろうが、関係ない。もしかして、人格も教養も品格も関係ないかも(笑)。

基準は「成果」のみ。30歳で部長になっても、営業成績が落ちれば、ウカウカしていられません。50歳代ともなれば、子供に教育費が幾何学級数的に増大する頃。ヒラのまんまでは、子供に大学進学を諦めてもらうしかないかもしれません。

昨日もご紹介した小口幸伸著「2時間で分かる外国為替」(朝日新書)には、こんな面白い記述がありました(換骨奪胎)。

…私の経験では、収益力のある為替ディーラー(全体の1割程度でしたね)は、ほぼ例外なく寡黙か、饒舌のどちらか。饒舌なら非論理的で支離滅裂です。その一方、収益力のないディーラー(全体の約2割)ほど、論理的でしかも明解で分かりやすい。私はその理由について考えたところ、相場の肝は、ギリギリの場面では判断力がモノを言い、決め手になるが、その場合、いくつかの要素がせめぎ合っているため、論理的に語れない。それに対して、収益力のないディーラーは、そこを素通りにして明解な世界でしか勝負していないから判断が遅くなるのではないか…

これは、どんな仕事にも通用するような示唆に富んだ言葉ですね。

私の考えは、「終身雇用」「年功序列」のようなシステムの方が、日本人に合っていると思います。「成果主義」は、上司のさじ加減でどうにでもなりますから、まるで戦国時代みたいなもんです。非論理的な、つまり今で言う反知性主義で、ヒラメのように寡黙か、声がでかい奴の勝ち(笑)。

「日本式では、国際競争に乗り遅れる」と、社内公用語に英語を導入した企業もあるようですが、笑止千万。「滅私奉公」も「刻苦精励」も読めない、意味も分からない日本人を増やすだけです。

今メディアに盛んに出てくるグローバル社長は、儲かれば何をしてもいい。手段を選ばない我利我利亡者みたいに見えてきてしまいます。

確固とした経営哲学を持っていた松下幸之助や本田宗一郎らとえらい違いです。

山崎元著「投資バカにつける薬」

 Nouchavilla

1月13日に書いた渓流斎ブログ「人間にはひねくれた性質があるらしい」に「金満家」さんから貴重なコメントを頂きました。

あのコメントを読んで、私も発奮しましたよ。何しろ、私は自他ともに認める金融リテラシーが大幅に欠けた人間ですからね(笑)。

難しいことは分からないので、やさしそうなものを片っ端から読んでみました。例えば、小宮一慶著「現金は24日におろせ!」(KKベストセラーズ)、同著「お金を知る技術 殖やす技術」(朝日新書)、澤上篤人著「10年先を読む長期投資」(朝日新書)等々です。

なるほど、世の中、こういう金融システムで動いているのか、と入門書としてなかなか勉強できました。

ただ、一番ショックを受けたのが、例のコメントをして下さった「金満家」さんが名前を挙げた山崎元氏の著書でした。「投資バカにつける薬」(講談社)という本です。

実は、まだ途中なのですが、目下、「金融リテラシー界」(そんなもんないですか=笑)で広まっている「常識」に果敢に挑戦し、「こんなことを暴いたら、金融界のボスから暗殺されるのではないか」と思わされるぐらい、著者は、金融界の内幕を暴露しています。

これまでの社会通念といいますか、「常識」への問いかけとその反論で、この本は成り立っています。

例えば、「いま投資すれば、確実に儲けることができます」と言われたら…。「だったら、何故自分で投資しないのですか?」と問え、というのです。要するに販売する証券会社も銀行なども、客(業界ではドブと言っているらしい)の販売手数料さえ取れれば「営業成績」になっていいだけの話で、自分たちは損すると考えているから投資なんかしない、というわけです。

澤上篤人さんの「10年先を読む長期投資」を読んで、「そっかあー、投資は、長期でするものなんだなあ」と感心していたら、山崎さんは「投資に『短期は不利』『長期は有利』という法則は当てはまらない」と、バッサリと袈裟懸けに斬りまくります。

「はじめに」で山崎さんは、「本書の内容は、売り手(銀行、証券会社など)にとって不都合な話ばかりです。こういうことばかり言っていると、私もそのうち売り手に嫌われてしまうかもしれません。(中略)いずれにせよ、個人投資家は自ら理論武装し、正確な知識を身に着けて『投資バカ』を治療し、自分で考えて投資を行えるようにならなければなりません」と明快に書いています。

その上で、「運用商品のほとんどが投資に値しない」「セールスマンの『相場観』は当てにならない」「『売り手の儲けは借りての損』―これはすべての金融商品に当てはまる法則だ」と明記しています。

これからも、世知辛い世の中が続くと思います。既に、変なものに投資してしまった人は、大いに反省して、「理論武装」するしかありませんね。まあ、これだけのことを書いても、著者の山崎さんは、干されたりされないで、今でもご活躍中ですから、彼の「理論」に、皆さんも一度接近してみたらいいかもしれませんね。

本多静六という人

Hyakkodatei

かつて、私の勤める会社が日比谷公園(地名)にあった頃、よく日比谷公園(場所)を散策したものです。

この公園内に「資料館」といいますか、小さくて狭い「資料室」がありまして、そこで初めて、この日比谷公園をつくった人が本多静六という人だということを知り、脳裡に刻まれました。ただ、庭園家か造園師かと思い、「凄い人だなあ」と感嘆しましたが、この人についてそれ以上の興味が湧くことはありませんでした。

そしたら、先日、開架式の図書館でたまたま、この人の名前を見かけて、手に取って読み始めたらやめられず、借りてきてしまいました。

その本は、本多静六著「私の財産告白」(実業之日本社=初版は昭和25年)という本で、同社から復刻された本多の三部作(残りは「私の生活流儀」「人生計画の立て方」)の一つだったのです。

この本で初めて、本多静六の人となりを知ることになりました。本多は慶応2年(1866年)、埼玉県河原井村(現久喜市菖蒲町)生まれ。東京帝大農学部の教授を務めながら、巨万の富を築いて、昭和2年(1927年)の定年退官後、匿名で全財産を寄付した人でした。日比谷公園のほかに、埼玉県の大宮公園や福岡県の大濠公園など100カ所以上の公園の設計、改良などを成し遂げた人だったのです。

東大農学部は、もともと東京・駒場(現在の東大教養学部)にあったことは知っていましたが、本多が入学した頃は(1884年)、東京山林学校と呼ばれていたんですね。これは知らなかった。東京山林学校は、1886年に東京農林学校となり、翌87年に帝国大学農科大学となり、本多は90年に首席で卒業し、ドイツ・ミュンヘン大学に留学します。

その後、東大の助教授、教授となりますが、後述する方法で巨万の富を得て、学士会の寄付金に一千円を寄付したところ、「一介の学者が何でそんな大金を寄付できるのか」と同僚の学者らから妬まれて、「辞職勧告」を受けたりします。本多の蓄財法は至ってシンプルで(とはいえ、誰にでもできるわけではない)、毎月の給与の4分の1を貯蓄に回し、いくらか貯まった後、株や山林などに投資して雪だるま式に増やしていくというもの。ただし、当初は、世帯には親子ら9人もいたので、月末は、胡麻塩ごはんだけで済ます苦労を強いられたりします。とにかく、勤倹貯蓄、刻苦精励を実践して、「人生即努力、努力即幸福」をモットーに、働学併進の質素な生活を続け、昭和27年(1952年)に85歳で逝去するまでに、370冊以上の著作を残したといいます。

この本で、1カ所だけ引用するとしたら、189ページにある…

「なんでもよろしい、仕事を一生懸命にやる。なんでもよろしい、職業を道楽化するまでに打ち込む、これが平凡人の自己を大成する唯一の途である」

本多静六は、造園家としてだけでなく、中村天風のような人生訓の大御所として名を残していたんですね。

「未完結感」をなくすということ

P,P,P,Paris

今年は暖冬ですね。私の住む集合住宅の南に面した室内は、暖房を入れなくても摂氏28度もあります。

そのせいか、「冬物が売れない」という嘆き声が聞こえてきます。かの量販チェーン店も苦戦してますが、「理由は、それだけじゃない」という記事もみかけました。中身は詳しく読んでいないので、ここまで(笑)。

さて、植木理恵著「ウツになりたいという病」(集英社新書)は、精神的にしんどい人でもそうでない人でも、読むと何となく心の整理がついて、すっきりします。つまり、モヤモヤした感情を文字化・記号化してくれるからでしょう。

もっとも、著者は、自分の感情など言葉で言い表せないので、毎日毎時、色で表現したらいい、と勧めたりしています。ヒトの感情は、体調や周囲などに影響され、1週間どころか、毎日毎時、刻々と移り変わり、そういう自分を受け入れることも勧めています。

著者は美人カウンセラーとして、テレビによく出ているそうですが、私はあまりよく知りません。関心したのは、巻末の参考文献としてほとんど英語の原書を列挙していたことです。

著者本人も何年もパニック障害で苦しんだ体験があり、そのせいか、何となく説得力があります。

かつての、この種の本は、自己啓発セミナーなどにもみられるように、「苦しい時こそ笑顔を浮かべれば、開放される」などと、ポジティブな考え方優先の理論で占められていましたが、この本では、自分のネガティブな部分も受け入れて、認めてあげようというスタンスなのです。
正確に言うと、ネガでもポジでもどちらかに偏らず、バランスをとる、という手法です。

また、従来のウツの人は、「自罰主義」で自分を責めてばかりいましたが、最近の新型ウツには、「他罰主義」が見られ、すべて、周囲の家族や、先生や、社会のせいに責任転嫁してしまう傾向がみられるそうです。自己評価が高い人が多い新型ウツの人に「頑張れ」というのは禁句で、むしろ、「あなたが会社を休めば、社にとって大損失ですよ」などと、自尊心をくすぐったりすると、前向きになったりするそうです。

この本で私が注目した点はその『対症法』です。

まず、相容れない矛盾した二つのことが同時に起こり(例えば、学業や仕事の挫折や失恋など)、そのために強い葛藤が生まれる「認知的不協和」となります。

そうなると、普通の人は現実逃避して、なるべくそこから逃れようとしますが、それは逆効果で、その認知的不協和は、「残存」してしまいます。

ですから、
(1)できるだけ真正面からこの「認知的不協和」と向かい合う。
(2)心の傷から目を背けたり、忘れたりしないで、じっくりと傷と向かい合う。そうすると、ひどく落ち込んで苦しくて一層つらくなります。かなりの激痛を伴います=「塩塗療法」。しかし、実はそうすることによって、早くつらいことを忘れ、傷を癒すことができ、脳の「忘却する能力」を刺激することになります。
(3)最後に、自分の中でその認知的不協和の悲しくてつらいストーリーの結末をつくって、「未完結感」をなくすのです。

ほかにも、「矛盾も何かもあるがままに受け入れる」といった話もありましたが、皆様のように、毎日、健全な精神生活を送られている方は必要ないかもしれませんね。失礼しましたー。

富は幸福をもたらさない

I’m flying

昨日のブログ「高浜原発が再稼働とは」へのコメント「八百長相撲」さんには、恐れ入谷の鬼子母神でしたね。胴元とサクラの関係だったとは!知らぬは、テレビを見て「ガハハ」と笑って寝てしまう反知性主義者の皆さんのみということでしょうか。

さて、図書館で拾い読みしていたら、面白さにはまって、予定もしていなかったのに、つい借りてしまいました。ヤコブ・ブラーク著、小田麻紀訳の「ユダヤ人大投資家の『お金と幸せ』をつかむ正しい方法」(2010年10月初版)です。別に、タイトルに惹かれたわけではなく、開架式の本棚からたまたま手に取って読んだら、面白くて嵌ってしまったのです。何しろ、原題は拙訳すると「チンパンジーはリタイアの夢を見るのか?」ですからね。「こんなタイトルじゃ売れない」と、編集者が大仰なタイトルを付けたのでしょうね。版元を見たら、徳間書店でした。

別にこれから投資を考えている人だけが読む本ではなく、かなり人間というかヒトの本質をついています。何しろ、ヒトとチンパンジーのゲノムを比較したところ、ほとんど同じだったというのですからね。実に98.76%が重複していたというのです。道理で…ですね(笑)。

この本には心理学から社会科学から、色んな本や実験から引用して「教訓」めいたものを引き出しています。備忘録として、印象に残ったことを一部、適当に換骨奪胎して並べてみます。

●幸福になるための10の指針
1、経済的な成功が幸福をもたらすわけではないことに気づきなさい。富は幸福を保証するわけではない。
2、定期的に運動しなさい。運動は軽い鬱病を治すのを助け、身体と心を活気づけてくれる。
3、たくさんの交接をしなさい、なるべくなら愛する人と。
4、人間関係に投資しなさい。喜びも悲しみも分かち合える友人は、あなたの幸福に強い影響力を及ぼす。
5、必要に応じて、身体を休ませなさい。
6、自分の時間をきちんと管理しなさい。
7、自分の才能を活かせる仕事を探しなさい。
8、テレビを消しなさい。(以下略、詳細は本文に当たって下さい)
9、感謝の心を持ちなさい。(同上)
10、他者に救いの手を差し伸べなさい。利他主義によって、人生は一層、有意義なものとなる。

●「ブラックスワン」とは、通常の予想範囲を超える衝撃が大きくて予測の困難な珍しい出来事を意味する。

●私たちの幸福の多くは、未来を想像するという能力によって来ている。未来を想像できるから、人を信頼したり、喜びを感じたりできる。いつか相手からお返しがあると期待して。

●過度の情報は、それが大きな変動の時期に関連しているときには、とりわけ有害なものとなる可能性がある。

●1950年代の英国における無線通信の増加は、同時期の同地域における精神科病院への入院患者の増加と比例しているように見える。これは何を意味するのか?実は、何も意味がない。原因と結果を結び付けたいという私たちの強い願望が、一般に統計上の相関関係とされているものを生み出すのだ。

●人間は、低い確率を過大評価し、高い確率を過小評価しがちだ。

●人は、行動を起こさなかったことで生じる後悔よりも、行動を起こしたことで生まれる後悔の念の方が大きい。ところが、この主張は短期的には正しいが、長期的にみると、後者の方がより大きな苦しみを引き起こす。マーク・トウェイン曰く、「今から20年後、あなたは自分がやったことよりも、やらなかったことの方により大きな失望をおぼえるだろう」。

以上、まだ書きたいのですが、ご興味のある方は、本書を手に入れて読んでください。