「告発のとき」★★★

  いいご身分なので、平日の朝から映画を見てきました。

 

「クラッシュ」や「ミリオンダラー・ベイビー」でアカデミー賞を受賞したポール・ハギス監督作品「告発のとき」です。トミー・リー・ジョーンズ、シャーリーズ・セロン主演。

 

イラク帰還兵の息子マイクが、脱走兵(AWOL=Absent Without Official Leave)http://en.wikipedia.org/wiki/AWOL#Absent_Without_.28Official.29_Leaveになったという知らせを受けた元米軍憲兵軍曹のハンク・ディアフィールド(トミー・リー・ジョーンズ)が、真相を探るべく軍の基地に出かけ、驚愕の事実をつかむ話です。シャーリーズ・セロンは地元警察の女性刑事エミリー役で、軍警察と地元警察との間で所轄をめぐって微妙な駆け引きも見どころです。

 

いまだ現在進行形のイラク戦争をこういった形で取り上げるとは、「自由の国」アメリカも大したものです。

 

ただし、原題は、In the valley of Elah (エラの谷で)http://en.wikipedia.org/wiki/Valley_of_Elahなんですね。これは、旧約聖書サムエル記第17章に出てきます。後のイスラエル王になる若きダビデがペリシテ軍の戦士ゴリアトhttp://en.wikipedia.org/wiki/Goliathと戦った所です。

ハンクがエミリーの子供に寝しなに語って聞かせる話として、このダビデとゴリアトが急に出てきますが、全体のストーリーとはさほど関係がなく、異様に唐突で、旧約聖書に精通していない日本人の一人として、よく分かりませんでした。やはり、ハリウッド資本が関係しているのではないか、と勘ぐりたくなってしまいました。

 

でも、アメリカ人は子供の時から、この物語は聞かされ、教科書にでも取り上げられているのではないのでしょうか。ですから、「エラの谷で」http://en.wikipedia.org/wiki/In_the_Valley_of_Elahというタイトルを見ただけで、中身を想像できるのでしょうね。

それにしても、アメリカという国は、第二次世界大戦が終わっても、朝鮮戦争、ヴェトナム戦争、湾岸戦争、アフガン戦争、イラク戦争…と戦争のない時代がほとんどなく、まるで戦争が国家システムの中に必然的に組み込まれているかのように見えてしまいます。

「イースタン・プロミス」★★★★

 久しぶりに映画館で映画を見てきました。5月に見た「ぜア・ウイル・ビー・ブラッド」があまりにもつまらなくて、正直、映画館に足を向ける気力さえ失せていました。あまり面白そうな映画がなかったこともあります。

 

でも、今回見た映画はすごかったですね。

 

「イースタン・プロミス」という映画です。今年一年で印象に残るベスト7に入ります。

 

現代ロンドンを舞台に、人身売買の売春組織の話です。実在のロシアン・マフィア「法の泥棒」を扱っています。薄っぺらなハリウッド映画ではなく、イギリス映画なので、問題意識、問題提起が異様に深く、斬新で、残酷で、胸奥にぐさーとナイフを突きつけられた感じです。

 

抗争の殺害シーンは、あの「ゴッド・ファーザー」より、残酷で、正視に耐えません。東映ヤクザ映画も顔負けです。あまりにも残酷で、私もまともに見ることができませんでした。18歳未満お断りどころか、心臓が弱い人は見ない方がいいかもしれません。

 

運転手、後に罠に嵌められた格好で組織に正式に入会するニコライ役のヴィゴ・モーテンセンは、一癖も二癖もあって、本物のマフィア以上にマフィアに見えます。悪党ぶりが内部から滲み出て、それでいて、変な純粋な正義感があったりして好感が持てます。

 

トラファルガー病院に勤める主人公の助産師アンナ役のナオミ・ワッツの知的な美しさには吸い込まれそうです。イングリッド・バーグマンにも匹敵します。

 

粗筋を言ったら面白くないので、是非、一度見ることをお奨めします。あまり宣伝もしていないので、上映していることを知らない人も多いかもしれませんが、こういう映画こそ、いっぱしの鑑賞者を納得させてくれます。感動の余韻に浸ることができます。派手に宣伝したり、アカデミー賞候補などと言って騙されて見た映画にはがっかりさせられましたからね。

 

ただし、もう一度言いますが、心臓の悪い人は見ない方がいいですよ。

あ、明日は、通院、いや違った痛飲のため、お休みさせてもらいます。

おやすみなさい。

DVD半額セール

ここ数日、DVDで映画ばかり見ています。近くのレンタルビデオ屋さんが、半額セールをやってくれたからです。1本何と150円です!ロードショーの値段で10本以上見られてしまいます。

 

この半額セールは、レンタルビデオ屋さんにメールアドレスを登録すれば、その時期がくれば教えてくれます。店頭で、「半額セール」の証明書メールを見せればいいのです。1カ月に1回くらいあります。便利な世の中になったものです。

 

早速、3カ月前から見始めた「デスパレートな妻たち」シリーズを借りようと思ったのですが、丁度見たい巻だけが借りられていて、続けて借りられませんでした。仕方なく、第2シリーズの第5巻だけ借りてきました。内容の説明は省きますが、相変わらず、台詞がしゃれているというか、恐らく、本物のデスパレートな妻たちに取材して、彼女たちの会話を取り入れていることでしょう。とてもフィクションだけでは、ここまで書けません。

あとは、「ボビー」。1968年6月5日にロサンゼルスのアンバセダーホテルで暗殺されたロバート・ケネディ大統領候補を取り巻く、当日のホテルで繰り広げられた人々による群像劇。ロバート・ケネディは当時のテレビ画像などを使って本物が登場し、臨場感たっぷり。うまく作っていました。

 

「ダイ・ハード4」。おなじみのブルース・ウイルス主演の刑事ものアクション。コンピューター・ギークGeekが登場して、アメリカのインフラ(電気・ガス・水道・交通標識)システムに侵入して、米国内を大混乱に陥れる敵と戦うブルース・ウイルス。ありえるわけがない矛盾だらけの話なのに、「なかなか死なない人」の活躍を最後まで見てしまいました。

 

「ブラックブック」。第二次大戦末期のナチス支配下のオランダ。レジスタンス闘志の活躍を描くハラハラドキドキの物語。主人公は美人のユダヤ人で、ナチス大尉に取り入って、スパイとして潜り込むのですが、裏切りや報復があったりして、何か展開がよくわからなくなってしまいました。敵だと思ったナチスがレジスタンスのシンパだったり、一番信用していたドクターが結局は裏切り者だったりするからです。レジスタンスの闘志はほとんど殺され、最後はこの美人の主人公とリーダーだけしか残らない。美人さんはイスラエルに移住して二人の子持ちの母親兼小学校の先生というハッピーライフを送るのですが、ハリウッド資本映画にありがちな映画になってしまいました。ここには詳しく書けませんが、迫害されるパレスチナ人が主役の映画はほとんど全くないか、公開されたりしませんし、小説や物語が全世界で翻訳されることもありませんね。ということだけに留めておきます。

 

あと「オーシャン11」がありますが、まだ見ていません。

銀座の恋の物語

「デスペラートな妻たち」に強力なライバルが現れて、借りようとしたレンタルDVDが既に借りられてしまいました。目下、第2シーリーズの第4巻までいきました。スーザン、ブリー、リネット、ガブリエル、イーディーそしてマイク、ジョージ、ポールとみんな夢にまで出てきそうな強烈なキャラクターで、早く彼らから逃れたいと思っています。

 

仕方がないので、他のDVDを物色して「銀座の恋の物語」と「気狂いピエロ」を借りました。

 

「銀座のー」はもちろん、石原裕次郎と浅丘ルリ子主演の映画で1962年の作品です。記憶喪失になる荒唐無稽なストーリーには興味がなかったのですが、46年前の銀座がどんな風景だったのか興味があったのです。

 

驚きました。全く変わり果てて、面影すら残っていないのですよね。唯一、残っていたのは、この映画で最初と最後に出てくる銀座4丁目の和光の時計台だけです。向かいの三愛ビルは「建設中」でした。もちろん、道路には路面電車がまだ走っています。かすかに日劇と数寄屋橋が出てきます。そうか…。東京が変わり果てたのは、この後だったんですね。1964年の東京五輪に向けて、首都高速が作られ、川はほとんど埋め立てられんですね。

どういうわけか、銀座の松屋デパートが何度も出てくるのですが、恐らく、映画とタイアップしたからでしょう。もちろん、今の「MATSUYA」とは全く似ても似つかない百貨店です。

画家役の裕次郎とミュージシャン役のジェリー・藤尾が下宿している屋根裏部屋みたいな銀座のビルはどこら辺にあったのか、見当もつきませんね。そうそう、日比谷公園の噴水が出てきました。昔は夜はネオンでライトアップされていたんですね。

裕次郎も浅丘ルリ子も20歳代でしょうか。若いですね。二人とも歯並びがガタガタのところが新鮮でいいです。今の芸能人は、老いも若きも気味が悪いほど、白く矯正していますからね。

江利チエミも出演していて、時代の最先端のファッション・シーンが出てきますが、今では全く、通用しないファッションなので、ファッションというのは本当に一過性なんだななあと思ってしまいました。

 

「気狂いピエロ」はヌーベル・バーグの旗手ジャン・リュック・ゴダールの代表作(1965年)です。主演はジャン・ポール・ベルモンドとアンナ・カリーナ。

よく分からない映画でしたね。台詞が観念的すぎて、ちょっとついていけませんでした。昔はこれが「高尚」だと思われていたんでしょうね。でも、こういう作風ならやはり、ヌーベル・バーグは廃れるはずです。難解さと高尚さと紙一重かもしれませんし、この映画は誰でも知っている歴史的な名作かもしれませんが、私的には、ちょっと趣味が合いませんでした。途中で飛ばしてしまいました。

駄作でした…「ゼア・ウィル・ビ・ブラッド」


先週、満員で断られた映画「ゼア・ウィル・ビ・ブラッド」を敗者復活戦として、日比谷のシャンテ・シネまで観に行ってきました。アカデミー男優賞を獲得したから期待して観たのですが、ひどい駄作。観て損しました。

一番、面妖に思ったのは、主人公の「石油屋」が、そこまで大した理由がないのにも関わらず、平気で人を殺すことです。全く同情できません。勘弁してよ…、という感じです。

原作者も含めてこの映画の製作者は一体何が言いたいんでしょうね?

この世は、偽善者だらけで、金こそがすべて?

神は存在せず、迷信に過ぎない?

世の中、選ばれし者だけが成功して、それ以外の者はいくら努力しても報われない?

なるほど、それは自明の理で、永遠の真理なのかもしれません。

とはいえ、それらを現実問題として、毎日戦っている我々庶民にとっては、全くカタルシスがないじゃないですか。

私が観て損した、というのは、そういうことです。

ついに「靖国」を観てきました!

ついに、話題の映画「靖国」を東京・渋谷で見てきました。先日、弁護士会の試写会は落選して、「もう観られないのか」と諦めかけていたのですが、やっと、市井の民にも公開してくれました。場所は渋谷のシネ・アミューズ。まずは、予想されていた様々な妨害にも屈せず、公開にこぎつけた全国の映画館に感謝の意を表明したいと思います。ご覧のように、映画館の外では、二人の巡査クラスの警察官が、万が一に備えて待機し、館内では、二人の私服が、最前列に陣取り、一人の民間警備員がスクリーンの右横に上映中もずっと座っている、という物々しい警備態勢でした。観客は平日の午前だったので、「前期高齢者」が多く見受けられました。

 

私はこれでも、長い間、随分沢山の映画を観てきましたが、これほど厳しい警備の中で映画を見たのは初めてでした。

で、肝腎の映画はどうだったのかー。

あえて、賛否両論の大論争になることを覚悟して、私の正直な感想を書いてみたいと思います。

この映画を見た右翼の人で、「思ったほど反日映画じゃなかった」と言った人があるという記事を読んだことがありますが、「そうかなあ」と私は思ってしまいました。「反日」とは決め付けられないかもしれませんが、決して「好日」的に描かれていない。やはり、中国人の李纓監督の目から見た靖国神社(映画の原タイトル)であり、「嫌日」映画と言ってもいいと思います。日本に対して決して愛情を持って描いていない。それが私の率直な感想でした。

確かに、ナレーションはなく、「両者」の言い分を取り上げて、「中立的」には描いてはおりました。しかし、それでも監督の立ち位置は隠し切れません。無口で、職人気質の愚直な刀匠が主人公になっていますが、軍刀が日本のミリタリズムのシンボルになっており、時々、サブリミナル効果のように差し挟まれる軍刀による処刑シーンの写真は、否が応でもそれが凶器としての役割を担っていることを観た者に印象付けます。

それにしても、靖国神社という場は不思議な空間です。私も何回か行ったことはありますが、普段の何ともない日だったので、人も少なく割合と静かでした。

しかし、8月15日となると、全く違う空間としてエネルギーを発散するんですね。映画はこの8月15日を中心に撮られています。普段は冷静な市井の民が、自分と思想信条を違える人間を見た途端に豹変して、罵詈雑言を浴びせたり、平気で暴力を振るったりするのです。映画ではこのあたりを執拗に追っています。

私は、最初に嫌日映画と書きました。ということは、一人の納税者として、「この映画に助成金を出さなくてもよかったのではないか、もっと他の日本人の作った映画に助成するべきだったのではないか」という感想がよぎりましたが、こういう嫌日映画でも助成する日本の国家の懐の広さを感じ、あっぱれだと思ったので、反対はしません。

この映画が、これほど大騒ぎになったのは、昨年12月に週刊新潮が「反日映画」と書き、稲田朋美代議士が助成金を問題視して、「事前検閲」したことがきっかけでした。この映画で、議員になる前の弁護士の稲田女史が映っているという記事を読んだことがありましたが、集会で演説していた女性のことでしょうか?

彼女のプロフィールをネットで見てみると、自由主義史観研究会会員で、「伝統と創造の会」の会員のようです。そして、尊敬する人物として西郷隆盛を挙げておられました。

靖国神社は、官軍の戦死者の鎮魂のために建てられた東京招魂社が始まりですから、西郷さんはいくら明治の元勲とはいえ、最期は西南の役を起こして、明治政府に刃を向けた反逆者なので、靖国神社には祭られていません。況や、薩長土肥の革命政権に反発した会津藩の人々や新撰組の人たちも、祭られていません。もちろん、徳川政権の人々も。

そういう神社が国家神道のシンボルになったのは、列強欧米による植民地化を阻止するために富国強兵策を国是とした明治維新政府の意向があります。

我々日本人が靖国問題から逃れられないのは、組織に組み込まれたメカニズムのような、ボルトかナットの役目を一人一人が担っているからだと思います。我々は、先の大戦の加害者であり、被害者でもあるので、どちらの言い分が正しくて、どちらの言い分が間違っているという問題でもないのです。

ですから、私はこの映画に出てくる右翼の人たちの意見に共感したり、同時に反発したりしました。靖国に合祀されている元軍人の遺族の中で、合祀を取り下げるように神社に押しかける住職や台湾の人たちが出てきましたが、彼らに同情すると同時に、どこか、共感できない自分を発見したりします。

それじゃあ、お前はどっちなんだ。靖国参拝は賛成か反対か?白黒はっきりさせろ!と言われれば、私は喜んで「どちらでもない」と答えるのです。賛成者に対しては「戦争被害者の身になって考えたことがありますか」と言い、反対者には「国家(というより明治政府を作った薩長土肥による革命藩閥政権)のために身を捧げた英霊を尊崇する心を妨げることはできないのはないですか」と反駁します。

「ずるい、一番始末に終えない」と言われれば、それまでですが。

「フィクサー」はよく分かりませんでした

アカデミー賞主演男優賞を受賞した「ゼア・ウイル・ビー・ブラッド」を見ようとしたら、「満員」で断られたため、仕方なくジョージ・クルーニ主演の映画「フィクサー」を見てきました。(ティルダ・スウィントンが助演女優賞)

正直、よく分からない映画でしたね。ある製薬会社が外部に漏れると、薬害訴訟裁判で不利になる内部文書を手に入れた弁護士が殺害されたり、揉み消し屋のクルーニが、命を狙われたりしますが、最後は目出度し、目出度しで終わるような結末です。

 

その上辺のストーリーだけはどうにかついていけましたが、細かい描写など、例えば、子供が好きな赤い表紙の童話と内部文書との関係とか、揉み消し屋マイケル・クライトン(ジョージ・クルーニ)が自家用車から降りて、放し飼いになっている馬数匹を見にいくと、車が爆破され、彼は命拾いするシーンとかは、何を意味していたのだろう…などと考えると、よく分からない。

 

何か、お馬さんにしても、何か深い意味を示唆しているのでしょうが、こっちは理解力が不足しているのか、さっぱり分からない。

ただ、何も細かいことを考えずに楽しめばいい、ということなら、それでいいのかもしれませんが、腑に落ちない映画でした。

あああ、残念

 

先日、東京弁護士会に申し込んだドキュメンタリー映画「靖国」の試写会は「選外」でした。

つまり、落選ですね。見られないのがとても残念です。

 

最近、前橋をはじめ、全国でチューリップの花を何百本ももぎとったり、聖火リレーの出発点を辞退した長野県の善光寺の国宝本堂に落書きしたりする心ない人が増えています。

 

ひどい話ですね。奴らは軽犯罪だから、大した罰を受けないと思っている愉快犯なのでしょう。

でも、ひどい。

 

人間じゃあない。

「太陽がいっぱい」の矛盾台詞を発見

 フランス語の勉強と称して映画「太陽がいっぱい」のDVDを購入して見ています。結局、フランス語の字幕がついていなかったので、がっかりしてしまいましたが。

 

この映画は劇場で何度見たか分かりません。50回、いやそれ以上かもしれません。もちろん、1960年の日本初公開の時点ではなく、リバイバル上映の時です。当時はDVDはおろか、ビデオもない時代ですから、いわゆる二番館と言われる名作座で見るしかなかったのです。今、あるかどうか知りませんが、当時は沢山ありました。池袋・文芸座、高田馬場のパール座、早稲田の松竹座、飯田橋の佳作座、ギンレイ座、大塚の…、銀座の…名前は忘れました。とにかくお金のない学生にとっては恵みでした。

あれだけいっぱい見た「太陽がいっぱい」なのですが、DVDで家で落ち着いて見ると、結構、矛盾点が見つかるんですね。ご覧になった方も多いと思いますが、アラン・ドロン扮するトム・リプレーが金持ちの放蕩息子のフィリップ(モーリス・ロネ)を殺して、彼に成りすまして、銀行から大金を下ろし、フィリップの恋人のマルジュ(マリー・ラフォネ)まで奪って、完全犯罪を企むストーリーです。原作はパトリシア・ハイスミスで、私は原作は読んでいないのですが、巨匠ルネ・クレマン監督の最後のシーンは彼による発案らしいです。1999年にアンソニー・ミンゲラ監督、マット・デイモン、ジュード・ロー主演でリメイク版「リプレー」が製作されましたが、やはり「太陽がいっぱい」には足元にも及びませんでした。それほど素晴らしい映画です。

若い頃は、アラン・ドロンの格好良さだけ目に付いて、男から見ても溜息をつくようでしたが、今、見ると、どうも、灰汁の強さだけが迫ってきてしまいます。その後、自分の用心棒だったマルコビッチ殺害事件にドロン自身が関与したのではないかと、疑われたり、飛行機に乗ってもファーストクラスで異様な王様気取りの傲慢さでフライト・アテンダントを辟易させたという証言を読んだりしているので、どうも単なる悪党(笑)に見えてしまいました。それだけ演技がうまかったということになりますが。

この映画は、子供の頃に初めてテレビで見たのですが、とても、恥ずかしくて大人の世界を盗み見るような感じでドキドキしてしまいました。彼らは皆、すごい大人に見えたのですが、当時、アラン・ドロンは24歳、マリー・ラフォレは何と18歳だったんですね。モーリス・ロネでさえ32歳です。驚きです。最も、ルネ・ククレマン監督でさえ46歳の若さだったのですから。

 

それで、矛盾点の話ですが、ドロン扮するトムがフィリップに成りすまして、フィリップの友人のフレディを殺してしまうのですが、警察は「指紋が一致した」と言って、フィリップが下手人であることを突き止めるのです。その指紋は結局トムの指紋なのですが、そんなことは、すぐ分かってしまいますよね。完全犯罪には無理があります。

これは、映画を見て思ったことなのですが、今回、DVDを見て発見した矛盾点は台詞にあります。トムとフィリップとマルジュの三人がヨットの中で食事をするシーンです。貧乏青年のトムは、フィリップの米国人の父親に頼まれてサンフランシスコに呼び戻す使いで、イタリアのナポリまで来ていたのです。(それにしてもあの映画で描かれるイタリアは素晴らしい。フランスとイタリアの合作映画だったということも今さらながら知りました)

食事をしながら、トムはフィリップに言います。

「フィリップの親父さんには、僕は随分嫌われていたなあ。出自が卑しいって言うんだよ。でも、おかしいよね。今ではこうして僕は君の監視役だ。貧しいけれど、賢いっていうことかな」(私の意訳)

トムは一生懸命、ナイフを使って魚の肉を切り分けています。それを見たフィリップは

「上品ぶりたがるということ自体が、そもそも下品なんだよ。魚はナイフで切るな。それにナイフの持ち方が違うぞ」

とテーブルマナーすら知らない貧乏青年を馬鹿にするのです。

そして、一番最後のシーンです。フィリップは殺され、ヨットは売られることになり、父親が米国からナポリにやってきます。マルジュはすっかり、トムといい仲になり、海水浴をしているところに、女中(禁止用語)が来て言います。「お嬢様、お義父さまがお見えになっていますよ」

マルジュはトムに言います。「いけない!忘れてた!」。トムは聞きます。「彼は何しに来たの?」マルジュは「ヨットを売りに来たのよ」。そして、トムにこう言うのです。

「あなたに会いたがるわよ。とても良い方なの」

なぜなら、フィリップの父親は、息子がすべての財産をマルジュに与えるという「遺言」を残していたので、息子の遺志を尊重すると、マルジュに言ったから…、と台詞は続くのですが、私が問題にしたいのは、そもそも「あなたに会いたがるわよ」という台詞が変なのです。なぜなら、ヨットの中でトムは、フィリップの父親に「嫌われていた」とはっきり、マルジュにも聞こえるように話していたからです。

以前は完璧なシナリオだと思っていたのですが、あら捜しすると、結構見つかるもんですね。

ヴァラエティ日本版の発行人にお会いしました

 昨日は複数の会合に出席し、また帰宅が深更に及びました。そろそろ、肝臓の方も疲れてきました。

午後は、日比谷でおつな寿司セミナーの月例会。ゲストは、エンターテインメント雑誌「ヴァラエティ」日本版の編集発行人のHさん。同誌は1905年発行の世界で最も古いエンタメ誌で、現在、ロンドンの本社があるリード・ビジネス・インフォメーションから発行されているそうです。同社は世界最大の出版社らしく、250種類の雑誌を世界で出版し、1兆円の売り上げがあるそうです。

同誌は、主にハリウッド映画やブロードウエーで働く業界人のためのビジネス誌に近いもので、スタッフも同誌を参考にキャスティングしたり、プロデュースしたりするそうです。データに定評があり、興行収益も水増ししたりせず、厳格な数字を掲載しているので、例えば、ある映画を製作する際にファンドを公募した時に、同誌が運営するM社の裏書があると、その信用が絶大で、銀行からも簡単にお金が借りられるそうです。

ヴァラエティ日本版は、ネットでビジネスを展開していますが、広告収入はそれほど期待できず、データベースやアーカイブなどコンテンツ販売に力を入れるそうです。

ちょっとオフレコ発言が多かったので、普通の人は、ネットを見て楽しめればいいのではないかと思います。http://www.varietyjapan.com/

夜は銀座の「方舟」で、通訳案内士の皆さんとの会合。これから本格的に仕事をしようとする人ばかり9人も集まりました。わざわざ奈良県からお見えになった方もおり、初対面の方が多かったのですが、和気藹々とした雰囲気で何ということのない話でも大笑いしました。

 

ただ、通訳の仕事は「個人事業」なので、シビアな話もありました。リスクが発生した時に、どう対処したらいいかということです。エージェントからの依頼の仕事だったら、そのエージェントなりが賠償してくれたりするかもしれませんが、個人で直接仕事を請け負った時、例えば、お客さんが怪我をしたとか、お金やパスポートを落としたりするなど万が一の事態が起きた時に、ガイド個人がかなりの負担を背負わなければならないケースも発生するというのです。

ある通訳ガイドの人はそれが嫌で、個人で直接仕事は受けないそうです。いくらエージェントに上前をはねられても(失礼)、保険になるので、組織を通した方が安心感が違うというのです。

東田さんという福岡出身の人が、米国の大学では、教授連中は必ず保険に入るという話をしていました。それは、米国は訴訟社会ですから、例えば、成績にAをもらえなかった学生が逆恨みして、やってもいないのにセクハラで訴えたりするケースがあるそうなのです。

そういう世界から来る人たちをガイドするとなるとそれは大変ですね。

色々と勉強になりました。