吉村昭さんのこと

旧聞に属しますが、作家の吉村昭さんが7月31日に膵臓ガンのため亡くなりました。79歳でした。私は吉村さんとは文芸家協会の会合や文壇懇親会でお見かけした程度で、親しく歓談したことはないのですが、著書を通じて、尊敬しておりました。「戦艦大和」「破獄」「天狗争乱」など名作が多く、その綿密な取材には頭が下がる思いでした。

周囲の作家からの信望も厚かったようです。城山三郎氏などは「真面目で欠点がなく、ゴルフなんかの遊びもせず、人の悪口も言わず、愚痴もこぼさない」と、本当に聖人君子扱いです。

加賀乙彦氏は、吉村さんから「外国旅行する暇があったら日本国内旅行をするべきだ」と諭されたそうです。ある小説を書くために、長崎を50回も訪問しながら「50回行っても、長崎の石畳を全部歩けない。全部歩かないと小説が生き生きと書けない気がする」と語ったそうです。映画や芝居など、作られたものを見るよりも、自分で調べて作ることの方に全エネルギーを注いでいた感じだと明かしています。

私はといえば、今、海外旅行に行きたくてしょうがなく、映画や小説など、他人が作ったものを鑑賞するのに全エネルギーを注ぎ、毎日、愚痴ばかり言っています。

まるで正反対の堕落人間です。

(引用は朝日新聞と毎日新聞)