レオパルディ

ポンペイ

「大都会の人間たちは際限のない雑念に囚われ、さまざまな気晴らしに気をとられ、精神は否が応でも浮薄と虚栄に向かわせられ、内的な悦びを感じることが難しい」

このような寸鉄釘を刺すような警句を書いた人は誰かご存知ですか?加藤周一?丸谷才一?大岡昇平?はたまた、バーナード・ショー?ジョージ・オーウェル?

正解は、19世紀の作家で詩人のジャコモ・レオパルディ(1798-1837年)でした。

伯爵家に生まれた早熟の天才で、わずか15歳で「天文学の歴史」を刊行し、風刺的なエッセイを数多く残し、喘息の発作で39歳で亡くなりました。私は知らなかった、というより、忘れていたのですが、夏目漱石(「虞美人草」)、芥川龍之介(「侏儒の言葉」)、三島由紀夫(「春の雪」)ら多くの日本の作家にも影響を与えています。

1月14日付の毎日新聞の書評欄で知ったのですが、取り上げられた彼の詩集「カンティ」(脇功、柱本元彦訳)(名古屋大学出版会・8400円)(富山太佳夫氏評)は、半年以上前の昨年の5月に刊行されたものです。これは、初の原典からの完訳だそうです。数ヶ月もすれば、すぐ書店の棚から消えてしまう昨今の新刊本の宿命にしては、随分と息の長い書評の取り上げ方ぶりです。(毎日の書評欄は、日本一だと思っています。)

ネットを検索すると、熱心な方がいらっしゃるもので、「ウラゲツ☆ブログ」さんによると、日本で初めて、レオパルディが翻訳されたのは大正9年(1920年)12月に刊行された「大自然と霊魂との対話」(1827年版の散文集「オペレッテ・モラーリ」の完訳)で、これは、訳者の柳田泉氏(1894-1969年)が英訳本から重訳したそうです。逆算すると、26歳で翻訳しているのですね。柳田氏は訳者序で「レオパルディの名前は夏目漱石の『虞美人草』を読んで知った」と書いています。

「物知り博士」漱石は英訳で読んでいたのでしょうか。いずれにせよ、「思想の連鎖」のようなものを感じます。