「『狂い』のすすめ」

ローマ

ひろさちや氏の「『狂い』のすすめ」を面白く読んでいます。言い方は悪いのですが、「天下の暴論」と言っていいでしょう。悪い意味で使っていませんが、大袈裟に言えば、これまでの常識や定説をひっくり返すコペルニクス的転回です。

とにかく「世間を信用するな」「常識を疑え」と奨めているのです。

何しろ「人生に意味なんかありはしない。だから、生き甲斐だの、目的意識を持つな」と言うのです。

「自分を弱者だと自覚して、自由に孤独を生きよ」と促します。

どこか坂口安吾の「堕落論」に通じるところがあります。

筆者は若い時に最も影響を受けたサマーセット・モームの「人間の絆」から引用します。

「人は生まれ、苦しみ、そして死ぬ。人生の意味など、そんなものは何もない。そして人間の一生もまた、何の役に立たないのだ。彼が生まれて来ようと、来なかろうと、生きていようと、死んでしまおうと、そんなことは一切影響もない。生も無意味、死もまた無意味なのだ」

もちろん、これを聞いて、虚無主義に陥る人もいるでしょうが、「人間の絆」の主人公フィリップはその正反対で、自己を解放されるのです。

「今こそ責任の最後の重荷が、取り除かれたような気がした。そして、はじめて、完全な自由を感じたのだった。彼の存在の無意味さが、かえって一種の力に変わった。そして今までは、迫害されてばかりいるように思った冷酷な運命と、今や突然、対等の立場に立ったとような気がしてきた。というのは、一度人生が無意味と決まれば、世界はその冷酷さを奪われたも同然だったからだ」

現在、順風満帆な人生を送っている人には、何の効果もない言葉でしょうが、逆境に晒されている人にとって、これ程心強い哲学思想はありません。

私も大いに救われました。