スポーツ・ジャーナリズムの内幕

昨日は、プレスセンターでOセミナーがありました。ゲストは某スポーツ新聞のU編集局次長。Uさんは、記者から、運動部デスク、写真部長、販売部長、文化芸能部長まで歴任し、業界の裏の裏を知り尽くした人で、大変面白い話が聞けました。Oセミナーは25年以上も続き、「来る者は拒まず、去る者は追わず」というスタンスでやってきたので、累積会員は500人ぐらいいると思うのですが、今回集まった人は10数人。皆さん、お忙しいとは思いますが、本当にもったいないなあ、と思ってしまいました。

 

今、スポーツ新聞、だけではありませんが、新聞マスコミ業界は本当に危機的な状況なんですね。細かい数字を教えてくれましたが、この会だけでオフレコで発言してくれたことでしょうから、具体的な数字はあげません。とにかく、新聞が売れなくなったという話です。その原因について、Uさんが実体験に基づいて分析してくれたわけです。ちなみに、公表されている新聞協会のデータによると、スポーツ新聞は、1996年に約658万部だったのが、2006年には525万部。つまり、10年で、133万部も減少しているのです。地方新聞が4紙も5紙も消滅したことになります。

Uさんによると、スポーツ新聞がよく売れたピークは1995年だったそうです。しかし、その年、オウム真理教事件が発生し、地下鉄などの駅でゴミ箱が撤去されたことなども影響し、「滑り台から堕ちるように」部数が低迷しはじめたというのです。

その要因は、

●プロ野球の巨人が弱くなった。王、長嶋のような一面を張れるスターがいなくなった。松井秀、松坂といった優秀なスター選手は米大リーグに行ってしまう。しかし、時差の関係で、彼らがどんなに活躍しても、紙面化すると、2日遅れになってしまう。おまけに、記者を米国に派遣すると1人1ヶ月かなり高額な取材費(金額は丸秘)がかかる。それでも、そんなニュースは新聞で読まれず、若者は、ネットで済ませてしまう。しかも、プロ野球をテレビが中継しなくなった。熱狂的なプロ野球ファンは、おじさんなので、若者向けのスポンサーがつかなくなった。

●記事もつまらなくなった。スポーツ新聞各社とも同じような話が載っている。それは、選手が自分でホームページを持って、自分から発信するようになったり、芸能プロダクションに所属して、情報がもれないようにしたり、当たり障りのないコメントしか発表しなくなったからだ。個人情報保護法の壁もある。要するに、これは、違った意味での「取材拒否」で、特色のある取材ができなくなった。スポーツ選手も芸能人も自分で情報を発信するようになったから、記者は、直接本人に取材するのではなく、「ネットをチェックすること」が仕事になってしまった。

●スポーツ新聞は、1997年に1部120円から130円に値上げして以来、11年間値上げできない。かつて、32ページだったが、今は22ページから26ページへと、ページ数を削減して経費削減している。下手に値上げすると売れなくなるからだ。競馬予想雑誌「競友」は、昨年450円に値上げした途端、前年比7割以上も部数が減った!

●サッカーのJリーグは、地域性が強すぎて新聞は売れない。売れるのは浦和ぐらいで、いくら浦和を一面にしても、静岡や鹿島では全く売れない。また、オリンピックで日本人選手がいくら金メダルを取っても売れない。

●芸能人にも大物がいなくなった。プラバシー侵害問題もあり、新聞社も多くの訴訟を抱えるようになり、あまり微妙なことが書けなくなった。若者はより過激な情報を求めて、ネットに走り、新聞のような「建前情報」には見向きもしなくなる。

結局、重要な問題は、ニュースを作る新聞社が、一番要(かなめ)のニュースという製品をヤフーやグーグルといった検索会社に安い値段で売ってしまったことだという話に行き着きました。新聞社がいくら苦労してスクープを取ってきても、ネットに流れれば、一瞬で、その価値は限りなくゼロになって、新聞自体が売れなくなってしまう。儲かるのは検索会社のみということになってしまう。そもそも、新聞社は、媒体なので、ニュースを伝達する仲介者に過ぎない。お役所や企業がニュースをHPなどで、直接発表すれば、媒体の価値は下がる一方です。しかも、ニュースには著作権がないので、いくら独占的に入手しても、他社が裏を取って取材すれば、一瞬にして特ダネでも何でもなくなってしまう。著作権が発生するのは映像ぐらいだというのです。

社会では少子高齢化の真っ只中で、今、新聞を購読する核となっている中年が定年になると、また部数が落ちることでしょう。これから、一体どうなってしまうのかー。10年後、かなりの新聞社が淘汰されているかもしれません。