映画「グリーンブック」は★★★★

 アカデミー賞には弱いです。特に「作品賞」となると、できれば見逃したくありません。

 でも、最近の作品賞は、観てがっかりするものが多く、多少、信頼できなくなってきました。私もかつて、本場米国ではなく、日本アカデミー賞の審査員をやっていたことがあるので、何となく、内実が想像できるからです。

 では、今年の受賞作「グリーンブック」はどうでしょうか。アカデミー賞を獲る前の時点で、予告編を観て、面白そうなのでこれから観る候補作としてリストアップしていました。でも、作品賞を獲るとは全く予想していませんでした。私は、映画1本観るのに、新聞や雑誌の映画評に目を通して、念入りに検討するのですが(笑)、この作品に限って、評価は両極端でした。「人種差別の現実を描かれていない」ということでかなり低い評価をする評論家もいれば、「社会派の神髄を体現している」と高評価する評論家もいたのです。

 前置きが長過ぎましたが、私の評価はすこぶる良かった、です。涙腺が弱いので、何度も感涙してしまいました。あらすじは単純と言えば、単純です。1962年の、まだ黒人差別が公然と激しかった時代。黒人ということで、泊まる所も、トイレもバスの乗車も公共のベンチも差別された時代です。NYのナイトクラブ「コパカバーナ」で用心棒を務めるイタリア系の白人トニー・リップ(ヴィゴ・モーテンセン)が、天才黒人ピアニスト、ドン・シャーリー(マハーシャラ・アリ)の運転手として雇われ、2カ月間、特に黒人差別の激しい深南部の州でのコンサート・ツアーに同行し、さまざまな差別と偏見に出遭うロード・ムービーです。


 実話に基づいた話ということですが、二人はまるっきり対照的です。運転手のトニーは、がさつで乱暴で、差別主義者ながら、大家族に恵まれ、良き父、良き夫として一家の柱になっています。ピアニストの「ドクター」シャーリーは、高等教育を受けて心理学などの博士号まで取得したインテリで礼儀正しく、才能に恵まれながら、離婚して家族に恵まれず孤独である、といった感じです。

 当初、二人は反目しながら、最後は、深い友情の絆で結ばれることになりますが、途中での虐待に近い黒人に対する差別は度を超しており、「人種差別の現実を描かれていない」という主張は的外れに感じました。想像力が足りないのではないでしょうか。

 私自身は、音楽映画としても大いに楽しみました。1962年ですから、ビートルズが英国でデビューした年ですが、まだ、米国に上陸していないので、当時のヒット曲は、リトル・リチャードやチャビー・チェッカーら黒人のロンクンロールです。これらの音楽を、クラシック育ちの天才ピアニスト、シャーリーが「知らない」といったところが、面白かったですね。

 この映画がきっかけで、私自身がその存在すら知らなかったシャーリーの古い演奏動画を見てみましたが、やはり、凄いプレイヤーで、本物の演奏を聴いたらもっと感動すると思いました。

 実話に基づくとはいえ、映画ですから、脚色した部分は多かったかもしれません。「ケンタッキー・フライド・チキン」やウイスキーの「カティーサーク」といった商品が実名で、しかも、映画の中でかなりキーポイントとして登場するので、「潜在的宣伝広告」として契約されたものに違いありません。