スマホを使うとバカになる

 《渓流斎日乗》は、ほぼ毎日書いておりますが、書き終わるたんびに「こんなこと書いても何の足しにもならない」と後悔してしまいます。自分は醒めた人間ですからね(笑)。しかも、何処からか原稿料を貰っているわけでもなく、職業として成り立っていないので、時間の無駄を感じてしまいます。

 とはいえ、最近は、ボチボチと「コメント」してくださる人も増え、当初の「世界最小の双方向性メディア」の目論見が少し達成できたようで、嬉しく感じでおります。全て皆様のお蔭です。有難うございます。

Alhambra, Espagne

 今日は、いつもと違って、凄く書きたくて書いております(笑)。大袈裟ではなく、実に衝撃的な論考を読んだからです。先週発売された月刊「文藝春秋」4月号に掲載されていた 川島隆太東北大学加齢医学研究所長による「LINEを止めると偏差値が10上がった スマホと学力『小中七万人調査』大公開」という論文です。

 乱暴に要約しますと。「スマホを使うとバカになる」と実証データで検証しているのです。(すみません。筆者の川島氏はそんな直裁的な表現はしてません。あくまでも、この論文を読んだ個人の感想です)

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 この話に入る前に他の話をします(笑)。ここ1カ月近くも読んでいた本を昨日やっとのさのことで読破できたからです。(そのため、月刊文春を読むのが遅れたのです=笑)

 今さらながらですが、船橋洋一著「通貨烈烈」(朝日新聞社)という本です。初版発行が1988年5月20日ですから、もう30年以上も昔の本です。「プラザ合意」の内幕を知りたくて参考文献を探していたら、「国際金融アナリスト」の肩書きを持つ会社の同僚が「日本の経済ジャーナリズムの頂点ともいうべき作品。たまたま2冊所有していたので、新しい経済学徒の貴兄に差し上げます」と有難いことに「謹呈」してもらったのです。

 著者の船橋氏は、御存知、まさにジャーナリストの頂点ともいうべき大手新聞社の「主筆」を務めた方で、現在、財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブの理事長を務めておられます。(この財団は色んな噂があるようですが)お会いしたことはなく、写真を拝見し文章を読んだだけですが、「鬼に金棒」「向かう所敵なし」といった漲るほどの自信に満ち満ち溢れ、私のようなドサンピンが100人束でかかっても負けない感じです。

 で、この本を読んでみて、実際そうでした。船橋氏は1944年生まれですから、この本を出版した時、43歳ぐらいだったでしょうが、その年齢で、よくあれだけのものが書けたものです。日本の中曽根首相、ベーカー米財務長官、ボルカーFRB議長、バラデュール仏蔵相、ペール西独ブンデスバンク総裁ら錚々たる世界各国の蔵相、財務長官、首相、中銀総裁ら普通の人がとても会えない金融、財政を取り仕切る重鎮100人以上に面談する桁違いの取材力です。失礼ながら、大手新聞社という看板があったからかもしれませんが、当時の筆者は、米国の国際経済研究所(IIE)の客員研究員として「出向」し、もともと英語で執筆したというのですから魂消ました。

1985年9月22日、米ニューヨークのプラザ・ホテルで五カ国蔵相・中央銀行総裁会議(G5)が開催され、米国の巨大貿易赤字解消のために為替問題が話し合われます。これがいわゆる歴史に名高い「プラザ合意」です。会議が開催された頃、1ドル=240円だったレートは、みるみると円高になり、1987年末には1ドル=120円と、何と「半額」になってしまいます。 

 同書は、そのプラザ合意からルーブル合意(87年2月21日、パリ・ルーブル宮で開催されたG5)に至る内幕を関係者の証言をアラベスクのように集積して推測、分析、論考したもので、ハルバースタムの名著「ベスト・アンド・ブライテスト」に匹敵するノンフィクションの金字塔かもしれません。

でも、私のようなドサンピンでは理解度が中途半端で、急激な円高やDM高などについては「よく分からなかった」というのが本音ですが、むしろ、プラスの意味で、理解できなかったということは、収穫でした。恐らく、当時の金融当局の権威者たちも、「市場の推移に任せた」ため、あそこまで変動するとは思わなかったのではないかと愚考しました。(同書が書かれた当時は、まだ「ベルリンの壁」が崩壊する前で、GDPよりもGNPを経済指標として重視していた時代で、中国も台頭していないので、現在の状況とは全く違うことも痛感できました)

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 これから、やっと本題のスマホの話です(書く方は疲れるのですが、読む方は、もっと疲れることでしょう=笑)

 川島氏の論文は、東北大学と仙台市教育委員会が共同で、2010年から継続して、毎年約7万人の仙台市立小・中学校に通う児童・生徒全員を対象に行った「学習意欲の科学的研究に関するプロジェクト」の調査結果を基に導き出したものです。内閣府の調査では、2017年に全国の小学生の約30%、中学生の約58%、高校生の約96%がスマホを利用しているといいます。

 調査では、携帯・スマホの使用時間と学習時間の長さと成績の関係も調べました。結論から先に言いますと、スマホの、特にLINEなどのSNSを使えば使うほど、学習時間や睡眠時間などに関係なく成績が落ちるというのです。タイトルにある通り、偏差値が10も低くなるというのです。

 川島氏は「脳トレ」で名を馳せた脳科学者でもありますが、こんなことを書いております。

 …たとえば、「忖度」という言葉の意味を紙の国語辞典とスマホを使ってネットで調べた場合、前者では左右の大脳半球の前頭前野が活発に動く一方で、スマホを使うと全く働いていませんでした。しかも、何もしないで放心状態でいるときよりも前頭前野の働きは低下していたのです。…

 私はこんな文章を読んだので、勝手に「スマホを使うとバカになる」と表現したのでした。それにしても、衝撃的な怖ろしい結果です。

 文部科学省は最近、小中学生でもスマホの学校持込みを容認する方向を打ち出しましたが、いいんでしょうかねえ?この川島氏の論文を読めば、子どもたちが将来、どんな大人になるのか一目瞭然です。

 ま、ほとんどの人が、文科省の役人も、教育委員会の人も、この論文を読まないでしょうから、「問題提起」として《渓流斎日乗》で取り上げさせて頂きました。