銀行、利息、会計の語源が分かる「会計の世界史」

WST National Gallery Copyright par Duc de Matsuoqua

 今、ちょっと面白い本を読んでいます。田中靖浩著「会計の世界史」(日本経済新聞出版 )という本です。2018年9月26日初版ですから、手元に届くまで2年近く掛かりました。Vous savez ce que je voudrais dire? それだけ大人気でベストセラーになった本です。

 現役の公認会計士が書いた本ですが、難しい数式が出てくるわけではなく、逸話が豊富で、著者は美術に相当関心あるらしく、ダビンチ、レンブラントら泰西名画の巨匠が登場します。しかも、会計と少し関係があるのです。もし、この本を高校生の時に読んでいたら、私もその後、公認会計士を目指していたかもしれません。(中世~近世欧州の「公証人」は、今の会計士と弁護士を合わせたような地位の高い職業だったとか)

 それだけ面白い本なのですが、哀しいかな、明らかな間違いが散見します。不勉強なこんな私がすぐ簡単に見つけてしまうのですから、著者だけでなく編集者、校正者は何をやっているんでしょうか?教養度が落ちているのかと心配になります。

 例えば、83ページで出てくる「レオナルド・ダ・ヴィンチはフランス・パリの地でそっと人生の幕を閉じました。」という部分。そんなわけないでしょう。ダビンチが亡くなったのは、フランス中西部ロワール地方のアンボワーズです。晩年、仏国王フランソワ1世から招かれて与えられたクロ・リュセ城で、です。イタリア人(当時国家はありませんでしたが)のダビンチの代表作「モナリザ」がイタリアではなく、パリのルーブル美術館にあるのはそのためです。

 もう一つは398ページ。「ポールとジョージが2人交代でメイン・ボーカルを務め」というのはビートルズ・ファンでなくともあきれた大間違い。当然、「ジョン(レノン)とポール(マッカートニー)が2人交代でメイン・ボーカルを務め」でしょう。常識過ぎて、こんな間違いがあると本書全体の信用を落としかねません。

それに「世界史」と銘打ちながら、おおよその年号が、わざとなのかあまり出てきません。せめて、何世紀かぐらい明記すべきです。

 などと色々とケチを付けましたが(笑)、この本は、「会計」をキーワードに人間ドラマと歴史が満載です。

 ◇簿記はイタリアで誕生した

 例えば、銀行のBankは、14世紀初頭(と本文には書いてませんが)、イタリア・ヴェネツィアの机Banco(バンコ)から始まったといいます。銀行員とは、「机の上で客とカネのやり取りする者」ということだったのです。カトリック教会が絶対的権威を持っていた時代で、当時、カネを貸した銀行は客からウーズラと呼ばれる金利を取ることは禁止されていました。唯一許されていたのがユダヤ人で、当時の状況はシェークスピアの「ベニスの商人」などに活写されます。

 その後、ヴェネツィアの銀行は、融資に当たってウーズラは取れないが、金利ではない「失われたチャンスの補償」という苦し紛れの名目で、実際は金利を取ることにしました。この「補償」をウーズラと区別して「インタレッセ」と呼び、現在の利息interest の語源になったといいます。

 また、1602年(と本書には書かれていませんが)、新興国オランダは世界初の株式会社といわれる東インド会社を設立します。これまで、ほとんど身内や親戚などから資金を集めて事業を行っていた商人は、この後から見知らぬ(ストレンジャー)株主から資金を集めることになります。彼らに対しては、「正しい計算と分配」について最低限の説明責任を果たさなければなりません。この説明報告 account for が、会計 accountingの語源になったといいます。

 さらに、18世紀半ばに始まった(これも書いてない)英国の産業革命。その原動力となった蒸気機関は、石炭を採掘する際に坑道に溢れた地下水を排出するポンプを動かすために発明されたのだそうです。知りませんでしたね。その蒸気機関から機関車がジョージ・スティーヴンソンらによって発明され、世界で初めて鉄道で蒸気機関車が走ったのは、その130年後にビートルズを生むことになる貿易港都市リヴァプールと新興工業都市マンチェスター間でした。同時に世界初の鉄道死亡事故(禁止されたにも関わらず、給水・給炭で停車していた機関車から元商務相が勝手に下車して線路上で轢かれて死亡)が起きたといいます。これも初めて知る逸話でした。

WST National Gallery Copyright par Duc de Matsuoqua

 まだ半分しか読んでいませんが、よく調べて書かれています。よく売れているということですから間違いを訂正するなど改訂版を出せば、後世に読み継がれると思います。