あの「週刊新潮」までもが「政商」竹中平蔵氏とパソナを批判しているので驚きです

WST National Gallery Copyright par Duc de Matsuoqua

 櫻井よしこさん、百田尚樹さん、高山正之さん…超硬派のゴリゴリ保守派論客のコラムを連載している体制護持派の「週刊新潮」が本日発売の6月25日号で、まさか、保守派政治活動家竹中平蔵氏を批判する記事をトップに掲載しているので大吃驚。思わず買ってしまいました。いまだにNHKも産経新聞も竹中氏も採用しているのに、週刊新潮は反旗を翻したのでしょうか?

 題して「疫病禍を拡大させた『竹中平蔵』がコロナで潤う!『Go Toキャンペーン』も食い物にする『パソナ』の政治家饗宴リスト▼『西村経済再生大臣』が『パソナ迎賓館』で喜び組に籠絡された行動履歴」。さすがですね。週刊新潮は、創刊編集長で「怪物」と呼ばれた新潮社のドン斎藤十一氏以来の伝統があり、タイトル付けは天才的です。もう少し中身が読みたい微妙なところで、「寸止め」しています。

 東洋大教授、実は、人材派遣会社大手「パソナ」会長、実は、法律をつくって自社に還元する「我田引水」政策を陰で操る「政商」竹中平蔵氏については、昨日17日付東京新聞が「竹中氏 コロナ焼け太り? パソナG会長 持続化給付金 電通側から170億円で委託」「『派遣』旗振り 会社の利益」のタイトルで「こちら特報部」で特集しておりましたが、「週刊新潮」の記事の方が力作でした。凄い取材力です。

 記事によると、パソナグループは、持続化給付金の業務委託だけでなく、観光需要喚起対策の「GO To キャンペーン」でも3000億円超の委託に成功しましたが、批判が集中し、目下ペンディング状態だとか。しかし、これら巨額の委託事業を請け負うには、政界との強力なパイプがなければ、もしくは政治家そのものにならなければ実現できないわけです。何か、江戸時代の豪商と役人の関係みたいですね。

 東京都港区元麻布の高級住宅街に「仁風林(にんぷうりん)」と呼ばれるパソナの福利厚生施設があるそうですが、実は、南部靖之・パソナグループ代表が政財官界のVIPを個別に接待するサロンだというのです。同誌は、ここに接待された大物政治家の名前をリストアップしていますが、安倍晋三首相、菅義偉官房長官のほか、今コロナ禍でテレビの露出が過度に多い西村康稔経済再生担当相の名前も。旧民主党系では前原誠司、山尾志桜里両氏の名前もありますね。(覚醒剤取締法違反で歌手ASKAが2014年5月に逮捕された際、共に逮捕された愛人女性が元パソナの美人秘書で、この「仁風林」でホステス役を務めて二人が初めて出逢った場所だったとか。うーん凄い話ですねえ…)

 もう一つ、神戸出身の南部代表のお膝元である淡路島に、2008年からパソナが事業を開始します。廃校となった小学校(淡路市がパソナに無償譲渡したらしく市議会で問題になっているとか)を再生したカフェ・レストラン「のじまスコーラ」を開き、サンリオの人気キャラクターを前面に押し出す施設を展開するなどして、観光客を呼び込み、「迎賓館」までつくって、度々、西村経済再生担当相や安倍昭恵首相夫人らを招待し、今や、淡路島は地元にはカネが落ちてこない「パソナ島」と言われているそうです。

 パソナ島ですか…。こんなのどこの新聞も書いていないし、初めて聞きました。大手新聞記者は何をやってるんでしょうか?

社会の縮図と社会の矛盾=斎藤充功著「ルポ 老人受刑者」を読む

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 ノンフィクション作家の斎藤充功(さいとう・みちのり)氏から新刊が送られてきました。昨年の今頃、「今度、中央公論から本を出すんですよ。頼まれちゃってねえ」と嬉しそうな声で突然、電話を頂きましたが、ついに完成したのです。「ルポ 老人受刑者」(中央公論新社・2020年5月10日初版)という本でした。

 私がジュウコウさん(と勝手に呼んでいるのですが)の謦咳に接することになったのは、彼の「日本のスパイ王ー陸軍中野学校の創設者・秋草俊少将の真実」という本で、このブログにその読書感想文を書いたことがきっかけでしたから、スパイと老人受刑者物語を、どう結び付けていいのか最初は分かりませんでした。

 でも、読み進めていくうちに、ジュウコウさんが老人受刑者に興味を持ったのは昨日今日の話ではなく、もう何十年も前から企画を温めていたテーマだったことが分かりました。何しろ、序章「漂流する老人受刑者」では、今から36年も昔の1984年10月にインタビューした呉刑務支所(現広島刑務所呉拘置支所)の大正生まれの老受刑者らが登場します。刑務所取材歴40年弱、筋金入りだったのです。

 法務省の資料によると、2007年の全受刑者7万0989人に対して、65歳以上の高齢受刑者は1884人で全体の2.65%だったのに、その10年後の2017年には同4万7331人に対して同2278人で全体の4.81%を占めたといいます。特に70歳以上の受刑者が10年前と比べ4.8倍と急増。さらに再入所率(再犯者)は7割を超えています。

 2017年の高齢受刑者2278人の罪状は、70歳以上を見てみると、第1位が窃盗で54.2%、次いで、覚醒剤関係が9.4%、道路交通法違反8.4%、詐欺7.2%と続いています。1位の窃盗の中身では、万引きと自転車盗が90%を超えています。つまり、高齢受刑者の多くが、強盗殺人などの凶悪犯ではなく、数千円の万引きや無銭飲食などで捕まった者が多いのです。再犯だと軽犯罪でも情状酌量も執行猶予も認められず、2年は実刑を食らい、5回も10回も刑務所を出たり入ったりしている様が、受刑者とのインタビュー通して浮かび上がります。

 高齢者ともなると、出所しても仕事が見つからず、また、再び万引きをして捕まって入所する人が多く、まさに悪循環です。受刑者の世界は確かに特別かもしれませんが、日本の超高齢社会の縮図というか、社会の鏡を写している感じでした。

 ジュウコウさんは先日、79歳の誕生日を迎えられましたが、至ってお元気で、本書では殺人罪等で無期懲役となった高齢受刑者の殺人現場のスナック(今は消滅)を訪ねて、山梨県まで足を運んだりしています。相変わらずフットワークが軽い恐るべきルポライターです。

 受刑者だけでなく、矯正医療センターの看護師さんや、元矯正局長らにもインタビューしていますが、正直、あまり楽しい話はなく、スカッとする話も出てきません。死刑問題の質問には口を噤んだりします。私も帯広にいた頃、刑務所を視察させて頂いたことがあります。条例で決まっているのか、2年に1回程度、マスコミに現状を公開しているのです。その時は、受刑者と面会することはありませんでしたが、獄舎というか誰もいない独房とかは見学させて頂きました。帯広は、真冬はマイナス35度にもなる極寒の地ですから、冬は寒くて大変だろうなあ、と実感しました。

 老受刑者は、帯広ではなく、比較的温暖な呉拘置支所などに収容されますが、競争率(?)が高く、全員が入所できるわけではありません。それに、老受刑者ともなると色んな病気に罹っています。中には認知症を患っている受刑者もおり、紙オムツが倉庫に山積している拘置所もありました。「刑務所というより、病院か福祉施設のよう」という関係者の比喩も的確です。

 それにしても、日本では数百円のお菓子を盗んでも再犯なら老人でも簡単に牢屋にぶち込まれるというのに、高位高官ともなれば、賭けマージャンの常習犯でも何らお咎めなく、受刑者にもなりません。この矛盾。この不条理。この体たらく。

 【追記】

 本日発売の「週刊新潮」6月25日号にも「ルポ 老人受刑者」の書評が掲載されていました。