人生の定理

ある大手企業に勤める前田隆(仮名)さんという人がいます。57歳。

彼は、入社以来、若い頃は、遅刻はするわ、仕事は手を抜くわで、周囲に迷惑を掛け通しで、あまり真面目な社員ではありませんでした。それでも、大企業ですから、いわゆる「ぶら下がり」として、給料はそれなりもらっていました。

それでも、幾星霜を経て、前田氏は、本社東京から離れたとはいえ、幸運も味方して地方の営業所長の地位を確保することができました。
しかし、好事魔多し。今度は、あれやこれや言い訳を繕って、真面目に働かない、ほとんど新規契約を取って来ない部下に当たってしまいました。

それでも営業成績は上げなければなりません。本来なら、営業所長として踏ん反り返って部下を指図していればいいのですが、背に腹はかえられません。自ら足を棒にして、お得意先を回って、契約をまとめる日々となりました。そして、自分は思った以上に口先がうまく、営業向きで、新規契約を60口もまとめた時は、さぼっていた若い時の借りを返したような気分になりました。

そう、これが世に言う「人生の定理」だったのです。波動の法則で、無能の部下を引き寄せたのは前田氏だったのです。まるで、仕事をしなかった若い時の自分を引き寄せたようなものです。若い時に楽をした前田氏は、その分を定年間近になった年になって返すことになったわけです。プラスマイナス・ゼロです。

そのことに前田所長は恐らく気づいていないでしょう。

前田所長の「部下が全く働かないから、俺が現場に出るしかないんだよ」という愚痴を聞きながら、私は思わず「それは自業自得でしたね」と言いそうになってしまいました。

まさしく「知らぬは本人なりけり」。前田氏が如何に、全く働かない「無能人間」だというレッテルを貼られていたということさえ、本人は知らなかったのです。

でも、世の中、うまくできたものです。
因果応報。努力すれば報われる。サボって楽をすれば、いずれしっぺ返しが来る。

これこそが人生の定理です。
人生の定理は、まずそのことを信じることからはじまります。