レット・イット・ビー

「夫婦喧嘩は犬も喰わぬ」とよく言われますが、東京に住む友人から「離婚問題」の相談を受けました。

彼らはもう20年以上結婚しているので、いわゆる「熟年離婚」の部類でしょう。

彼は、昨年、父親を亡くしました。父親は、その数年前から体調がおかしくなり、半年前にはついに寝たきりになり、入院して2ヶ月して帰らぬ人になったそうです。

自分の父親がおかしくなったことと並行して、妻との関係もおかしくなったそうです。

20年前に子供が小さかった時、「あなたは育児を少しも手伝わなかった」とか、「舅と姑にいびられた」とか、「兄嫁は裏と表があって、本当にひどい人だ」とか、そういった類の悪口ばかりを散々聞かされたというのです。

友人は、本当に頭を抱えてしまいました。夫婦関係も冷え切っていたし、このまま別れたらどんなにか楽か、と思ったそうです。

ただ、彼が気になるのは、大学の薬学部に進学してお金がかかる長女と大学受験を控えた高校生の次女のことでした。

それでも、妻は、益々、怒りを募らせます。「実家から香典を3万円も送ったのに、電話が1本もない。香典返しは送ってきたが、印刷状だけで、肉筆の『一言』が何も書いていない。あまりにも事務的過ぎるのではないか」と詰め寄ってきたそうです。

彼はその晩、悶々として眠れなかったそうです。

離婚の確率は五分五分だなあ、という思いが押し寄せてきました。

その時、不思議なメッセージが頭に過ぎりました。

「流れに任せなさい」

神の声かと思いましたが、ふと、どこかで聞いたような声だなあ、と友人は思ったそうです。

「そうかあ」。友人は思い当たりました。

それは、昨年亡くなった彼の父親の声だったのです。

「流れに任せなさい」

その声を聞いて、友人はやっと眠りにつくことができました。