オンネトー
マイケル・ムーア監督の映画「SICKO」(シッコ)を見てきました。Sickoとは、「ビョーキ」と「変質者」の二つの意味を持つそうです。
うーん、見終わって、爽快感がないどころか、どうも、気持ち悪いというか、色んな意味で嫌な感じが残りましたね。映画の内容と、ムーアの映画製作の両方について。
内容は、乱暴に要約すると、アメリカでは、国民保険がなく、個人で保険会社と契約するしかない。約5000万人の抵所得者たちは、保険に入ることができず、病気になると、碌な治療が受けられず、病院から遺棄されるか、手術もしてもらえず、自宅で死を迎えるしかない。保険に入っている人でも、「既往症」を申告していなかったという様々な難癖をつけられて、保険金がおりない。保険金支払い拒否に貢献した医者にはボーナスが与えられ、保険会社はしこたま金をためこんで、政治家に献金して自分たちに都合のいい法案を通す…。
これが、世界の超大国の実態かと思うと、身の毛のよだつ話ばかりです。ある大工が、誤って自分の中指と薬指を切断してしまい、病院に行ったら、「中指なら6万ドル、薬指なら1万2千ドルかかる」と言われ、仕方なく安い薬指だけ選んだという全く笑えない話。夫が心臓発作、妻はガンにかかり、医療費が払えず、自宅を売り払って、子供の家の物置に居候するはめになった50歳代の夫婦なども登場します。
それでいて、カナダやイギリスやフランスでは、国民健康保険が行き届いていて、医療費はタダ!
アメリカに住んでいるI君なんか大丈夫かなあ、とまず一番に心配してしまいました。
最後は、同時多発テロの現場でボランティアで働いた人たちが、塵煤を吸って、重い気管支炎にかかっても医療費が払えず、ムーア監督が、何と米国の「仮想的敵国」であるキューバに連れて行って、タダで治療してもらうのです。アメリカでは、薬代だけでも120ドルもかかったのに、キューバでは同じ薬がわずか5セントという、全く笑えない皮肉のような話で映画は終わります。
ただ、ムーア監督お決まりの製作手法には、ちょっと疑問符がつきました。何と言っても「アメリカは最低で、諸外国は正しい」というフレームで作られているので、それに則さない事例は徹底的に排除されています。イギリスだって、フランスだって、アジアや中東系の人が沢山住んでおり、彼らは全く差別がなく、平等に医療が受けられているのか。(英仏では裕福そうな人ばかり取材していました)カナダでは、国民健康保険制度も財政的に崩壊寸前という話なのですが、そのことには全く触れず、いいことばかり強調していました。
それにしても、ますます、アメリカという国に対する不信感は募ってしまいました。自国の毒を世界中に撒き散らすムーア監督の手腕の成果であると、私も皮肉をこめて報告しておきましょう。