「アンダー・ザ・シルバーレイク」は★★

久しぶりに劇場に足を運んで映画を見てきました。最近、ほんの少し嫌なことがありまして、現実逃避したかったからです(笑)。

それにしても、最近は、一食抜いてでも、是が非でも観てみたいという映画がない!ない、と断定すれば、製作者にあまりにも失礼なので、少ない!と言っておきます。

第一、ただで観ている映画評論家はグルですからね。つまらない映画でも「最高!」だの「面白い!」だのといった陳腐な言葉を並べて、見事、宣伝マンの役割を果たします。あまり、貶せば次に仕事が来なくなるからでしょう。

でも私は騙されました。「今年ベストの声続々」「カンヌも騒然となった”新感覚サスペンス”」の宣伝文句に惹かれて「アンダー・ザ・シルバーレイク」(デヴィット・ロバート・ミッチェル監督最新作)を観てきましたが、支離滅裂。最初に、とっても懐かしアソシエイションズの「ネバー・マイ・ラブ」(1967年)が掛かって、大いに期待されたのですが、はっきり言いますが、駄作でした。

まさに、ロサンゼルス郊外のハリウッドが舞台のハリウッド映画。天下のハリウッド映画も随分劣化したものです。

ミッチェル監督は、何を表現したかったのか。ヒッチコックや無声映画女優ジャネット・ゲイナーらの墓が出てきたり、マリリン・モンローの主演映画「女房は生きていた」を模したシーンが出てきたり、往年の黄金時代のハリウッド映画に対するオマージュが随所に盛り込まれ、それは分かりますがね。ホラーサスペンスと称しても、日本人の感覚からすれば、ちょっと頂けない残虐な暴力や殺人場面が多過ぎです。それに、暗号解読と言っても、子ども騙しのパズルのようなダサいからくりなので呆れてしまいました。

登場する若い男も女も、気ままに本能のまんま生きている感じで、退廃的。ハリウッド・セレブたちのパーティー場面が多く出てきて、「現代風俗を活写した」とでも言いたいのでしょうが、まさに、エログロナンセンスのオンパレードでした。

主人公のサムは、映画か音楽業界での成功を夢見て田舎から出てきた青年で、家賃が払えないという設定ながら、高級車を持っているというのも変。マザコンの母親がしょっちゅう電話を掛けてくるので、家賃代を借りればいいのに、払えず追い出される寸前と話が進んでいきます。住んでいるアパートもプール付きですからね。

暗号解読の末、新興宗教のカルト集団のアジトに行き着きますが、その教祖らしい男が「生きているだけで、心配事が多過ぎる」と言いながら、3人の若い女と一緒に集団自殺するのも、作り物の映画と知りつつ、何か、最後まで歯がゆくなるほど、イライラしてしまいました。

これは、あくまでも個人の感想ですが、この映画を観た後、小津安二郎監督の「東京物語」をまた観たくなってしまいました。もう何十回も観てますが、あんな「時代風俗」を活写した名作はないからです。原節子は、戦死した次男の妻紀子役でした。尾道から出てきた年老いた両親を親身になって世話をするのは、実の息子や娘ではなくて、この血の繋がっていない戦争未亡人でした。

戦死した次男は出てきません。この映画は1953年公開ですが、まだまだ、戦争の傷跡が残っている時代で、どこの家庭でも、親戚や親、兄弟の中で、一人か二人は戦死しているという共通の体験がありました。だから、説明しなくても、笠智衆と東山千栄子が演じた年老いた両親の気持ちが分かったのでしょう。

「アンダー・ザ・シルバーレイク」は確かに現代という風俗を活写してましたが、駄作に終わったのは、時代そのものが劣化したせいのような気もしてきました。