壮大なプロジェクト 

帯広から札幌に向かう特急列車「スーパーあおぞら」の車内で、偶然、N氏と席が隣り合わせになりました。
N氏は、普段はこちらからの話を黙って聞いてくれているだけで、寡黙な人ですが、この日ばかりは、実に饒舌でした。何しろ、帯広から札幌までの2時間半、一人で喋りっぱなしだったのですから。

それは、実に壮大な話でした。

N氏は、ガス会社の社長さんです。これから、札幌にある経済産業省の分庁に天然ガスの免許の申請に行くところでした。

帯広市内の都市ガスを来年か、再来年に天然ガスに切り替える予定なのです。N氏によると、日本の都市ガスの普及率は、6割くらいで、都市ガスと言うくらいですから、大きな市にしかガスは通っていません。北海道の十勝を例にとれば、20市町村ある十勝は人口が36万人くらいですが、ガスが通っているのは人口が17万人いる帯広市とその周辺の町ぐらいです。他の町村はプロパンガスを使っています。全国に、ガス会社は220社くらいあるそうです。

壮大な話とは、ロシアのサハリンにある天然ガスを北海道までパイプラインで引いてこようという計画です。サハリンの天然ガスの埋蔵量は、60年くらいあるといわれます。ロシアは世界でも有数の天然ガスの産出国で、シベリア辺りにある天然ガスをヨーロッパまでパイプラインで引き、第2次世界大戦中でも敵国ドイツなどにもガスを売り、外貨を稼いでいたというのです。

サハリンつまり樺太の南端から稚内まで、わずか40㌔です。その稚内から旭川の間にある名寄市に天然ガスのパイプラインの中継基地を作るところまで、話は進んでいるそうです。主体は国ではなく、民間のジョイントヴェンチャーで、丸紅や三井物産のほか、エクソンやテキサコなどの外資も入るそうです。将来、苫小牧までパイプラインを引き、さらに、海底から本州までパイプラインを通す目論見だそうです。大きな本流のパイプラインを引けば、もちろん、札幌や帯広や釧路などに支流として張り巡らせることができます。

天然ガスの利点は、何と言っても、価格の安さだそうです。パイプラインで引けば、現在のガスの3分の1の値段で消費者に提供できるそうです。目下、天然ガスは、零下160度まで圧縮して液化ガスにして、船や車で輸送していますが、パイプラインにすれば、輸送コストが掛からないので、大幅な経費削減になるそうです。
それに、二酸化炭素を排出しないので、環境問題の解決にもつながります。

将来の不安材料は何と言ってもエネルギー問題です。政情不安定な中東の石油にばかり頼ってはいられません。原子力も放射能漏れ事故などの不安があります。そんな中で「天然ガス」は救世主になるというのです。

車もタクシーや自動車学校などで使う「営業車」にガソリン車を使っていては、とても採算が取れません。現在、ガソリンは1リットル130円まで高騰していますが、ガスなら60円と半額以下です。N氏は、自動車学校も経営していますが、ガス車にすれば、年間500万円から1000万円の削減が期待できると踏んでいます。

サハリンから苫小牧までパイプラインを引くのに、経費はわずか2000億円だそうです。IT長者なら、簡単に捻出できそうです。新幹線や高速道路を作るより安上がりです。エネルギー代が安く済めば、景気が低迷している北海道にも工場を誘致できると、N氏は期待しています。

まさに、国家的、歴史的大プロジェクトです。

実に壮大な話を聞きました。