時代は独裁者を求めた

 une tasse de cafe

 昨晩、国営放送で放送された「新・映像の世紀」第3集「時代は独裁者を求めた」は大変、見がいのあったプログラムでした。

 ヒトラーが独裁政権を握っていく過程をつぶさに映像で見せてくれました。

 当時、最も進んだ民主主義を謳った「ワイマール憲法」の下で、ヒトラーは、ちゃんと手続きを踏んで(ただし、暴力や威嚇や粛清や秘密警察などを使ってですが)、「合法的」に、ヒトラーただ一人に権力が集中できる総統独裁体制を築き上げてしまったのですからね。

 1933年1月に、ヒトラーが念願の首相に就任した時、まだ43歳。周囲の閣僚たちは「こんな若造なんか、いつでも引きずり落としてやる」と内心思っていながら、次々とヒトラーの策略にはまり、多くの大衆の支持を背景にヒトラーは、「全権委任法」を可決させて、独裁権力を握ってしまうのです。

 それが、タイトルの通り、「時代は独裁者を求めた」です。第一次世界大戦に敗北したドイツは莫大な賠償金を課せられた上、強烈な超インフレ状態に陥り、わずかパン一斤が1兆マルクなんていう看板も写し出されていました。しかも、多くの失業者が街に溢れました。

 そこへ、ヒトラーが登場して、国民車フォルクスワーゲンをポルシェ博士の助言でつくったり(今年、フォルクワーゲンが問題を起こしたのも時代の皮肉ですね)、7000キロにも及ぶ世界初の高速道路「アウトバーン」を建設したりして、公共事業を起こして、雇用を創出し、国民大衆に豊かさの恩恵を与えます。1936年にはベルリン・オリンピックも成功させています。そして、ますます、ヒトラーとナチス党員に権力が集中するように法律を改正していくのです。

 意外に思ったのは、ヒトラーの「ユダヤ人排斥」思想は、アメリカの自動車王ヘンリー・フォードの影響が色濃かったという話でした。フォードはヒトラーの熱烈な支持者となり、勲章まで授与されます。他に、世界で初めて大西洋を単独飛行で横断した米国人のリンドバーグも、ナチス擁護の演説をして米国人に影響を与えていたのです。ドイツ人では哲学者のハイデッガーや指揮者のフルトベングラーらがナチス支持者でした。フランス人では、あのココ・シャネルが代表的ですが、彼女の「伝記映画」には、ナチスとの関係は全く出てきませんでしたよね。

 歴史は変えられませんから、その後のドイツ帝国の行く末(崩壊)は、皆さんご存知の通りです。

 最後に、ユダヤ人の強制収容所で、ぼろ雑巾のように山積みされた遺体と、異様に痩せこけた生存者を、連合国軍が、ドイツ人の市民にこの悲惨な状況を強制的に見せつける場面が出てきます。

 泣き出す「良心的な」ドイツ人も出てきて、「私はこんなことになっているとは知らなかった」と発言しているのに対し、収容所の生存ユダヤ人は「いや、知っていたはずだ」と叫びます。強烈な印象深い場面で終わります。

 最初に、ヒトラーの愛人エヴァ・ブラウンが撮影したヒトラーのカラーフィルムが出てきますが、カラー動画だと、つい昨日の出来事のように見えるのが不思議です。ニコニコ笑顔のヒトラーは、普通のお金持ちのおじさんに見えます。

 ヒトラーが、総統官邸地下室で自殺したのは55歳。恐らく、大量の戦死者を出したレニングラードの前線や、強制収容所など悲惨な場面には目をそむけて、視察せず、見ていなかったと思われます。

 この番組を見ると、ヒトラーが一人で勝手に「純血ゲルマン踊り」をしていたのではなく、周囲の大衆が応援し、時代が彼を求めていたことが分かります。

 今我々が生きている時代も、このようなことがあり得ないわけがなく、もしかしたら現在進行形で進んでいるのかもしれませんよ。