東京アラートを発しないのは小池知事の選挙対策か?

 東京・銀座 朝日稲荷神社

  新型コロナの感染者は、首都東京ではここ数日50人超と、なかなか減りませんね。「東京アラート」(6月2~11日)が発令された頃は、30人前後でしたから、本来なら再びアラートを発しなければならないのですが、再選を狙う小池百合子知事はその素振りも見せません。

 選挙対策なんでしょうか?

  しかも、アラートを発する感染者数は基準を超えているというのに、その基準は見直して、「新指標」として、今度は病床数の「余裕の数」で判断しようとしてます。為政者たちに都合の良いように勝手にルールを変更しているようにみえます。(6月29日現在の入院者数は1000床の病床数に対して272人、重症者は100床に対して12人)

 選挙対策なんでしょうか?

 いや、台所事情もあるようです。東京都は4月15日に新型コロナウイルス対策に伴う補正予算案として東日本大震災やリーマン・ショックを大きく上回る総額8000億円を超える規模を組みましたが、どうやら、再び、店舗に自粛要請して、休業補償給付をしようものなら、枯渇しそうだという話です。東京都の予算は、スウェーデンの国家予算に匹敵するらしいですが、まあ、どこの国でも事情は同じです。

 ですから、為政者は、どうも「自粛、自粛」と言いにくくなり、今度は「自衛しろ」という始末。「感染したらあんたらの責任ですよ」と言わんばかりです。識者の中には「行政放棄だ」と批判する人もいますが、見方を変えれば、「当局による監視態勢が緩和された」と言えなくもないですね(笑)。

 昨日は、東京だけでなく、首都圏のさいたま市や宇都宮市内のキャバクラ、ホストクラブで集団感染が発生し、ニュースを見ていたら、栃木県知事が「県外から来た人でした」と、ウイルスを持ち込んだ人が県外の人だったことを明らかにしていました。まあ、それは事実のようですが、そこまで強調しますかね?また、埼玉県知事は、緊急記者会見し、「東京での会食は控えるよう」アラートまで発令していました。これでは、ますます、藩閥政治が復活したみたいにみえます。しかし、「自分の藩だけ、感染者を出さなければいい」という話でもないでしょう。

 恐らく、コロナとの付き合いは長期戦になることでしょう。私自身も、7月になれば、「県外から」東京にまで出てきて、夜の街に繰り出そうかと思っていましたが、感染者が減らない状況で躊躇しています。まさか、マスクをしながら呑むわけにはいかないでしょう(笑)。

 いずれにせよ、為政者や他人に丸投げすることなく、自分で考えて覚悟するか、もしくは楽観主義で自分自身を洗脳してから、繰り出すつもりです。

簿記からファイナンスに至る会計の歴史を俯瞰=「会計の世界史」

 田中靖浩著「会計の世界史」(日経出版社)を読了しました。6月25日付のこのブログで、前半とビートルズの部分だけを読んで色々とケチを付けてしまいましたが、後半は著者の専門である会計の話がふんだんに盛り込まれ、しかも、しっかりと年号も入っておりました。とても面白い本でした。

 前回も書きましたが、もし高校生の時にこの本を読んでいたら、私も将来、公認会計士を目指していたかもしれません。1919年に近代的な管理会計が始まって100年。今はちょうど端境期に来ています。

 大雑把に言いますと、16世紀のイタリアのベネツィア(家族で資金調達)とフィレンツェ(仲間から資金調達)で始まった「簿記」が、17世紀、世界で初めて株式会社(東インド会社)をつくったオランダ(見知らぬ株主から資金調達)、そして蒸気機関の発明で産業革命を成し遂げた英国で財務会計が発達し、それが米国でさらに効率的な管理会計(「科学的管理法の父」フレデリック・テイラー)に発展し、20世紀末のグローバリズムにより、会計は「過去の後追い」から「未来のキャッシュフロー」を予測するファイナンスになった、という歴史的経過を辿っているのです。

 と、書いても分かりにくいかもしれませんが、この本では色々挿絵や図解で説明してくれているので初心者にとっても分かりやすいです。

ヤブカンゾウ

 会計とは直接関係ないのですが、関連した話が実に興味深いのです。例えば、第2次世界大戦中、ドイツの空襲に悩まされていた英国はある発明で問題を解決することができます。それがレーダーの発明です。このレーダーを発明したのが、産業革命の蒸気機関を発明したジェームズ・ワットの子孫のロバート・ワトソン・ワットだったというのです。

 また、米国でアメリカンドリームを実現したのは、最初の創業者とか開発者ではなく、後から「資本の論理」で実権を握った者だったという話も興味深かったです。

 これはどういうことかと言うと、例えば、米国の大陸横断鉄道を企画してリンカーン大統領に訴えて実現させたのは、セオドア・ジュッダでしたが、彼は鉄道会社から「追い出されて」しまいます。代わりに実権を握ったのが「ビッグフォー」と呼ばれた4人の実力者で、その中には、弁護士からカリフォルニア州知事などになったリーランド・スタンフォードがいます。この人は、後にスタンフォード大学を創設して後世に名を残しています。

 1848年、カリフォルニアで金鉱が発見され、ゴールドラッシュになります。第1発見者だった製材所で働くジムとその土地の所有者のサッターは大儲けして、めでたし、めでたしで終わるはずだった…。しかし、ジムは荒くれ者につけ狙われ、貧困のうちに生涯を終え、サッターは土地の権利を主張しても無視され、息子を暴漢に殺害されるなど、これまた不幸のうちに亡くなりました。結局、一番儲かったのは、周囲の者でした。シャベルなどを売る雑貨商や、作業がしやすいジーンズを売って莫大な利益を得たリーバイス兄弟らだったのです。

 1859年、ペンシルベニア州タイタスビル。鉄道員で「大佐」と呼ばれたエドウィン・ドレークは米史上初めて石油の採掘に成功します。これで大金を手にするかと思いきや、パートナーの出資者から「追い出され」、わずかな年金で寂しい老後を送ります。彼に代わって大成功を収めたのが、有り余る原油の精製に目を付けたジョン・ロックフェラーでした。彼は、我こそが基準だとばかりに「スタンダード・オイル」を創設し、合併と買収で全土展開し、「石油王」と呼ばれるようになります。彼も若者の教育に熱心で、財政難で閉校寸前だったシカゴ大学に多額の寄付をして復興します。(そのシカゴ大学で「管理会計」の新講座を立ち上げたのがジェームズ・マッキンゼー教授だった)

 南北戦争後、アトランタで「コカ・コーラ」を発明したジョン・ペンバートンも、巨額融資を受けた友人らから「資本の論理」で追い出されます。

 そう言えば、アップルの創業者スティーブ・ジョブズも、自分のつくった会社から追い出されましたね。復帰してからiPhoneを生み出して見事な復活を遂げますが、56歳の若さで病気で亡くなってしまいました。米国では、どうも創業者、パイオニアは不幸に見えます。

ヤブカンゾウ

 このほか、本書では鉄鋼王カーネギー(自ら創設したカーネギーメロン大学とNYカーネギーホールに名を残す)や、投下資本利益率(ROI)=利益率×回転率の公式を生み出したピエール・デュポン(仏革命を逃れて新大陸に渡り、火薬の製造で莫大な利益を得たデュポン一族の子孫で、後にナイロンストッキング開発など化学製品の大企業に発展させた)らが登場します。名前だけはよく聞いたことがある人名や会社の成り立ちがよく分かりました。

 世界史も「会計」をキーワードにすると、これほど見方が変わるのかと驚くほど面白い本でした。

傘、受難物語とATM物語

 東京のコロナ感染者がここ数日50人超と、また増えてきました。もう第2波が始まったんでしょうか?東京人の感染率は0.05%などと計算した偉い学者さんもいますが、そんな統計数字ではなく、忘れてならないことは、感染確率とは、経路不明にせよ、濃厚接触にせよ、感染するか、しないかの50%だということです。夜の街に繰り出すのは個人の自由ですが、自分で自分の身を守るしかないのです。

 さて、梅雨の季節真っ盛りです。毎日、傘が手放せません。ですから、私は大抵、バッグに折りたたみ傘を入れているのですが、それが、しょっちゅう壊れます。超一流の東京・銀座の三越で買った傘だから安心していたら、1年ぐらいで骨が折れたり、壊れてしまいました。同じ銀座の傘専門店で買った折り畳みも1年ちょっとで使えなくなりました。 

 すると、調布先生が「いい傘がありますよ」と薦めてくれたのが、前原光榮商店の傘。何と高い傘で21万円もします。折りたたみ傘も2万円ぐらいからです。買えるわけないじゃないですか! 文句を言ったら、「それでは貴方だけに特別にお教えしましょう。仲御徒町にある『ワカオ』、ここなら手頃な価格で買えますよ」というので、早速買い求めました。7000円もしましたが、これも1年持ったか持たない感じで壊れてしまいました。最初は傘の柄がスポンと取れてしまい、一度は直してもらいましたが、結局ババをつかまされたのか、使い物にならなくなりました。駄目ですねえ。

 そんな中、先日、新聞で丈夫そうな折りたたみ傘を紹介する記事を発見しました。アウトドア専門のモンベルmont-bell(日本の会社だったんですね)が発売している傘です。価格は5720円。どこか記事稿(記事に見せかけた宣伝広告)の臭いがしましたが、登山用なら頑丈にできているはずでしょうし、暴風雨でも大丈夫でしょう。ということで、わざわざ御徒町の店舗にまで買いに行きました。そしたら、10種類ぐらい傘があり、迷いましたが、トレッキングアンブレラを選びました。4950円。まあ手頃な値段でした。

 購入の際、店の人から「会員カードをお作りしませんか?このように様々な特典がありますよ」と勧めてくれたのですが、「老い先短いので」とやんわり断りました。もう、昔のように山に登ったりキャンプしたりする体力がなくなってきたからです。これでも若い時は南アルプスの北岳(3193メートル)と北アルプスの奥穂高岳(3190メートル)を登頂したことがあるのです。日本一の富士山(3776メートル)には登ったことはありません。あれは遠くから拝見するものです(笑)。ちなみに北岳は日本で第2位、奥穂高岳は第3位の高峰です。

 そう言えば、大型遊園地にある「絶叫マシーン」と呼ばれるジェットコースターには、65歳以上はもう乗れないそうですね。65歳以上は前期高齢者とはいえ、まだまだ若い。私の世代の漫画ではありませんが、遊園地でそんな決まりになっているのなら、「北斗の拳」のケンシロウから「おまえはもう死んでいる」と宣告されたようなものです。

 誰にでもヒトには老いがやってきます。でも心の持ち様だけは大切です。先日、テレビの「何でも鑑定団」を見ていたら、91歳10カ月になる方が出演されてましたが、どうみても70歳ぐらいにしか見えません。司会者が「若さの秘訣は何ですか?」と尋ねると、その人は「ATMです」と答えるのです。これは「明るく」「楽しく」「前向きに」の略称だそうです。

 確かにそうですね。良い話を聞きました(笑)。

築地本願寺の親鸞聖人像

 最近読んでいる本が仏教書。聴いている音楽がブラームス、ベートーベン、マーラーの難い交響曲ばかり。これでは気持ちも重苦しく暗くなります。(クラシック通が「軽音楽」と馬鹿にしているモーツァルトを聴いて少し楽になりましたが)

 世の中の見方も斜に構えて悲観的なので、ニュースを見聞すれは絶望的になります。これではATMとは程遠い生活ですね(苦笑)。思い切って、心を入れ替えますかぁ…。

銀行、利息、会計の語源が分かる「会計の世界史」

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 今、ちょっと面白い本を読んでいます。田中靖浩著「会計の世界史」(日本経済新聞出版 )という本です。2018年9月26日初版ですから、手元に届くまで2年近く掛かりました。Vous savez ce que je voudrais dire? それだけ大人気でベストセラーになった本です。

 現役の公認会計士が書いた本ですが、難しい数式が出てくるわけではなく、逸話が豊富で、著者は美術に相当関心あるらしく、ダビンチ、レンブラントら泰西名画の巨匠が登場します。しかも、会計と少し関係があるのです。もし、この本を高校生の時に読んでいたら、私もその後、公認会計士を目指していたかもしれません。(中世~近世欧州の「公証人」は、今の会計士と弁護士を合わせたような地位の高い職業だったとか)

 それだけ面白い本なのですが、哀しいかな、明らかな間違いが散見します。不勉強なこんな私がすぐ簡単に見つけてしまうのですから、著者だけでなく編集者、校正者は何をやっているんでしょうか?教養度が落ちているのかと心配になります。

 例えば、83ページで出てくる「レオナルド・ダ・ヴィンチはフランス・パリの地でそっと人生の幕を閉じました。」という部分。そんなわけないでしょう。ダビンチが亡くなったのは、フランス中西部ロワール地方のアンボワーズです。晩年、仏国王フランソワ1世から招かれて与えられたクロ・リュセ城で、です。イタリア人(当時国家はありませんでしたが)のダビンチの代表作「モナリザ」がイタリアではなく、パリのルーブル美術館にあるのはそのためです。

 もう一つは398ページ。「ポールとジョージが2人交代でメイン・ボーカルを務め」というのはビートルズ・ファンでなくともあきれた大間違い。当然、「ジョン(レノン)とポール(マッカートニー)が2人交代でメイン・ボーカルを務め」でしょう。常識過ぎて、こんな間違いがあると本書全体の信用を落としかねません。

それに「世界史」と銘打ちながら、おおよその年号が、わざとなのかあまり出てきません。せめて、何世紀かぐらい明記すべきです。

 などと色々とケチを付けましたが(笑)、この本は、「会計」をキーワードに人間ドラマと歴史が満載です。

 ◇簿記はイタリアで誕生した

 例えば、銀行のBankは、14世紀初頭(と本文には書いてませんが)、イタリア・ヴェネツィアの机Banco(バンコ)から始まったといいます。銀行員とは、「机の上で客とカネのやり取りする者」ということだったのです。カトリック教会が絶対的権威を持っていた時代で、当時、カネを貸した銀行は客からウーズラと呼ばれる金利を取ることは禁止されていました。唯一許されていたのがユダヤ人で、当時の状況はシェークスピアの「ベニスの商人」などに活写されます。

 その後、ヴェネツィアの銀行は、融資に当たってウーズラは取れないが、金利ではない「失われたチャンスの補償」という苦し紛れの名目で、実際は金利を取ることにしました。この「補償」をウーズラと区別して「インタレッセ」と呼び、現在の利息interest の語源になったといいます。

 また、1602年(と本書には書かれていませんが)、新興国オランダは世界初の株式会社といわれる東インド会社を設立します。これまで、ほとんど身内や親戚などから資金を集めて事業を行っていた商人は、この後から見知らぬ(ストレンジャー)株主から資金を集めることになります。彼らに対しては、「正しい計算と分配」について最低限の説明責任を果たさなければなりません。この説明報告 account for が、会計 accountingの語源になったといいます。

 さらに、18世紀半ばに始まった(これも書いてない)英国の産業革命。その原動力となった蒸気機関は、石炭を採掘する際に坑道に溢れた地下水を排出するポンプを動かすために発明されたのだそうです。知りませんでしたね。その蒸気機関から機関車がジョージ・スティーヴンソンらによって発明され、世界で初めて鉄道で蒸気機関車が走ったのは、その130年後にビートルズを生むことになる貿易港都市リヴァプールと新興工業都市マンチェスター間でした。同時に世界初の鉄道死亡事故(禁止されたにも関わらず、給水・給炭で停車していた機関車から元商務相が勝手に下車して線路上で轢かれて死亡)が起きたといいます。これも初めて知る逸話でした。

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 まだ半分しか読んでいませんが、よく調べて書かれています。よく売れているということですから間違いを訂正するなど改訂版を出せば、後世に読み継がれると思います。

スパコン「富岳」が世界一、おめでとうございます!

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 昨日、「ブログを書き続けることが億劫になった」と正直に吐露したところ、このブログを熱心にお読み頂いているYさんを始め、皆様から「是非続けてください」とのメッセージを頂きました。しかも、昨日は普段の2倍以上のアクセスがありました。有難いことです。

 「ほとぼりが醒めてから」再開しようかと思っていましたが、早速書きたいことが出てきてしまったので、もう再開することにしました。懲りませんねえ(笑)。

 6月24日。今日ついに一律給付金10万円が地元の銀行に振り込まれました!やっとですが、やったー!です。高額商品の返済に充てます。はい、これで終わりなんですが、これだけではあっけないので、続けます。懲りませんねえ(笑)。

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 いつも、このブログの写真を使わせて頂いたり、歴史的証人として当時の体験談を伺ったりしてお世話になっている満洲研究家の松岡將氏の御子息である松岡聡・理化学研究所計算科学研究センター長が、開発リーダーとして陣頭指揮を執った富士通製スーパーコンピューター「富岳」がスパコンの計算速度ランキング「TOP500」で世界一になった、というニュースが昨日飛び込んできました。

 日本勢が首位を奪うのは、蓮舫さんから「2位じゃ駄目なんでしょうか?」と指弾された先代の「京(けい)」以来9年ぶりなんだそうですが、久しぶりの明るいニュースで嬉しいじゃあありませんか。

 富岳の計算速度は1秒間に41・6京回(京は兆の1万倍)、と言われても何のことか素人にはさっぱり分かりませんが、昨年まで首位だった米国製スパコンを2倍以上引き離したという話ですから、凄いことです。ただし、進境著しい中国が「富岳」の2倍の性能を持つスパコンで王座奪回を狙いながら、今年は間に合わなかったということで安閑としてはいられませんが…。開発費として国費だけで1100億円も投入した国家プロジェクトですから、センター長としての重責は相当なものだったと推測されます。まずはお疲れ様でした。そして何よりもおめでとうございます。

 もし、ご興味があれば、「富岳世界一獲得記者会見」がユーチューブで御覧になれます。

露悪趣味のブログを書き続けるという億劫さ=辺見庸氏の文明批判を聞いて

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作家辺見庸氏がNHK-Eテレの「こころの時代~宗教・人生~」という番組に出演し、「緊急事態宣言の日々に」というタイトルで、新型コロナウイルス感染拡大がもたらした世界を深く深く思索し、鋭い洞察力で分析していました(放送は6月13日)。

 緊急事態宣言をテコにして、個人の自由を奪い、監視しようとしている権力者たち。それにあまり頓着しない大衆。そんな事態に辺見氏は、憂い、嘆き、心の底から呻きます。まさに「坑道のカナリア」です。氏の御尊父は同盟通信記者、本人は共同通信記者出身ですから、政治や社会批判は舌鋒鋭く、病気で体調を崩したとはいえ、衰えていません。

 アフターコロナというか、ポストコロナというか、ウイズコロナの時代が早くも叫ばれ、政府は「新しい生活様式」を推奨します。「何でそんなことまでお上から言われなければならないんだ」と辺見氏は憤ります。そして、店頭で売り切れ続出の消毒液が1万5000円もの値段で販売している広告を目にしてキレます。新型コロナで、金持ちと貧乏人との格差はますます広がることから、「弱者と貧者を切り捨てることがニューノーマルになる」と断言するのです。(記憶で書いているので、細かい数字などは間違っているかもしれません)

 これから書くことは、辺見氏は私の尊敬する作家の一人ということを前提に、彼を貶めるつもりは全くないことを意図した発言ですが、この番組を見て、彼の「毒」に当てられた感じでした。こういう批判は誰かがしなければならないし、言葉や音声で具象化して叫ばなければならないし、それは辺見氏が一番相応しい役割だと思っています。が、それでも、聞いていて段々苦しくなってきました。彼の世の中の見方や分析にも違和感を覚えました。一言でいえば、辺見氏と同じように追い詰められた考え方に捉われた人があと10人もいれば、集団パニックになるのではないかと危惧してしまったわけです。

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 彼の言わんとするところの貧富の格差拡大も、弱者、貧者切り捨ても、何もアフターコロナから始まるわけではなく、もう20世紀どころか、人類の歴史始まって以来延々と行われてきたことです。新型コロナで不況になり、パンデミックで世界は惨憺たる有り様になることでしょうが、コロナが終息すれば、その後の世界は何も変わらないと私は確信に近い形で思っています。人間の心因性が何も変わらないからです。ヒトは相変わらず、裕福になりたいという願望を持ち続け、他人より優位に立ちたいと思い続ける限り、何も変わらないからです。効率主義にはますます拍車がかかることでしょう。人々はコロナのことは忘れ、また100年後に新型コロナが蔓延すれば、未来人は過去の我々の作為を振り返り、あまりにも共通点が多いことに驚くことでしょう。

 辺見氏の叫びは共感できますし、彼の真骨頂である鋭い文明批評は100年後も読み継がれることでしょう。しかし、その作為的あざとさが、どうしても喉元に引っかかってしまうのです。人を怖がらせ、絶望にさせ、名状し難い暗い気持ちにさせられるせいなのかもしれません。

 「坑道のカナリア」としていち早く世間に危険を知らせることは素晴らしいことです。しかし、テレビに出たり、書いた文章を出版して代償を得た上でのことです。それがプロだから、世間で認められているから許されているということなら、「これは素晴らしい」「これは美味しい」と笑顔でコマーシャルに出ているタレントさんにも同じ論理が適用することができるはずです。

 木で鼻をくくったような言い方になってしまいましたが、プロの表現者には共通して自己顕示欲や露出願望といった作為がどうも見え隠れしてしまいます。「嫌あな感じ」がします。

 となると、こんなブログを書いてネット上に公開している、そういうお前は何なんだ、ということになります。何様だ、というわけです。そうですね、認めます。露悪趣味の権化みたいなものです。

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 今話題になっている公職選挙法違反の買収容疑で逮捕された前法相で衆院議員の河井克行容疑者(57)と妻で参院議員の案里容疑者(46)の資金源は、自民党党費からの破格の1億5000万円で、その党費が政党交付金だとしたら、原資は回りまわって国民の税金になるのではないか?国民の血税で買収?許せない。ーこんなことを書いても、事態は何も変わることなく、所詮、犬の遠吠えか蟷螂の斧で、ただ言いたい放題に言っているだけで、ワザとらしい…。露悪趣味もいいところだ、お前も同じ穴のムジナじゃないか、となるわけです。

 そう指弾されると、全く弁解の余地はありません。どうも今年で15周年になるこのブログを書き続けていくことが億劫になってきました。

茨城県笠間市の稲田禅房西念寺=親鸞聖人をたずねて

 コロナ感染者が一向に減らないのに、19日から県境封鎖の関所も全面解除され、全国で行動の自由を得ることができましたので、好きな城郭と寺社仏閣巡りを再開することにしました。

 色々と行きたい所があるのですが、差し迫って優先したかったのが、親鸞聖人(1173~1262年)が「教行信証」を執筆し、関東布教の拠点とした茨城県笠間市の稲田禅房西念寺でした。このかつて「稲田草庵」と呼ばれた地に、親鸞聖人と家族は20年(1214~35年、数え年42歳から63歳にかけて)も住んでいたそうです。浄土真宗別格本山です。はい、実は今、「教行信証」を読んでいるのです。

西念寺 この写真が一番有名でしょう

 私は無鉄砲ですから、あまり事前に計画を立てるのが苦手です。笠間市と言えば、笠間焼で有名ですから、ついでに色々と見て回ろうかと、スマホで時刻表などを調べたら、何と自宅から電車と歩きで往復5時間も掛かることが分かり、笠間焼巡りは諦めて、「西念寺」一本に絞ることにしました。

西念寺

 電車はかなり空いていました。乗り換え駅では、「全面解除されましたが、慎重に行動してください」とのアナウンスもあり、まだ多くの人は警戒しているようでした。

 栃木県の小山駅から水戸線に乗り換えて、最寄り駅の「稲田」に到着。駅長さん1人しかしない小さな駅で、下車したのは私一人でした。駅前に商店街のない簡素な町で、心寂しくなりました。観光案内では駅から歩いて15分でしたが、狭い住宅地に紛れ込んでしまい、境内に着くのに25分ほど掛かってしまいました。

 参拝者は数人おりましたが、間もなく帰り、しばらくは、私一人が境内を散策しました。親鸞聖人の聖地ですから、もっと門徒衆が押しかけているのかと思っていたので、拍子抜けしてしまいました。

 上の写真は、修験者弁円が、親鸞聖人の命を狙おうと襲いますが、逆に、回心して親鸞の弟子明法房になったと言い伝えられる場所です。

西念寺の本堂

 上の写真は本堂ですが、中に入れました。薄暗い中、誰もおりませんでしたが、記帳してきました。例えは、間違っていると思いますが、どこかカトリック教会の祭壇のようなきらびやかな金色に輝く仏壇で、まぶしいほどでした。御本尊様は阿弥陀仏だと思われますが、中に隠れている感じで分かりませんでした。

 本堂内の写真撮影は控えました。

 案内掲示板はなかったのですが、恐らくは親鸞聖人のお姿かと思われます。ここに滞在していたのは40歳代から60歳代初めですから、年齢的に合った像に見えます。

 本堂を向かって右側が山道になっていて、親鸞聖人にとっては若い頃に20年間も修行した比叡山を彷彿とさせたようです。

 この看板がその説明文。

 越後に流罪となった親鸞聖人の関東布教の拠点として、健保2年(1214年)、この稲田草庵の地を提供したのが、常陸国稲田の領主だった宇都宮(稲田九郎)頼重で、彼も親鸞に師事して、頼重房教養という法名を称したという墓標記です。この教養は、親鸞の消息「末燈鈔」第九通の「教名」(けうやう)という説もあります。

 上の看板の説明にあるように、天正・慶長年間に庇護者の宇都宮氏が断絶し、西念寺は荒廃してしまいます。

 その荒廃ぶりを嘆き、聖地を復興したのが、笠間城主松平康重の家老石川信昌だったことが書かれています。知りませんでした。

太子堂
親鸞聖人御頂骨堂

 親鸞聖人は京都で入滅されますが、ここの稲田禅房二世救念の願いにより、聖人の御頂骨を分与され、この地に分骨したお堂を建てたことが書かれています。

 もちろん、お堂の敷地内には入れません。

 西念寺を辞すると、ほど近くに林照寺があります。これは、浄土真宗の単立寺院で鎌倉時代に誠信房によって開基されたといいます。

 親鸞による関東布教で、多くの弟子が育ち、下野、常陸、下総にはかなり多くの真宗系の寺があります。いつか、寺巡りをしたいと思ってます。

 JR水戸線稲田駅近くに戻り、ランチをしたお蕎麦屋さん「のざわ」です。実は、食事ができるお店は、近辺にこの1軒しか見当たらず、当然のことながら、昼時は満員。20分ぐらい外で待ちました。

 天ざると地酒「稲里」1合で1936円也。昼間からお酒とは!煩悩具足の凡夫、悪人です。

稲田神社

 電車は1時間に1本しか通っておらず、55分も待ち時間ができたので、また国道50号沿いに、西念寺の方角に戻り、途中で見かけた稲田神社をお参りすることにしました。

 創建は1200余年といい、式内大社ですから由緒ある神社でした。

 御祭神は、スサノオの妻である奇稲田姫命(クシイナダヒメノミコト)。稲田という地名は稲田姫から取られたのでしょうか?

 かなり急勾配の階段でした。

 またして、誰もいない本殿で、コロナの早期収束をお祈り致しました。

 神社の横は結構広い、あまり整備されてはいない運動広場のようなものがあり、その前に、この「忠魂碑」がありました。弾丸の形から、日清・日露戦争の戦没者の慰霊のように見えますが、詳細は分かりません。

 以上、久しぶりの小旅行でした。ほんの少しだけ親鸞聖人を身近に感じることができました。「教行信証」を読むに当たり、西念寺を思い出すことにします。

都知事選に注目と、あるブロガーの弁明

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 18日に東京都知事選が告示され、過去最多の22人が立候補しました(7月5日投開票)。現職の小池百合子さんが、暴露本「女帝」出版もものかは。恐らく再選することでしょう。立憲民主や共産、社民の支援を受けた元日弁連会長の宇都宮健児氏と、れいわ新選組代表の山本太郎氏が、「反小池」票を分散してしまうからです。

 東京都の予算は、スウェーデンの国家予算に匹敵すると言われてますから都知事は強大な権力です。でも、今回のコロナ禍で都の貯金はほとんど使い果たしてしまったという話も聞きます。コロナ対策や五輪問題が選挙戦の焦点になることでしょう。私は都民ではないので、選挙権がありませんが、注目しています。

 それにしても立候補が過去最多の22人ですから、色んな方が出馬されていますね。政党代表や元副知事といったその筋のプロのほか、弁護士、薬剤師、作家、ミュージシャン、歌手…。今の時代を反映してか、ユーチューバーなんておられますね。私は、Wi-Fiは月に6GB程度しか契約していないので、ユーチューブはあまり見ないのですが、中には年に何億円も稼ぐユーチューバーがいるらしく、子どもたちの将来なりたい職業のナンバーワンだとか。驚くしかありません。

 私は、本当に狭い世界で生きているので、漫画も読みません。私が知らないだけで、何百万、何千万部も売れている人気漫画があるらしく、作者の年収も億を超えるとか。いつぞや、1億6000万円もする都心のマンションをローンではなく、さらりと現金で買ってしまう漫画家がテレビに出演していたので唖然としたことがあります。

 本は読みますが、決まってノンフィクションか歴史もの、古典、宗教関係なので、サスペンスとかスリラー小説は読みません。そしたら、森博嗣さんという推理小説の作家が、印税収入が20億円を超え、「お金の減らし方」なる本まで出版されたとかで、これまた吃驚です。大変失礼ながら、1957年生まれの森氏のことを小生は全く存じ上げていなかったのですが、大ベストセラー作家らしく、作品の多くがドラマ化されているそうです(テレビのサスペンスドラマは全く見ないからなあ…)。森氏は、名古屋大学の工学博士号まで取得し、現在は2000坪の自宅敷地に線路を敷いて、毎日、趣味の機関車を運転して広大な庭巡りをして、1日1時間の範囲で執筆を続けているそうです。ポカンと口が空いてしまいます。

 都知事選の話からつい一人で脱線してしまいました(笑)。

 私は推理小説家にも、漫画家にも、ユーチューバーにもなれず、単なるブロガーとなり、年収1億円どころか、1万円ぐらいでしたっけ? 忘れてしまいましたが、年間収益はそんなもんです。えっ?そんなにない?(笑)。「このブログには最近やたらと広告が付く。動画広告まで付く」とお嘆きの皆様。そういった台所事情を察して頂き、文字だらけのつまらないブログでも、広告をクリックしながら(笑)、大目に見て頂ければ幸いです。

 【追記】

 2017年9月に新しく独立してサイトを開いたこのブログは、いつの間にか、30万ページビューを超えておりました。3年弱で30万ですから凄いペースです。これも愛読賜っています皆様のお蔭です。改めて感謝申し上げます。

あの「週刊新潮」までもが「政商」竹中平蔵氏とパソナを批判しているので驚きです

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 櫻井よしこさん、百田尚樹さん、高山正之さん…超硬派のゴリゴリ保守派論客のコラムを連載している体制護持派の「週刊新潮」が本日発売の6月25日号で、まさか、保守派政治活動家竹中平蔵氏を批判する記事をトップに掲載しているので大吃驚。思わず買ってしまいました。いまだにNHKも産経新聞も竹中氏も採用しているのに、週刊新潮は反旗を翻したのでしょうか?

 題して「疫病禍を拡大させた『竹中平蔵』がコロナで潤う!『Go Toキャンペーン』も食い物にする『パソナ』の政治家饗宴リスト▼『西村経済再生大臣』が『パソナ迎賓館』で喜び組に籠絡された行動履歴」。さすがですね。週刊新潮は、創刊編集長で「怪物」と呼ばれた新潮社のドン斎藤十一氏以来の伝統があり、タイトル付けは天才的です。もう少し中身が読みたい微妙なところで、「寸止め」しています。

 東洋大教授、実は、人材派遣会社大手「パソナ」会長、実は、法律をつくって自社に還元する「我田引水」政策を陰で操る「政商」竹中平蔵氏については、昨日17日付東京新聞が「竹中氏 コロナ焼け太り? パソナG会長 持続化給付金 電通側から170億円で委託」「『派遣』旗振り 会社の利益」のタイトルで「こちら特報部」で特集しておりましたが、「週刊新潮」の記事の方が力作でした。凄い取材力です。

 記事によると、パソナグループは、持続化給付金の業務委託だけでなく、観光需要喚起対策の「GO To キャンペーン」でも3000億円超の委託に成功しましたが、批判が集中し、目下ペンディング状態だとか。しかし、これら巨額の委託事業を請け負うには、政界との強力なパイプがなければ、もしくは政治家そのものにならなければ実現できないわけです。何か、江戸時代の豪商と役人の関係みたいですね。

 東京都港区元麻布の高級住宅街に「仁風林(にんぷうりん)」と呼ばれるパソナの福利厚生施設があるそうですが、実は、南部靖之・パソナグループ代表が政財官界のVIPを個別に接待するサロンだというのです。同誌は、ここに接待された大物政治家の名前をリストアップしていますが、安倍晋三首相、菅義偉官房長官のほか、今コロナ禍でテレビの露出が過度に多い西村康稔経済再生担当相の名前も。旧民主党系では前原誠司、山尾志桜里両氏の名前もありますね。(覚醒剤取締法違反で歌手ASKAが2014年5月に逮捕された際、共に逮捕された愛人女性が元パソナの美人秘書で、この「仁風林」でホステス役を務めて二人が初めて出逢った場所だったとか。うーん凄い話ですねえ…)

 もう一つ、神戸出身の南部代表のお膝元である淡路島に、2008年からパソナが事業を開始します。廃校となった小学校(淡路市がパソナに無償譲渡したらしく市議会で問題になっているとか)を再生したカフェ・レストラン「のじまスコーラ」を開き、サンリオの人気キャラクターを前面に押し出す施設を展開するなどして、観光客を呼び込み、「迎賓館」までつくって、度々、西村経済再生担当相や安倍昭恵首相夫人らを招待し、今や、淡路島は地元にはカネが落ちてこない「パソナ島」と言われているそうです。

 パソナ島ですか…。こんなのどこの新聞も書いていないし、初めて聞きました。大手新聞記者は何をやってるんでしょうか?

社会の縮図と社会の矛盾=斎藤充功著「ルポ 老人受刑者」を読む

WST National Gallery Copyright par Duc de Matsuoqua

 ノンフィクション作家の斎藤充功(さいとう・みちのり)氏から新刊が送られてきました。昨年の今頃、「今度、中央公論から本を出すんですよ。頼まれちゃってねえ」と嬉しそうな声で突然、電話を頂きましたが、ついに完成したのです。「ルポ 老人受刑者」(中央公論新社・2020年5月10日初版)という本でした。

 私がジュウコウさん(と勝手に呼んでいるのですが)の謦咳に接することになったのは、彼の「日本のスパイ王ー陸軍中野学校の創設者・秋草俊少将の真実」という本で、このブログにその読書感想文を書いたことがきっかけでしたから、スパイと老人受刑者物語を、どう結び付けていいのか最初は分かりませんでした。

 でも、読み進めていくうちに、ジュウコウさんが老人受刑者に興味を持ったのは昨日今日の話ではなく、もう何十年も前から企画を温めていたテーマだったことが分かりました。何しろ、序章「漂流する老人受刑者」では、今から36年も昔の1984年10月にインタビューした呉刑務支所(現広島刑務所呉拘置支所)の大正生まれの老受刑者らが登場します。刑務所取材歴40年弱、筋金入りだったのです。

 法務省の資料によると、2007年の全受刑者7万0989人に対して、65歳以上の高齢受刑者は1884人で全体の2.65%だったのに、その10年後の2017年には同4万7331人に対して同2278人で全体の4.81%を占めたといいます。特に70歳以上の受刑者が10年前と比べ4.8倍と急増。さらに再入所率(再犯者)は7割を超えています。

 2017年の高齢受刑者2278人の罪状は、70歳以上を見てみると、第1位が窃盗で54.2%、次いで、覚醒剤関係が9.4%、道路交通法違反8.4%、詐欺7.2%と続いています。1位の窃盗の中身では、万引きと自転車盗が90%を超えています。つまり、高齢受刑者の多くが、強盗殺人などの凶悪犯ではなく、数千円の万引きや無銭飲食などで捕まった者が多いのです。再犯だと軽犯罪でも情状酌量も執行猶予も認められず、2年は実刑を食らい、5回も10回も刑務所を出たり入ったりしている様が、受刑者とのインタビュー通して浮かび上がります。

 高齢者ともなると、出所しても仕事が見つからず、また、再び万引きをして捕まって入所する人が多く、まさに悪循環です。受刑者の世界は確かに特別かもしれませんが、日本の超高齢社会の縮図というか、社会の鏡を写している感じでした。

 ジュウコウさんは先日、79歳の誕生日を迎えられましたが、至ってお元気で、本書では殺人罪等で無期懲役となった高齢受刑者の殺人現場のスナック(今は消滅)を訪ねて、山梨県まで足を運んだりしています。相変わらずフットワークが軽い恐るべきルポライターです。

 受刑者だけでなく、矯正医療センターの看護師さんや、元矯正局長らにもインタビューしていますが、正直、あまり楽しい話はなく、スカッとする話も出てきません。死刑問題の質問には口を噤んだりします。私も帯広にいた頃、刑務所を視察させて頂いたことがあります。条例で決まっているのか、2年に1回程度、マスコミに現状を公開しているのです。その時は、受刑者と面会することはありませんでしたが、獄舎というか誰もいない独房とかは見学させて頂きました。帯広は、真冬はマイナス35度にもなる極寒の地ですから、冬は寒くて大変だろうなあ、と実感しました。

 老受刑者は、帯広ではなく、比較的温暖な呉拘置支所などに収容されますが、競争率(?)が高く、全員が入所できるわけではありません。それに、老受刑者ともなると色んな病気に罹っています。中には認知症を患っている受刑者もおり、紙オムツが倉庫に山積している拘置所もありました。「刑務所というより、病院か福祉施設のよう」という関係者の比喩も的確です。

 それにしても、日本では数百円のお菓子を盗んでも再犯なら老人でも簡単に牢屋にぶち込まれるというのに、高位高官ともなれば、賭けマージャンの常習犯でも何らお咎めなく、受刑者にもなりません。この矛盾。この不条理。この体たらく。

 【追記】

 本日発売の「週刊新潮」6月25日号にも「ルポ 老人受刑者」の書評が掲載されていました。