語学取得に近道なし

 

 

 

苫米地英人著「頭の回転が50倍速くなる脳の作り方」(フォレスト出版)を読んでみました。

資格試験、語学試験、就職試験、入学試験、昇格試験などに「短時間」「最速」で合格したり、目標を達成するテクニックを伝授しますーというのですから、読まずにいられませんでした。著者は1959年生まれで、米国のカーネギーメロン大学で博士号を取得した「ドクター」です。

 

それで、やはり、私見なのですが、「そんなものはない」ということを私自身が発見したということでしょうか。著者の思わせぶりな書き方で、できそうな錯覚にはなりますが、結局、その「科学的手法」についても、具体的にイメージさえ湧かないのです。要するに、残念ながら、著者は私のような読者を説得できていないんですね。あらゆる方向からの反論を予想して書いてくださいとまでは、言いませんが、その「科学的手法」の一歩手前の入り口で立ち往生させられたような読後感でした。

 

少し参考になったのは、頭を鍛えただけでは頭はよくならない。新しい脳をつくることが大切だという話です。例えば、語学なら、「古い」脳の中にインプットするのではなく、新しく「語学脳」を作ってしまい、そこに、朝から晩までDVDを原語で見て聴いて、叩き込んでしまう。そうすると、今まで何を言っているのか聞き取れなかったのに、ある日、フト、その語学がそのまま理解できるというのです。

よく「寝ながらにして」「聴くだけで」語学をマスターしてしまうというCDやテープを発売している広告を見ることがあります。私なんか、そんな簡単にできるかなあ、と思ってしまいます。語学修得にはやはり、毎日毎日、集中して愚直に、せっせと暗記するしかないんじゃないか、王道はないと自分の経験から思ってしまいます。苫米地氏は「丸暗記はダメ」と力説していますが…。

ただ新しく「語学脳」を作ってしまう、という「意見」には賛成です。私自身、学生時代にフランス語を専攻しましたが、当時は実験的な「クレディフ」という教育法で、学生に文字を見せず、スライドの映像を見せて、耳からフランス語を修得させるというやり方でした。細かい内容は忘れましたが、若いピエールとミレーユが出会い、色んなことに遭遇する話です。最初、二人は相手に対して Vous という他人行儀の言葉遣いでしたが、親しくなるうちに Tu という友人や恋人同士などが使う言葉に変化していく微妙な流れが分かるまでうまく作られていました。

 

その授業のクラスでは、学生は意味を取る前に赤ん坊のように口真似させられるだけです。どういうスペルになるのかも初めは見せません。文法も教えません。耳から、音からだけで、修得させるようにするのです。

大学生ともなると、生意気盛りですから、今さら赤ん坊のように口真似するのに抵抗感を持つ学友も多かったのですが、私自身はこのメソッドが一番良いと思います。おかげさまで、苫米地氏の言葉を借りれば、「フランス語脳」という基礎ができて、 ‘ Vous avez mal? ‘ (痛いですか?)とか ‘ Nous n’avons pas de la chance,  ce soir ‘(今晩はついてなかったなあ)といったフレーズは今でも忘れることがありません。

今、気付いたのですが、音は覚えているのですが、スペルについては自信がないんですよね。つまり、文字から入ってこなかったからです。これは、ネイティブと同じ語学取得法です。アメリカ人にしろ、フランス人にしろ、日本人から見て驚くほど、スペリングが苦手な人がいます。

 

翻って、日本語の場合は文字から入りますね。同音異義語が多いからです。ようこさん、と言っても「洋子」「陽子」「瑤子」「容子」「庸子」…と沢山いますから、「どういう漢字を書きますか?」と相手に聞き返します。

これが欧米語と日本語の大きな違いです。だから、日本人はなかなか語学をマスターできないのではないでしょうか。