本当に久しぶりの歌舞伎鑑賞

歌舞伎座

先日、この渓流斎ブログで、ジョン・レノンと歌舞伎のことを書いたら、急に、そして無性に歌舞伎を観たくなってしまいました。

しかし、フランスと言えども、フランスはあまりにも遠し。

いや、間違えました。歌舞伎と言えども、歌舞伎はあまりにも高し。一等席が1万8000円ではとても手が出ません。

(実は、歌舞伎は江戸時代の庶民の娯楽というのは大嘘で、木戸銭は今とあまり変わらないので、庶民なんか行けるわけがない。裕福な町人か、落語に出てくるような金持ちお坊ちゃんか、大奥の絵島ぐらいしか、観ることができなかったんですよ。明治以降も同じ)

それでも、日頃、遊興に目もくれず、一心不乱になって働いている自分へのご褒美として、たまにはいいか、ということで、清水の舞台から飛び降りる覚悟で、二等席額面1万4000円也の切符を購入しました。

思い起こしても、生の歌舞伎は、何年ぶりか思い出せないくらいです。銀座の歌舞伎座が新装となってから、一度も中に踏み入れていないので、10年ぶりかもしれません。

歌舞伎座正面ファサード

自分で言っても何なんですが、こう見えても、渓流斎は、芝居巧者なんです。そんな言葉はないかもしれませんが、歌舞伎に関しては、前世紀末、ということはもう20年近く昔に、毎月欠かさず観劇しておりました。そのお陰で芝居を観る「基礎体力」を獲得することができました。

最初は、何を言っているのか、科白が聞き取れず、清元と長唄の区別もつかず、勿論、「音羽屋」も「中村屋」も掛け声の違いも分かりませんでした。

それが、半年間、イヤホンガイドのお世話になったあと、見事に開眼して(笑)、一年、二年…と続けて観ていくうちに、すっかり「通」になったような誤解が生まれてくるものです。

そして、1回見方を会得すると、ブランクがあっても一生困らない。何故なら、歌舞伎というのは、「様式美」が全てと言ってもよく、悪く言えばワンパターンですが、良く言えば、厳格な決まり事を踏襲して、型破りなことはしないので、観客も安心して観ていられるからです。

型というのは、それこそ、通だけが分かるもので、「弁慶」にしても、「三姫」にしても、人気狂言は時代が変わっても、それほど変わりませんから、「あ、それは成駒屋さんの型」「あ、それは成田屋の型」「六代目のお兄さんから教わりました」という風に言われ、もし、違いが分かれば、通の中の通です。

久しぶりの歌舞伎は昨日、勿論、東京・銀座の歌舞伎座です。

出し物(昼席)は、季節感に合わせて、秀吉=鴈治郎の「醍醐の花見」と福岡貢=染五郎、万野=猿之助の「伊勢音頭恋寝刃」、熊谷直実=幸四郎の「熊谷陣屋」でした。

実は、小生、吉右衛門と仁左衛門の贔屓なんですが、兎に角、一刻も早く芝居の世界に没入したかったので、演目を中心に選びました。

20年ほど昔、歌舞伎座に通い詰めたことを先に書きましたが、「新装開店」した新しい歌舞伎座と比較すると、驚くほど変わっていないので、逆に驚いてしまいました。伝統の重さでしょうかね。

3階に亡くなった役者さんを偲んで、顔写真のパネルが並んでいますが、そこには、若くして亡くなった勘三郎丈や三津五郎丈の姿があり、哀しくなりましたね。

昭和24年に亡くなった六代目菊五郎は、生まれていないので観られませんでしたが、ジョン・レノンが感激した歌右衛門は、私も観ているんですね。

もう40年近くも昔の学生の頃、お金がないので、3階の一幕見席でしたが、歌右衛門丈は、「伽羅先代萩」の乳母政岡役。確か、息子の千松役は、まだ少年だった橋之助(現八代目芝翫)だったと思います。

歌舞伎座

新旧歌舞伎座の違いと言えば、席順の名称が、昔は「イ、ロ、ハ、ニ…」順でしたが、今では「1、2、3、4…」と風情のないものになってしまいました。

昔は、「トチリ」(つまり、前から7、8、9番目)の席が特等席と言われ、偉い歌舞伎評論家様や新聞記者さんらがお座りになっておりました。

当時は、既に狂言台本や舞踊の脚本を何本も書かれていた萩原先生や依光先生、和田先生、水落先生、天野先生、藤田先生らがいらっしゃいました。

今回、私の席は二等席ながら1階の最後列、22番目の正面でしたが、特等席と変わらないぐらい良く見えて、オペラグラスの必要性もありませんでした。しかも、月曜日だったせいなのか、前2席、横5席も空いていたので、ゆったりと観劇できました。

ただ、上演中にお喋りを続ける芝居悪者オバタリアンには興醒めでしたが。

あと、昔は、3階の大向こうの席に、掛け声をかける人が大勢いましたが、追放されたのか分かりませんが、今は1人か2人ぐらいで、声も殆ど響きません。彼らは何処に行ってしまったのかしら。やはり、役者が見栄を張った時、掛け声が聞こえてこないと締まりがない感じでしたね。

お昼は、いつもの3階の「東京 吉兆」で、6500円のランチで舌鼓を打った、と日記には書いておこう(笑)。