小林哲夫著「シニア左翼とは何か」seventh edition

ワイデン  Copyright Par Duc Matsuocha gouverneur

 またまた、同僚の吉野君から勧められた本を読んでいます。
 
 小林哲夫著「シニア左翼とは何か」(朝日新書)です。

 タイトルからして、あまり読む気がしなかったので、最初はお断りしたのですが、それでも吉野君は「斜め読みでいいから」というので、仕方なく、途中から読み始めました。

 そしたら、面白いの何のって!(笑)。笑ってしまうほど面白いのです。1960年生まれの著者については知りませんでした。教育ジャーナリストを名乗っていますが、もともとは新聞記者か、出版社の編集記者でもやっていたのかもしれません。いわゆる「文章を読ませる」定型を身に着けている感じです。

 ダビンチ  Copyright Par Duc Matsuocha gouverneur

 この本の内容に入る前に、我ながら、最近は本を買わなくなったなあ、という深い感慨があります。

 以前は、月に5~6冊以上は律儀に買っていたと思います。今では1~2冊がいいところでしょうか。後は、自分が払った税金を有効に使おう、と図書館で借りています(笑)。狭いアパートなんで収納スペースもないこともあります。

 以前は、多い時は、仕事でもありましたが、月30冊以上読んでいたことがあります。1日1冊のペースです。月50冊の栗林閣下に負けますが、その当時は、起きている時は、ほとんど本を読んでいた記憶があります。電車やバスの中は当然で、歩いている時でもです。(笑)

 本を毎月、律儀に買うようになったのは、著名な評論家T氏の書いた「思考の技術」か「知のソフトウエア」か忘れてしまいましたが、そこには、とにかく本は借りたりせず、自分で購入すること。文庫ではなく、ちゃんと単行本を買うこと、などと書かれていたので、忠実にそれを実行したまでの話でした。

 それが、急に、借りる派に「転向」したのは、昨年、ある事情で蔵書を処分することになったのがきっかけです。このT氏の著書も泣く泣く手放したのですが、それが、驚き、桃の木、山椒の木でして、値が付かなかったのです。つまり、「泥棒、ただで持って行け」の世界です。一冊3000円もしたあの日本人なら誰もが知っている評論家でノンフィクション作家の本が、中古では売り物にならないのです。恐ろしい無教養の時代になったと思いますが、捻くれてみると、T氏が盛んに、読者に「本は自分で買え」と説いたのも、自分の商売のための宣撫活動ではなかったのか、と疑心暗鬼になってしまいました(笑)。

 それでも、今でも「知の巨人」と呼ばれて、照れることなく普通の顔ができるのも、東大哲学科に学士入学した時に、ギリシャ語でプラトンを、ラテン語でトマス・アキナスを、フランス語でベルクソンを、ドイツ語でウイットゲンシュタインを、ヘブライ語で旧約聖書を、漢文で荘子集註を読破したという自信の賜物なのかもしれません。

 ラファエロ  Copyright Par Duc Matsuocha gouverneur

何の話でしたっけ?

 そうそう、シニア左翼の話でした。

 昨年は特に真夏の8月30日を中心に、安保関連法にからみ、「SEALDs」の国会前デモが話題になりましたが、(正確には、その頃、私は、バカンスでこの世にいなかったので、後から伝聞で聞いただけですが)彼らと並行して、目立っていたのが、60代から90代のシニア世代だったというのです。

シニア世代は、昔とった杵柄です。著者は、彼らシニア世代を、「戦後派」の80~90歳代、「60年安保」の70歳代後半、「69年全共闘」の60歳代後半…というように、六つの世代に区分けしておりましたが、別の分け方として、「一貫派」とか「復活派」などと指摘しているのです。

山本義隆さんとか、田宮高麿さんとか、森恒夫さんとか、昔懐かしい名前が出てきます。

大量の内ゲバによる死傷者を出した連合赤軍事件をはじめ、1989年のベルリンの壁崩壊、91年のソ連邦崩壊などを経験して、極左運動は、大衆から見放され、解散か、消滅したのかと思っていましたら、どっこい、70過ぎても、現役で活躍している活動家がいらっしゃったとは、新鮮な驚きでした。

特に、復活派の皆様は、歴史の教訓を学んできたのか、不思議な気がしました。極左イデオロギーは、一部の特権階級を生み、平等ではなく、格差をさらに拡大します。スターリンや毛沢東らは、一体何千万人の反体制派を粛清したのか、正確な数字は分かりません。クメール・ルージュのポルポトでさえ、インテリを中心に100万人を大量殺戮したと言われますからね。

極左のシニアの皆さんは、一度もソ連や東欧やキューバに行ったことがなかったのでしょうか?私の些末な経験では、計画経済は、ノルマをこなすだけで、人間のモチベーションを殺し、サービス精神が全くありませんでした。

 ラファエロ  Copyright Par Duc Matsuocha gouverneur

 しかし、その反対に、私は、今絶好調の極右勢力にも加担しません。自分自身は、どちらかと言えば、ご都合主義の日和見主義者ということになるでしょう。

伝統や風習、文化、祭などの年中行事を守り、先人の教えを重んじる伝統主義は好きですが、心身ともに自由を束縛する全体主義は大嫌いなだけです。

そもそも、ヒトを右か左に差別する発想も嫌いです。イデオロギーに振り回されているだけで滑稽です。

ヒトは、孤立無縁では生きていけないので、連帯とか言って徒党を組みたがるのです。

私は、徒党の中で階級闘争に巻き込まれるより、孤立無縁を畏れずに、個人主義を選びますね。